3-6 遊園地(2)
ホームの待合室のベンチに座って電車を待つ。
そのあいだ、僕達は今日の予定を話し、明るい展望に心を弾ませていく。
「それで先輩、まずはジェットコースターに乗りましょうね」
「ジェットコースターから?」
「はい。あ、先輩。ジェットコースターは大丈夫ですか?」
「大丈夫だけどさ」
ジェットコースターには乗れないこともない。
けど、順序として間違っているのかもしれない。
「先輩先輩」
僕がそう考え込んでいると、絵里ちゃんが腕を引っ張ってくる。
「電車が来てますよ」
「ほんとだ」
「早くいかないと、閉まっちゃいます」
「急がないと」
僕達は、慌てて電車に飛び乗る。
電車はプシューと音を立てて、扉を閉めていく。
どうやら間一髪間に合ったみたいだ。
「危なかったですね」
絵里ちゃんがほっとしたように一息つく。
「そうだね」
と、僕も同じように一息。
顔を見合わせて笑い合う。
そしてお互いに同じようなことを言う。
「先輩がぼーっとしていたから」
「絵里ちゃんがおしゃべりに夢中だから」
思わぬ責任のなすりつけ合いに、また顔を見合わせて笑う。
「まあ、ともかく、乗れてよかったよ」
「そうですね」
「しかも座れたし」
「はい」
車両は、休日のせいなのか人が全然いない。
まばらだという表現がぴったしなくらい人数。
電車はガタンゴトンと心地良い音を鳴らしながら、小刻みに左右に揺れている。
その揺れは胎内にいた頃を回帰させるリズムだと言われるが、僕にはわからない。
「絵里ちゃん」
「なんですか?」
「この電車の音ってさ、母親のおなかの中にいたことを想起させるっていうけどどう思う?」
「え?」
絵里ちゃんが驚いてこっちを見る。
「先輩ってそんなことを考えたりもするんですか」
「考えたりもするよ」
「そうですか」
「それでどう?」
僕はもう一度聞いてみる。
すると絵里ちゃんは、少し考えた後でこう言う。
「私にはわかりません。でも」
「でも?」
「なんだか電車の中は安心しますね」
「そっか。僕もだよ」
「そうなんですか? じゃあ同じですね」
絵里ちゃんが嬉しそうに笑う。
「あ、それよりも先輩」
「何?」
「外見てください」
「ん? 何かあったの?」
「いえ。景色がきれいです」
車窓に写る景色を見て、絵里ちゃんが喜ぶ。
もう何度も見ている景色だけど、絵里ちゃんは体をのけぞらしてまで見ている。
「なんか子どもみたいだよ」
「何言ってるんですか、先輩」
「え?」
そして絵里ちゃんは真顔で言う。
「私も先輩も子どもですよ」




