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2-19 約束(2)




 昼休みを終えて、五時間目の授業中。

 この数学の時間はいろんな意味で忙しかった。

 

 まず最初に綾のメモを見て、今週の日曜日の予定を確認。

 メモには都立公園で待ち合わせと書かれてあり、そこから互いに申し合わせた格好をして街に出る予定となっている。


 そう、綾と僕はいつもこの場所から出発する。

 ここで着替えをして、近くの街に繰り出す。


「坂本春」


 綾と出かけることを考えていたら、先生に問題を当てられた。

 問題は難しく、なかなか答えが導き出せない。

 僕がうんうん唸って考えていると、隣の席の吉田さんの声が聞こえてきた。


「さ、坂本くん」


 どうやら僕を呼んでいるようだ。

 さらに小声で話しかけてくる。


「ここの問題はこうだよ」


 そう言ってノートを指し示す。

 字はきれいでとても読みやすく、適切に解説してある。


「ありがとう」


 お礼を言って、素早くその問題の答えをインプットする。

 結果、この問題をなんとか乗り切ることができた。


「ふう」


 一息ついて席につき、吉田さんに目配せでお礼。

 いつも控え目で大和撫子な吉田さん。彼女にしてみれば、誰かに問題の答えを見せることは勇気のいる行為だったのだろう。


 僕と目を合わせると、恥ずかしげに顔をふせてしまう。

 おかげで僕も恥ずかしくなってくる。

 

 だが、そんななかでも数学の授業は続いていく。

 先生は、もう半年を切った高校受験についての説明を一生懸命している。

 なので僕は、遅ればせながらもその説明に耳を傾ける。

 

 けど、そのときに携帯のバイブが振動した。

 ディスプレイの表示を見れば、一つ年下の絵里ちゃん。

 メールがきていた。


『先輩、今大丈夫ですか?』


「大丈夫」


 と、返信する。

 しかしそれにしても不思議なのは、絵里ちゃんからメールが来るときはいつも数学の時間。彼女もこのときは数学の授業なんだろうか。

 メールはこの後も続いていく。


『ありがとうございます。でも、大丈夫だと思っていました』


「そうなの?」


『はい、だって先輩ですから。それで用件なんですが、来週の土曜日のデートのことについてです。行く場所を遊園地に決めました』


「そっか」


『それでいいですか?』


「うん。いいよ」


 遊園地といえば、幸いにもこの街の近くにある。

 乗り継ぎを一回して六駅で着く場所で、小さい頃、綾のお姉さんの翠さんに連れられてよく行った。

 

 直も綾もジェットコースターが苦手で、僕は翠さんとばっかり乗っていた。

 直はまだしも、当時おてんばだった綾が乗れなかったのは意外だ。


『先輩、後、もう一つ伝えたいことあります』


「ん? 何?」


『秘密のデートってことを忘れないでくださいってことです』


「うん、わかってる」


『ありがとうございます。では、詳細が決まったら後ほど連絡しますね』


 以上で絵里ちゃんとのメールが終了した。






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