3-15 秘密の遊戯(1)
絵里ちゃんが花火を見ていくというので、園内で別れることとなる。
別れる直前に見せた絵里ちゃんの悲しそうな表情に、僕は後ろめたさを感じながらも帰路を歩く。
花火を見る観客でごった返す人いきれ。
その中をかきわけるようにして戻っていく。
駅に着いて電車に乗ると、今日一日の出来事がビジョンとして浮かぶ。
ジェットコースターの連チャンから始まり、いろんなアトラクションを楽しんだこと。絵里ちゃんといろんな話をしたこと。
楽しいことばかりなのに、なぜか寂寥感がこみあげてくる。
それは今、隣に絵里ちゃんがいないからだろうか。
僕にはその感情がわからない。
わからないけど、それでいいと思う。
やがて電車は僕達の街にたどり着く。
僕は電車を降りて、慣れ親しんだ道と下り坂を歩く。
歩きながら、これからの予定を綿密に考える。
なにせ、綾と僕のする秘密の遊戯はディテールにこだわらなければ成立しない。なので、する前にしっかりと準備をしなくてはならない。
家に着き、ドアを開けると直が出迎えてくれる。
「おかえり」
「ただいま」
エプロン姿の直。
そして『努力』のはちまき。
その格好だけで、料理に精を出していることだけはわかる。
「早かったね」
「うん。でも、これからまた綾と出かける」
「そう」
「それで明日は出かけなくなった」
「わかった」
しゃべりながらも、僕は靴を脱ぎ家の中に入る。
家の中は僕が出かけたときよりも片付いているようだ。
「直、掃除した?」
「ん」
「そっか」
狭い部屋を見渡して、僕は納得する。
「春」
「何?」
「これ」
目の前に一冊の本を掲げる。
「『義姉との関係』」
僕は棒読みでその本の名前を呼んだ。
「また美咲さんの代物が出てきたな」
「うん。これがほんとの姉妹本」
さらりとエスプリのきいたことを言う直。
どうしようもない気分にさせられる。
「それはともかく、春」
「何?」
「なんか食べてく?」
「あ、うん。少しだけ」
まだ待ち合わせまでに時間がある。
それまでに腹ごしらえをしておくのもいい。
「あ、でもさ直」
「ん?」
「僕の分の用意してあるの?」
「少しだけ」
そうして、僕は直と一緒に早めの夕食となった。
直の腕はやはりあいかわらずで、いつもどおりの会話しながら夕食を食べ終える。
夕食を食べ終えると、ちょうど良い時間だったので行く準備をして家を出る。
外はすっかり日が暮れていて、星が見えるくらい。
月極駐車場近くの都立公園入り口まで行くと、すでに綾が待っていた。
「春」
控え目に手を振ってくる綾。
片手には、変装用のセットが入っているであろう大きなボストンバックを持っている。
「綾」
「何?」
「待った?」
僕は聞いてみる。
「待ってないよ」
「そう。それは良かった」
「うん。じゃあ、いこっか」
綾がくるりと前を向いて歩きだす。




