3-5 遊園地(1)
土曜日。
予報どおり天気は快晴で、行楽日和である。
今日いつもより早く起きた僕は、遊園地に行く準備を整える。そして直の作った朝ご飯を食べ、八時半に家を出る。
「いってくるね、直」
「いってらっしゃい、春」
絵里ちゃんとの待ち合わせは駅のモニュメントの前で九時。
なので、僕は十五分前にたどり着く。
けど、すでに絵里ちゃんがいる。
絵里ちゃんは雑踏に紛れることもなく、僕が見つけられる場所に立っていた。
「先輩」
「あ、絵里ちゃん」
小走りで寄ってくる絵里ちゃん。
瞳がきらきらと輝いている。
「おはようございます」
「おはよう」
「もう先に来ちゃいました」
「うん、もういるとは思わなかったよ」
僕達は笑顔で言葉を交わす。
「ところで先輩」
「何?」
「今日の私の格好どうですか?」
言われて絵里ちゃんの格好を改めて見る。
「森にいそうな格好だね」
「はい。これ、私の一張羅です」
「似合っているよ、絵里ちゃん」
「あ、ありがとうございます」
人懐っこい笑みを浮かべて、満足気な表情を浮かべる。
「そういえば先輩、髪切ったんですね」
「あ、うん」
と、僕はうなずく。
「さっぱりしましたね」
「そうみたい」
「私はどっちも好きですけど、今の長さの方がもっと好きです」
「そっか」
「はい」
「ありがとう、絵里ちゃん」
「いえいえです」
絵里ちゃんがはにかむように言う。
「じゃあさ、そろそろ行く?」
僕は駅の方面を指差す。
「あ、ちょっと待ってください」
「ん? どうしたの」
「まず、ここで写真撮りたいんです」
「ここで?」
疑問に思ったのでおもわず声をあげてしまう。
「はい」
絵里ちゃんは自分のウエストポーチからカメラを取り出す。
カメラは年季の入った代物で、どこか高級そうな感じがする。
「これ、おかあさんから借りてきたものなんです」
「そうなんだ」
「それでは、ためしに一枚いいですか?」
「いいよ」
すると絵里ちゃんが、いきなりカメラを構える。
しかし、ほんとにここでいいのだろうか。
バックに写っているのは駅前の『涙を集める人』のモニュメント。
「あ、絵里ちゃんは映らなくていいの」
「いいんです」
「そうなの?」
「はい。秘密のデートなんですから」
「え? それ関係ないんじゃ」
「いいんですよ、先輩。それではいきますね。はい、チーズ」
絵里ちゃんの掛け声とともに、僕は適当なポーズをとる。
けど、きっとその写真は必要以上にかしこまってうつっているはずだろう。
写真写りの悪さは幼い頃からずっとだ。
「先輩、ありがとうございました」
絵里ちゃんが頭を下げて礼を言う。
「あ、うん」
「じゃあ、行きましょうか」
「そうだね」
そして僕達は券売機のところへと向かう。




