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2-23 散髪






 美咲さんが帰った後、直はネコミミを外し、『努力』のはちまきをつける。

 そして宣言通り料理を作り、僕達はそれを夕飯にする。


 直の料理はいつもの出来と変わりなく、これまたいつもと同じようなやりとりをして夕飯を終える。

 それから直が入れてくれたお茶を飲み、テレビに目を移す。


 テレビはちょうどニュースがやっていて、この都心から離れた小さな市街の髪切り事件を念入りに分析。被害者は三十人を超えたのことで、くれぐれも気をつけてくださいと喚起がなされていた。


「直」


「ん?」


「そろそろ銭湯に行かない?」


「ん。でも春」


「何?」


「その前にやっておきたいことを思いついた」


 直は雑貨が入っているタンスから、ハサミを取り出す。


「髪、切ろう」


「え?」


「髪」


 伸びきっている僕の髪を見て、直がもう一度言う。


「まあ、切ってもいいけど。でも、そんなに僕のことを心配したって無駄だよ」


 しかし、直は首を振る。


「ううん。そんなことない」


「そんなことなくないよ。だって、僕は男だし」


「だから、逆上して傷害行為に走るかも」


「そういう考え方もあるのか」


「ん」


 僕は変に納得し、直はうなずく。

 けど、僕だって直のことが心配だ。

 その豊かな黒髪は直の魅力の一つで、もし切られでもしたらとても悲しい。


「春、準備」


「わかった」


 直がハサミを持ってこっちにやってくる。


「後、必要なものは」


 と、直が聞く。


「くし」


「霧吹き」


 この二つを準備する。


「それと首に巻くやつ」


「ん」


 直が洗面所に行って取ってくる。


「直、首に巻くやつの正式名称はなんていうんだと思う?」


「わかんない」 


 やがて直が首に巻くやつを持ってきて、準備が整う。

 僕は適当なイスを準備して座り、直がハサミを入れてくれるのを待つ。


「春、どう切る?」


「おまかせで」


「いつもそう」


「だって直は上手いから」


 そう、直は料理以外ならなんでも器用にこなす。

 髪を切るのだって、絵を描くための繊細な筆使いに比べたらたいしたことないに違いない。


「まずは、霧吹き」


 シュ、シュと心地よい音。

 髪が霧吹きによって濡れていく。

 これから髪を切るであろう期待感が芽生えてくる。


「次、くし」


 直の手櫛とともに、くしが髪に入る。


「直はくしでとくの上手いね」


「そう?」


「うん」


「じゃあ、切るね」


「オッケー」


 切れ長の瞳が髪の毛先を見つめ、じょきりとハサミが入る。

 ハサミは、肩まである僕の髪をバッサリと切っていく。


「切りすぎた?」


「ううん。そんなことないよ」


「そう。良かった」


「直、この調子で」


「ん」


 やがて二十分が経過して、直の手が止まる。


「完成」


 直が持ってきた手鏡にはさっぱりとした僕の姿がうつる。


「完璧だよ。直」


「ん」


「ありがとう」


 僕がそう言うと、直は無表情ながらも若干笑みをこぼす。


「頭軽い?」


「うん」


 僕はうなずく。


「でもさ、直。ほんとは順序逆だよね」


「どういうこと?」


「ほんとはお風呂に入った後切るもんじゃない?」


「あ、そうだね」






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