1-7 マリア
綾の言う通り、マリアさんはすぐにやってきた。
綾と僕が勉強会のための机を準備していると、コンコンとドアを叩く音が聞こえて彼女が入ってくる。
「失礼します。マリアです」
マリアさんはいかにもって感じなメイドの格好。
けど、従順というよりは大人っぽく小悪魔な感じで、なによりも美人だ。
「マリア」
「はい。お嬢様。マリアですよ」
「今日は春と勉強会だから」
「あ、坂本春です。綾とは幼馴染の関係です」
僕は慌ててマリアさんにあいさつをする。
「はい。お嬢様から伺っています」
マリアさんが優雅に微笑むが、なにか含みがあるように思えてしまう。
「で、お嬢様」
「何? マリア」
「勉強会とは大人の勉強会ですか? そしたら私は席を外した方がいいと思いますが?」
「なっ?!」
綾の顔が真っ赤になる。
にしてもこの人、何を言い出すのだろうか。
「か、からかわないでよマリア。普通の勉強会だからね」
「そうですか。それは残念です」
心底残念そうな調子でマリアさんが言う。
けど、あの顔は心の底では絶対笑っている。
「それでマリアの役目は、私達がわからない所を逐一丁寧に解説すること」
「私、大人の勉強会がいいのですが」
「マリア。だからそこから離れなさいっ」
「普通の勉強会より楽しいですよ」
「いいのっ!」
綾が声を荒げて怒鳴るが、マリアさんには逆効果。
年下がからかわれるこの光景は、美咲さんと僕の構図にどこか似ていた。
「ということで、マリアも早く準備して」
「はい、わかりました。お嬢様」
マリアさんが形式に乗っ取った一礼をする。
見事な切り替えの速さに、僕は驚く。
「あ、そうそうお嬢様。一つ私から話したいことがあるのですが」
「え?」
綾が戸惑っているあいだに、マリアさんは綾の耳元まで行く。
そして僕をじっと凝視してから、何か一言、二言告げた。
「マ、マリア。そうなの?」
「はい。そうです」
「……」
綾が少しずつ困惑した顔になっていく。
果たして、マリアさんは何を言ったのだろうか。
「は、春」
「何? 綾」
「私、ちょっと席を外すから。春は勉強の準備をしていて。後、マリアも」
結局、綾は慌てて部屋を飛び出す。
というわけでこの部屋に残ったのは、必然的にマリアさんと僕。
しかもマリアさんは、パーソナルスペースの許容範囲を大幅に超える勢いで僕に迫ってくる。
「な、なんですか?」
「いえ、なんでもありませんよ」
そんなことを言うが、全身を舐めまわすように僕を見てくる。
「坂本様」
「はい」
「二つほどお聞きしてもよろしいですか?」
「いいですよ」
と、僕は返事をする。
「では、聞きます。坂本様はお嬢様のことを大切に思われていますか? それと、最近お嬢様に変化の兆しが見えるのは坂本様の影響ですか?」
ずいっと顔をよせて聞いてくるマリアさん。
「どうですか?」
「答えは、その、両方ともはいだと思います」
「そうですか。それは良かったです」
マリアさんが笑顔を見せる。




