3-10 遊園地(6)
それから僕達は、あのジェットコースターに三回乗った。
三回も乗れば満足するはずで、午前中の残りの時間は違うアトラクションを楽しんだ。
種類は、おなじみのメリーゴーランドに始まり、カーレース、そしてモロッコみたいなレーンのアドベンチャー。
ここまでは予定通りに進んでいる。
ジェットコースター以外は並ぶことなく、午前中だけで結構乗れた。
「先輩。お腹すきましたね」
「そうだね」
昼ご飯は園内に設置してある飲食店ですます。
絵里ちゃんはサンドイッチ。
僕は焼きそば。
飲み物は二人とも自販機でお茶を買った。
僕達は、近くに隣接しているベンチに座って昼食をとる。
「いただきます」
「いただきます」
出されたおしぼりで手を拭いて、焼きそばを口にする。
焼きそばはこってりとした味付けだ。
「うん。おいしい」
「こっちもおいしいですよ」
絵里ちゃんは、小動物みたいなしぐさでサンドイッチを食べている。
「こういうのもたまにはいいですね」
「たしかに」
僕達は大いに納得する。
「絵里ちゃん」
「なんですか?」
「ちょっと焼きそば食べてみる?」
「いいんですか?」
「うん、いいよ」
「では、代わりに私のサンドイッチあげますね」
そう言うと絵里ちゃんはサンドイッチを取りわけてくれる。
僕も、絵里ちゃん用に焼きそばを残していく。
「じゃあ、わりばしもう一つもらってくるね」
「あ」
頬をそめる絵里ちゃん。
「?」
どうしたのだろうか。
僕にはわからない。
「せ、先輩」
「ん?」
「わざわざ先輩のお手を煩わせなくても、不肖ながらこの都築絵里、そのおはしで結構でございます」
なんだか日本語がへんになっている絵里ちゃん。
首をかしげながら僕は答える。
「いいって」
「で、でも」
「絵里ちゃん、すぐだからちょっと待ってて」
絵里ちゃんに断わりを入れて席を立つ。
店まで行き、わりばしをもらってくる。
「はい、もらってきたよ」
僕はわりばしと一緒に焼きそばのパックを渡す。
「あ、ありがとうございます」
と言うわりには、あまりにありがたがっていない感じの様子。
僕があげるって言ったときにずいぶんと喜んでいたけど、何かあったのだろうか。
さらに絵里ちゃんは、危機迫った形相でこっちを見てくる。
そして口を開く。
「先輩」
その表情に蹴落とされそうになりながらも僕は聞く。
「何?」
「代わりに私のサンドイッチ食べますよね」
「あ、うん。くれるなら」
「で、今日は秘密のデートですよね」
「そうだね」
「だったら、私が先輩にあーんをします」
「え? どういう理屈? それにあーんって」
僕は美咲さんとの玉子焼き事件を思い出す。
いや、あれは事件でなくて戦争だ。
あのときは、美咲さんのはしさばきが恐ろしすぎて避けるのが大変だった。
「先輩、いきますよ」
絵里ちゃんはにらむようにして見てくる。
なんだか、大変な雰囲気だ。
「いいですね」
「う、うん」
「あーん」
そしてサンドイッチがすごい速さで迫ってくる。
「え? いっき?」
僕が驚く間もなく、サンドイッチが口の中へ。
「ごふっ」
人間のどに詰まりそうになったときは、信じられない声が出るものである。
絵里ちゃんは、なぜか目を閉じてしまっているのでこっちの様子を知らない。
なので僕は必死に咀嚼し、なんとか飲み込む。
「なんかへんな声しませんでしたか」
「き、気のせいだよ」
絵里ちゃんに殺されそうになった現実を直視したくないため、必死になってフォローする。
「そうですか?」
しかし、絵里ちゃんは首をかしげながら不思議な顔をしていた。




