表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/176

3-10 遊園地(6)





 それから僕達は、あのジェットコースターに三回乗った。

 三回も乗れば満足するはずで、午前中の残りの時間は違うアトラクションを楽しんだ。

 

 種類は、おなじみのメリーゴーランドに始まり、カーレース、そしてモロッコみたいなレーンのアドベンチャー。

 

 ここまでは予定通りに進んでいる。

 ジェットコースター以外は並ぶことなく、午前中だけで結構乗れた。


「先輩。お腹すきましたね」


「そうだね」


 昼ご飯は園内に設置してある飲食店ですます。

 絵里ちゃんはサンドイッチ。

 僕は焼きそば。

 

 飲み物は二人とも自販機でお茶を買った。

 僕達は、近くに隣接しているベンチに座って昼食をとる。


「いただきます」


「いただきます」


 出されたおしぼりで手を拭いて、焼きそばを口にする。

 焼きそばはこってりとした味付けだ。


「うん。おいしい」


「こっちもおいしいですよ」


 絵里ちゃんは、小動物みたいなしぐさでサンドイッチを食べている。


「こういうのもたまにはいいですね」


「たしかに」


 僕達は大いに納得する。


「絵里ちゃん」


「なんですか?」


「ちょっと焼きそば食べてみる?」


「いいんですか?」


「うん、いいよ」


「では、代わりに私のサンドイッチあげますね」


 そう言うと絵里ちゃんはサンドイッチを取りわけてくれる。

 僕も、絵里ちゃん用に焼きそばを残していく。


「じゃあ、わりばしもう一つもらってくるね」


「あ」


 頬をそめる絵里ちゃん。


「?」


 どうしたのだろうか。

 僕にはわからない。


「せ、先輩」


「ん?」


「わざわざ先輩のお手を煩わせなくても、不肖ながらこの都築絵里、そのおはしで結構でございます」


 なんだか日本語がへんになっている絵里ちゃん。

 首をかしげながら僕は答える。


「いいって」


「で、でも」


「絵里ちゃん、すぐだからちょっと待ってて」


 絵里ちゃんに断わりを入れて席を立つ。

 店まで行き、わりばしをもらってくる。


「はい、もらってきたよ」


 僕はわりばしと一緒に焼きそばのパックを渡す。


「あ、ありがとうございます」


 と言うわりには、あまりにありがたがっていない感じの様子。

 僕があげるって言ったときにずいぶんと喜んでいたけど、何かあったのだろうか。 


 さらに絵里ちゃんは、危機迫った形相でこっちを見てくる。

 そして口を開く。


「先輩」


 その表情に蹴落とされそうになりながらも僕は聞く。


「何?」


「代わりに私のサンドイッチ食べますよね」


「あ、うん。くれるなら」


「で、今日は秘密のデートですよね」


「そうだね」


「だったら、私が先輩にあーんをします」


「え? どういう理屈? それにあーんって」


 僕は美咲さんとの玉子焼き事件を思い出す。

 いや、あれは事件でなくて戦争だ。

 あのときは、美咲さんのはしさばきが恐ろしすぎて避けるのが大変だった。


「先輩、いきますよ」


 絵里ちゃんはにらむようにして見てくる。

 なんだか、大変な雰囲気だ。


「いいですね」


「う、うん」


「あーん」


 そしてサンドイッチがすごい速さで迫ってくる。


「え? いっき?」


 僕が驚く間もなく、サンドイッチが口の中へ。


「ごふっ」


 人間のどに詰まりそうになったときは、信じられない声が出るものである。

 絵里ちゃんは、なぜか目を閉じてしまっているのでこっちの様子を知らない。

 なので僕は必死に咀嚼し、なんとか飲み込む。


「なんかへんな声しませんでしたか」


「き、気のせいだよ」


 絵里ちゃんに殺されそうになった現実を直視したくないため、必死になってフォローする。


「そうですか?」


 しかし、絵里ちゃんは首をかしげながら不思議な顔をしていた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ