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3-13 遊園地(9)





 観覧車を降りてすぐ、僕の携帯が振動する。

 ディスプレイの表示を見ると、そこには綾の名前。

 この時間帯にかけてくるのは珍しいので、何かあったのかと勘繰る。


「先輩」


「あ、何?」


 ディスプレイをずっと見つめている僕に、声をかけた絵里ちゃん。


「電話出ないんですか?」


「うん。出るよ」 


「私、少し離れて待ってますね」


 僕が気まずそうな表情していたせいか、絵里ちゃんが気を使ってくれる。 

 絵里ちゃんの少し寂しそうな笑顔を見た僕は、後ろ髪を引かれながらも電話に出る。


「もしもし」


『もしもし』


 沈んだ綾の声。

 覇気がない。


「どうしたの? 綾」


『うん』


 綾はそう言ったきり押し黙ってしまう。

 僕は綾がしゃべるまで、少し待つ。


「……」


『……』


 流れるのは沈黙。

 最近、綾と僕とのあいだに明らかに多くなってきている種類のものだ。


『春』


「何?」


『あのことでお願いがあるんだけど』


「あのことってあれ?」


『そうだよ』


 綾が小さく返事をする。


『それでね。明日の夜になっていたけどね』


「うん」


『それを今日の夜にできない?』


「え、今日の夜?」


『うん。明日、急に家の用事ができちゃったの』


 綾の家庭の事情などは詳しくはわからない。

 だが、お嬢様としての責務を果たさなければならないから忙しいに違いない。


「そっか」


 今、僕はこうして絵里ちゃんと秘密のデートをしている。

 くしくも、綾の秘密の遊戯と同じ秘密事。


 だけど、その重要性は大きく違う。

 本当は天秤にかけるなんて行為はいけないんだろうけど、綾との秘密の遊戯を重視してしまう自分がいる。


 だから、僕は誠意を持って絵里ちゃんに謝ろう。

 なぜなら、今から綾の予定に合わせれば、絵里ちゃんと花火やパレードをみたりすることはできなくなる。


「いいよ。今日の夜」


『ほんとに?』


 綾がびっくりしたような声をあげる。


「僕さ、前に綾から電話来たとき言ったよね」


『え?』


「大丈夫。綾がしたいときはさ、いつでもいいって」


『あ、言ってた。けど、春の予定もきっとあるから』


「うん。たしかに予定はあった」


『ごめん』


「でも、何よりも綾に頼られるほうが大事。だから気にしないでほしい」


『あ、ありがと』


 綾が戸惑ったようにお礼を言う。

 このように、いつも素直な幼馴染でいてほしい。


 けど、もっとわがままであってほしいとも思ってしまう。

 この二律背反は不思議でしょうがない。


「じゃあ、明日予定していた時間でいいんだね」


『うん。大丈夫』


「それじゃあ、切るから」


『うん。バイバイ』


「バイバイ」


 そうして電話を切った。

 





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