3-9 遊園地(5)
「では、お楽しみくださいね」
その言葉を最後に安全バーがゆっくりと降りていく。そして機体は少しずつゆっくりと上昇していき、僕達の緊張感を煽っていく。
視界、重力、風圧。
絵里ちゃんの言葉どおりその三つ。
それと、機体の不安定さ意識しながら楽しむ。
そう、この感じだ。
この胃がきりきりするような不思議な感覚。
隣の絵里ちゃんを見ると、僕と同じように楽しんでいる。
不安と笑顔が同居したような表情だ。
「先輩」
「何?」
「来ますよ」
「うん」
僕が返事をするや否や、機体がすごい勢いで落ちていく。
「きゃあああああああああああああああ」
「うわあああああああああああああああ」
視界は良好。重力は最高。風圧は完璧。
猛スピードで決められたレールを駆け抜ける機体は、人々の絶叫を乗せて走っていく。
僕はその流れに身を任せ、存分にジェットコースターを堪能する。
そうして、いつまでもこの感覚を味わっていたいと思いながらも、やがて終わりが近づいてくる。
機体は緩やかにスピードを落とし、最初の場所に止まった。
「ありがとうございました」
係員がそう言い、安全バーが上がっていく。
「またのご利用をお待ちしています」
僕達は機体から降り、出口のゲートをくぐる。
一息つき、絵里ちゃんと僕は笑い合う。
二人して笑いは止まらない。
どんどんと湧きだすように、笑いの連鎖が続いていく。
そしてようやく治まったところで、絵里ちゃんが僕を呼ぶ。
「先輩」
「何?」
「先輩」
「だから、どうしたの?」
「先輩」
何度も呼ぶ。
さらに目を輝かせてくる絵里ちゃん。
こっちを見つめてもいる。
しかしそれだけで、絵里ちゃんの意図することがこっちにも伝わってきた。
「どうする? これから」
「わかっていますよね、先輩」
「また同じの乗る?」
「はい」
やっぱりそうだったか。
僕はほくそ笑んでいた。




