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3-2 綾の苦悩





 

 三時間目の数学の授業中。

 綾から一通のメールが届く。


『春、大事なお願いがあるんだけど』


「何? 綾」


 と、僕はすかさず返信。


『今日の放課後、直と一緒に屋上の給水タンクに隠れて私を見守ってほしいの』


「わかった」


 もちろん、この内容の意味は知っている。

 これは綾が男子に告白されるということ。


 前回から、まだ一週間くらいしか経っていない。

 それなのに、またいつもの儀式が始まる。


「……」


 僕はなんだかな、と思って、教室中を見渡す。

 すると、前に数学の問題をこっそり教えてくれた大和撫子な吉田さんと目が合う。

 しかし吉田さんは、僕と目が合うと赤くなってうつむいてしまった。

 

 どうしたのだろう。

 僕にはわからない。


 やがて、数学やその他の授業も終わり、放課後がやってくる。

 綾の要請を受けた直と僕は、示し合せて屋上に向かう。そして、いつもの給水タンクに身を隠す。


 十分ほどして、綾と知らない男子が屋上に到着する。

 案の定、その男子は告白し、綾がその申し出を慎重に断る。

 そして男子がこの場を去り、僕達は綾のところに行く。


「綾、見ていたよ」


「うん。ありがとう、春」


「いいよ、綾」


「いや、いつもありがとう」


 綾がもう一度礼を述べる。

 この時ばかりは、いつも素直な感じになる幼馴染。

 さすがに僕も学習した。


「そして直もありがとう」


「ん」


「私はその人のためにも、好意が受け入れなかった場面を忘れるわけにはいかないから」


「綾、またそのセリフ」


 直が綾を抱きしめる。

 これも定番となった光景。

 けど、僕はやっぱりどこか外れた視点で見ている。


「綾、元気だそう」


 直が励ましの言葉を送る。


「うん」


 それに綾はうなずくなか、僕は勝手に思う。

 綾には早くお嬢様という猫かぶりを解いてほしい。


 いつものように、活発でわがまま。じゃじゃ馬であれこれ命令してきても構わない。好き勝手し放題で怒りっぽくても構わない。


 だから、綾。

 君には君のままでいてほしい。

 

 僕には綾との秘密の遊戯をする以外、何も手助けはできない。

 けど、こうやって苦しんでいる今の姿を見るのは忍びない。


「綾」


「何? 直」


「雲の形でも見てれば元気が出るから」


「雲の形?」


 直の言葉を聞いて、不思議そうに首を傾げる綾。


「ん。雲の形はどんどん変えていくから見ていて飽きない」


「そうみたい」


「心の形も同じ」


 直が悟ったように言う。


「じゃあ、私の心の形もどんどんと変えていくのかな」


「そうだよ、綾」


 直が切れ長の瞳で綾を見つめ、深くうなずく。


「だから始まらないストーリーもね」


 一呼吸置く直。


「きっと変わっていくはず」






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