3-12 遊園地(8)
雨はすぐに止んだ。
おみやげを見て買った僕達は、気を取り直してアトラクションをこなしていく。
コーヒカップ、お化け屋敷、回転ブランコと順番に楽しんでいくうちに日が暮れていき、すっかりと夕方になった。
それで観覧車に乗り、今特別に開催されている花火を見て、最後はジェットコースターで締めようとの相談をしていた。
「先輩。やっぱり最後はジェットコースターですね」
「そうだね、絵里ちゃん」
「でも、その前に観覧車もありですよ」
そう言って、観覧車の列に並ぶ。
やがて観覧車の順番が来て、僕達は乗り込む。
観覧車は少しずつ上昇していき、景色がだんたんと開けていく。
僕達の街も、とても小さくだけど見えている。
「先輩」
しばらく景色を見ていたが、絵里ちゃんが僕を呼ぶ。
「何?」
「その、今日は先輩に話したいことがあったんです」
「話したいこと?」
「はい。それで、そ、その、恋の相談なんです」
「恋の相談?」
僕は素っ頓狂な声を上げてしまう。
「はぁ、古典的ですよね、私」
「え?」
「な、なんでもないです」
「そう」
「それで恋の相談なんですけどいいですか?」
「うん、いいけど。でも、僕なんか何の参考にもならないと思うよ」
僕がそう言うと、絵里ちゃんは立ちあがってまで反論する。
「そんなことないです。先輩だからこそなんです!」
「あ、絵里ちゃん。落ち着いて」
絵里ちゃんが立ちあがったことで、機体が大きく揺れている。
「あ、すいません」
「いいって」
しかし絵里ちゃんは、しゅんとなって顔を赤くする。
「それで話して」
僕がうながすと、絵里ちゃんがサイドにくくった髪をさわりながら口を開く。
「先輩」
「うん」
「相談とは、私の友達が男の子に手紙で告白されたことなんです」
「そうなの?」
「はい」
絵里ちゃんの相談の内容とはこうだった。
告白された友達には好きな人がいて、その好きな人はどうも自分のことが眼中にないようなかんじらしい。
しかもその人には、本当に微妙な関係の女の子がいる。
さらに、友達は告白した男の子のことを悪くは思っていない。
「絵里ちゃんはどう思うの?」
とりあえず僕は聞いてみる。
「え? 私ですか?」
「そうだよ」
絵里ちゃんは少し考えた後、言う。
「私にはわかりません」
「そっか」
「だから先輩に相談したんです」
「そうだね」
僕はもう一度考えるため、いつも告白されている綾を思い出す。
綾はどうだったか。
けど、あまり参考にはならない。
「えっと」
「先輩?」
「僕が言えたことじゃないけどさ、特別に好きじゃなかったら断わっているかも」
「そうなんですか?」
「うん」
根拠はなかった。
ただ、綾が悪くは思っていない程度の男の子と告白を了承する場面が思いつかなかっただけだ。
けど、絵里ちゃんはその曖昧な答えに納得してくれたようで、笑顔でつぶやく。
「先輩は、ずるいですね」
「ずるい?」
「はい。そしてドリーマーです」
「ドリーマー?」
「はい。そうですよ」




