3-11 遊園地(7)
昼ご飯を終えてすぐ、絵里ちゃんは家に電話をかけた。
なんでも、弟や妹達が作り置きしてあるご飯をしっかり食べたか。
それが心配になったらしい。
絵里ちゃんによると、弟や妹達は、遊びに夢中になってご飯を忘れてしまうこともあるという。
「お昼、ちゃんと食べるんだよ。ね」
今もお姉さん然とした絵里ちゃんの声が聞こえる。
僕の前で見せる人懐っこいネコみたいな後輩の姿はそこにない。
「じゃあね。お姉ちゃん、ちゃんと帰ってくるから」
そうして、電話を切る絵里ちゃん。
しかしその直前、子ども達の物凄いエールが聞こえてきた。
あれはなんだったのか。
「絵里ちゃん」
「はい。なんですか? 先輩」
「なんか電話越しからものすごいエールがここまで聞こえてきたんだけど」
「え? エールですか?」
「うん」
僕は神妙にうなずく。
「デートがんばれーってさ」
デートにがんばれも何もない。
というより、秘密のデートなのに弟や妹達が知っているのが不思議だ。
僕は腑に落ちない表情でいると、絵里ちゃんが口を開く。
「な、なんでもないです」
「そう?」
「そうですよ。気にしないでください」
絵里ちゃんがあせったように手を振る。
そこまで言うのなら、たいした理由ではないに違いない。
「それよりも先輩」
「何?」
「午後のアトラクションどういうふうに回っていくか決めましょうよ」
「あ、そうだね」
「やっぱり私はジェットコースターがいいです」
その言葉で、午後もジェットコースターから始まっていく。
今度のジェットコースターは、最初に乗ったのとは違うもの。より急角度で大きなスリルが味わえるやつだった。
で、僕達はこれを三回乗った。
二人ともへとへとになりながらも十分に満足する。
ベンチで休憩しながらも、絵里ちゃんが言う。
「先輩、気が合いますね」
「たしかに」
「先輩がここまでジェットコースターに乗れるとは、私思いませんでした」
「僕もだよ」
「そうなんですか?」
「そうだよ。でも、おかげでずいぶん楽しめている」
どうやら、絵里ちゃんとはアトラクションの趣味が合うみたいだ。
僕達はお互いに満足気な表情を浮かべて笑い合い、空を見る。
一つ心配な点があるとしたら天気。
さきほどから、どんよりとした曇り空になってきている。
「雲、多くなりましたね」
「うん。そうだね」
と、僕がつぶやいたときである。
ぽつ、と水滴が額に落ちてきた。
「あ、降ってきましたよ」
「ほんとだ」
「うわ、これは大降りです」
絵里ちゃんの言葉通り、瞬く間に雨は大粒になっていく。
僕は持ってきたトートバックから傘を取り出す。
「先輩」
隣には涙目になっている絵里ちゃんがいる。
どうやら傘を持ってきていないみたいだ。
「ほら、入っていいよ」
そんなに大きな傘でもないけど、隣に女の子が入るスペースくらいはある。
「ありがとうございます、先輩」
「うん」
「そんでもって、相合傘です」
「そんなことは言わないの」
いつまでもベンチに座っているのもあれなので、僕達は立ち上がる。
人の波がお土産コーナーに向かって行ったので、僕もそっちを指差す。
「絵里ちゃん」
「なんですか?」
「今のうちにおみやげでも見ておこうか」
僕がそう言うと、絵里ちゃんはポーンと手を打つ。
「先輩。それ、いい考えです。それにこの雨もきっとにわかですからちょうどいいですね」
「うん。秋の天気は変わりやすいしね」
後、女心もだったなあ、と僕は思った。




