3-1 遠藤 翠
今日の天気は快晴。
傘いらずで洗濯物がよく乾く。
そんな予報を、綾の姉でもありお天気お姉さんでもある翠さんがテレビで言っている。
「直、翠さんが出ているよ」
「ん、翠」
改めてテレビに注目する僕達は、翠さんのさわやかさに元気をもらう。
翠さんは、アナウンサーとやりとりをしながら、天気の説明をてきぱきとこなしていく。
「それよりも直」
「ん?」
市販のラスクをほおばりながら、直が首をかしげる。
「翠さんがお昼の枠から朝の枠になったの知ってた?」
「知ってた」
「いつから?」
「結構前」
「へえ、そうだったんだ」
「うん」
直の生返事を聞きながら、僕は翠さんのことを考える。
綾の姉の翠さんは二十二歳で、泣きぼくろが印象的な美人だ。
小さい頃、僕達はとんとお世話になった。
よく街外れの高台に連れて行ってもらい、わがままを言う子ども達の相手をしてくれた。
「そういえばさ、直」
「どうしたの?」
「綾と翠さんってあまり似てないよね」
「ん」
直も納得するとおり、綾と翠さんはあまり似てない。
もちろん、歳が離れているのも前提としてある。
けど、綾が成長したら翠さんのようになるかと言われればそうではない。
「春」
「ん?」
「綾は綾、翠は翠。人それぞれ皆違うはず」
直が真理を説く。
でも、そこで僕はあることを閃く。
「ただ、僕達の外見はかなり似ているよね」
「ん」
「どうしてだろう」
「神様がなんとなくそうしたんだよ」
優しげな声色で直が言う。
「ふーん」
「そう、ふーんって感じで」
「そっか」
そうして会話が途切れ、僕はまたテレビに目を移す。
すると今度は、週末の天気予報をやっている。
翠さんが言うには、週末も快晴で天気は崩れない模様。
しかし最後の締めくくりに、秋の空は女心のように変わりやすいのでカサを持ち歩くようにしましょうとの喚起がなされた。
「あのさ、直」
「何?」
「僕、土日出かけるから」
「ん。わかった」
直は無表情でうなずく。
そこからは特別な感情が何もない。
「土曜は絵里ちゃんと。日曜は綾と」
「二つともデート?」
「え?」
その言葉を聞いて、僕はしまったと思う。
そういえば絵里ちゃんは、今回のことを秘密のデートだと言っていた。
「ううん。違うよ」
「そう」
「二つともデートとはまたちょっと違うもの」
なので、なんともつかない言い訳をしてしまう。
そんな僕を見て、直は言う。
「気をつけてね」
「うん」
と、僕は答える。




