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2-1 メイド服






 日曜の朝、僕はいつもより早めに起きた。

 昨日は早めに床に入ったのもあって、すんなりと目が覚めた。


 カーテンを開けてみると、素晴らしい天気。

 これ以上ないくらいの快晴で、雨なんぞ降る気配はまったくしない。


 直は既に起きていて、どうやら朝ご飯の準備中。

 テーブルを見れば、メニューは和風である。

 今日はわりと定番な方だ。


「さて」


 僕は顔を洗い、着替えをして席に着く。

 そして、本を読みながら待つ。

 しばらくそうしていると、ようやく直も座る。


「えっと、直? 何してるの?」


 なんだか直の格好がおかしい。

 わりと突拍子もないことをする直だけど、これは度が過ぎているのではないだろうか。 

 なのに直は、涼しい顔をして言う。


「ちょっと趣向を変えてみた」


「ちょっとどころの騒ぎじゃないよね、それ」


 僕はしっかりと指摘する。

 けど、直は首をかしげるだけ。


「ちなみにヴィクトリアン朝のメイド服」


「いや、どうでもいいかな」


「クラシカルなやつ」


「そーですか」


「執事服もあるけど、着る?」


「その発想はなかったよ」


 僕は頭を抱える。


「着ないの?」


「着ないかな」


「どうしても?」


「どうしてもだね」


 とりあえず現実世界に帰還して欲しい。


「そっか。それで私の格好はどう? 美咲の一押しなんだけど」


「どうって言われても困るよ。まあ、似合っているけどさ。でも、なんだか不思議な感じがするね」


 ネコミミの時もそうだけど、直がこういうのを着用すると一気に神秘的な雰囲気を醸し出す。服に着られているではなくて、しっかりと着こなしているせいかもしれない。


「てか、また美咲さんの悪知恵か」


 後で美咲さんに文句を言いにいこう。

 平穏な日常を破壊をした原因でもある。


 ついでに、最初のページだけ目を通した官能小説も返さなくてはいけない。

 直ならまだしも、勉強会で小平さんに見つけられたらたまったもんじゃない。


「とりあえず、朝ご飯を食べよっか」


「ん」


 直の格好にも慣れてきた。

 それに直は直だ。


 僕の賢い妹で、大切な存在。

 何を着てようと変わりはない。


「じゃあ、いただきます」


「いただきます」


 食事のあいさつをしてお味噌汁に手をつける。

 今日も直の味気ない料理は変わらない。

 

 とてつもなくまずいか、と聞かれてもそうではない。

 丹精込めて作っているはずなのにと、首をかしげてはいけないものだと思っている。


「ところで直、その格好はいつまでするの?」


「一日中?」


「なぜに疑問形? ということは僕が決める権利があるんだよね」


「あるかも」


「じゃあ、できれば着替えてくれると嬉しいんだけどな。似合うことは似合うんだけど日常とかけ離れ過ぎているからさ」


「そう」


 直が無表情でがっかりする。

 さりげなくメイド服が気にいったのだろうか。

 僕は謝罪の言葉を口にする。


「直、ごめん」


「ん」


「でも、勉強会があるし、その格好は適さないから仕方がないよ」


 一応、マリアさんという人は例外だ。

 ともあれ、直は納得してくれたのかうなずく。


「さあ、食べよ」


「ん」


 そうして僕達は、軽く言葉を交わしつつ朝ご飯を食べ終わる。

 片づけをして掃除をして、勉強会に備える。

 忘れずにお茶請けなども用意する。


「これでよしと」


 そして僕は思う。

 綾と小平さんのこと。

 上手くいくようにと。






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