3-14 遊園地(10)
絵里ちゃんは、僕から少しだけ離れたところで待っていた。
「ごめん、絵里ちゃん」
「いいですよ、先輩。電話くらいお構いなしです」
「そうじゃないんだ」
「えっと、どういうことですか?」
笑顔だった絵里ちゃんが、怪訝そうな顔になる。
「今からの用事が入ったんだ」
「そうなんですか?」
「うん、ごめん」
僕は誠意を持って謝る。
それから、懇切丁寧に秘密の遊戯以外のことについてを説明する。
「ということは、綾さんとの用事ができたということですね」
「そうだよ、絵里ちゃん」
「そっかぁー」
絵里ちゃんはのびをして、軽い調子で言う。
けど、今にも泣きそうだ。
僕は申し訳なくなってきて、もう一度謝る。
「ごめん、絵里ちゃん」
「いいですよ、先輩」
絵里ちゃんがさらに続ける。
「私、なんとなくわかってましたから」
「え?」
「なんでもないです。それよりも先輩。私のほうこそ、先輩に謝ることがあるんです」
絵里ちゃんは涙をぬぐい、舌を出して笑う。
そのちゃめっけたっぷりの表情が逆に痛々しく感じてしまう。
「今、ちょっとだけ泣いちゃってごめんなさい。それと、実は私、さっきの先輩と綾さんのお話、少しだけ聞いちゃってたのにしらを切ってごめんなさい」
絵里ちゃんが頭を下げてくる。
「これでおあいこですね」
と、絵里ちゃんが言ったときだった。
パーンという音が聞こえて、花火が上がった。
赤、黄、橙、青、緑、紫。
色とりどりのきれいな花火。
「わぁ~」
絵里ちゃんの顔も色とりどりに輝く。
「先輩、私」
絵里ちゃんの顔が近づいてくる。
「好きなんです」
「え?」
「デートが好きなんです。だから、こうして長い時間一緒にデートできただけでうれぱみんでした」
「うれぱみん?」
「うれしいときに出るドーパミンですよ」
「あ、そっか」
僕は、絵里ちゃんとデートの約束をしたときのメールの内容を思い出す。
たった十日くらい前なのに、随分昔のことに思えてくる。
「先輩、忘れっぽいです」
「そうかな」
「そうですよ」
笑いながら言う絵里ちゃん。
涙の跡はすっかりなくなっている。
「今度、デートの穴埋めしてくださいね」
「うん」
「絶対ですよ」
絵里ちゃんが念を押す。
「わかった」
「なんたって私は聞きわけの良い妹キャラ。そこがうりですから。私ならこれくらいでオッケーです」
「そんなつもりじゃなかったんだ、ごめん」
「ほんとですよ」
と言って、僕の背中をポーンと叩く。
「でも、先輩なら許しちゃいますから」
「ありがとう」
「いえいえです」
絵里ちゃんが照れくさそうに笑う。
そして、何かを思い出したように手を叩く。
「先輩」
「何?」
「後、記念にこれください」
指差すのは僕の持っていたトートバック。
「これ?」
僕は不思議に思ってそれを掲げる。
「違いますよ、先輩」
絵里ちゃんは首を振る。
「その手前のポッケからはみだしているものです」
「え、なんか入ってた?」
「はい。入ってますよ」
絵里ちゃんは、僕の持っていたトートバックのポケットの中に手を入れて取り出す。
「イチョウの葉です」




