3-4 オズの魔法使い
計画は綿密な方がいい。
綿密すぎても問題はなく、逆に秩序だった計画は僕達を手助けしてくれる。
備えあれば憂いなしだ。
いや、憂いはあるけど。
「直」
直が作ってくれた夕食を口にしながら、僕は話を切り出す。
「次の週末、綾と僕は旅に出ることにするんだ」
「旅?」
「うん」
「そう」
直はあまり関心を示さない。
「あのさ、勇気を手に入れに行こうと思っている」
「勇気」
直が幼子のようにつぶやく。
そして直は、ご飯をもぐもぐして飲み込んだ後、その口を開く。
「春」
「何?」
「春は勇気のないライオンなの?」
直のセリフを聞いて、僕は感心する。
昔、お互いにオズの魔法使いを結構読んでいただけあって、旅と勇気で連想することが同じだった。 この少ない情報だけで、オズの魔法使いが出てくるのだから凄いと思う。
「そうなんだよ」
「そっか」
直が箸を止める。
何を言うか考えているみたいだ。
「でも、春」
「何?」
「勇気のないライオンだけでは不足。賢さのないかかしも、心のないブリキもいない」
「そうだね。そして、それらをとりまとめるドロシーもいない。でもいいんだ」
「そうなの?」
「そうだよ。だってただの喩えだから」
僕の返事を聞いて、直は何事かを考える。
そして、あっさりと口を開く。
「西へ行くの?」
「うん、西へ」
「魔女を倒しに?」
「いいや、魔女なんて大層なものはいないよ。ただ、自分の中に何かにけりをつけに行こうかと思ってさ。でも、それはどんなことよりも難解で、たやすいことでないけどね」
そうである。
それは大変だ。
けど、こういう大切なことは、自分から伝えなくてはいけない。
告白とかそんなことは、当たり前にやらなければならない。
直はうなずいた後、また箸を持つ。
正しい動作で、おかずを口に運んでいく。
直が咀嚼している間に、僕は次の言葉を探す。
「直」
「ん?」
「僕は今回の旅では海を目指そうと思うんだ」
「海」
直はまた幼子のようにつぶやく。
「そう、海。開かれたイメージを想起させるから」
「開かれたイメージ」
「それが大切な気がして」
「そっか」
直はうなずく。
「あのさ」
「うん」
「決まりきった物事を円滑に進めていく。そのことで一番大切なのは何かな?」
「それは、えっと」
直が頭を悩ましている。
けど、なかなか答えは出ない。
沈黙が続く。
僕の箸を持つ手も止まったままだ。
「わからない。でも、手順をしっかり踏むことは必要」
「手順か」
「ん。なんとなくそう思う」
「わかった。参考にする」
「ん」
ここで、綾と旅に出かける話が終わる。
その後は口数が少ないながらも、いつもどおり雑多な話になっていく。
その中でも特筆すべきことは、直がギターを始めたということ。
こうなった経緯は、直が助っ人に借り出されている美術部と軽音楽部の使用する教室が隣合わせだからである。
二つの部の相性はあまり良くないと思うのだが、なぜかこの配置になっている。
直はいつもギターの音色が聞こえてくるのを気にしていたのだが、とうとう今回、音楽室に突撃したらしい。
けど、なぜか懐柔させられて、直もギターを教えてもらうことになったという。
その辺の経緯がよくわからないのだが、とりあえず気にしないことにした。
「直、ギターは楽しい?」
「まだわかんない」
「そっか」
「あ、でも、孤独になった時の救いとなる気がする」
「え? どういうこと?」
「ん。たいしたことじゃない」




