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1-13 朝の風景






 翌朝、僕はいつものように直の声で起こされる。


「おはよう」


「あ、おはよう、直」


「春、起きて」


「うん」


 直は僕が寝ている布団の横でちょこんと座っている。

 開けたカーテンから入ってくる斜光と相まって、直が輝いて見える。


「直がまぶしい」


「え?」


 不思議そうに首をかしげる直。

 その瞬間に、太陽の光が直撃する。


「うわぁ」


 僕はまるで吸血鬼にでもなったかのように声を挙げる。


「どうしたの? 春」


「いや、なんでもない」


 気を取り直して、僕は体を起こす。

 そして着替え、洗顔などをして、朝食の席に着く。 


「いただきます」


「いただきます」


 箸を手に取り、スクランブルエッグに手を伸ばす。


「もぐもぐ」 


 うん、いつもと変わらない。

 直の料理だ。 


「今日は洋風だね、直」


 他にもサンドイッチやウインナー、シーザーサラダなどが並んでいる。

 盛り付けはとてもきれいで完璧だ。


「ん。今日は洋風。明日は中華風」


「中華風?」


 僕は疑問に思う。


「中華風の朝ご飯なんてあるの?」


「ある」


「そっか」


 直が言うのだからあるのだろう。

 期待して待つことにする。


「ところでさ、直」


「何?」


「最近、めったに見ない管理人をよく見るよね」


「管理人?」


「うん、管理人。直も見ない?」


「そういえば見る」


「だよね」


 東風荘の管理人は気の良さそうなおじさんだ。

 いつも笑っているような印象しかない。


「新しい住居人でも来るのかな。僕達の隣の五号室が開いているし」


「そうかも」


 そんなことを話しながらも、僕はテレビをつける。

 そして、翠さんが担当している天気予報にチャンネルを合わせた。


「タイミング良くやっているね」


「ん」


 今日の天気は晴れと予想している。

 どうやら全国的に晴れらしい。


「ごちそうさま」


「ごちそうさま」


 朝食を食べ終え、片づけをする。

 それが終わったら、もう学校に行く時間だ。


「直、行こうか」


「ん」


 家を出て、いつものように通学路を二人で歩いていく。

 とりとめもない会話をしながら、車の往来が多いイチョウ並木を通る。


「直。それと坂本」


 バンと背中を叩かれる。

 叩いたのは小平さんで、この人と僕はいろいろとタイミングが悪い。


「のんびり兄妹。アンタ達、このままだと遅刻するよ」


「え?」


「ギリギリマスターの私が言うんだから間違いないって」


 知らず知らずのうちにゆっくりになっていたのだろうか。

 ともかく、小平さんのペースに合わせて歩くことにする。


「あ、そういえば小平さん」


 僕は小平さんに話題を振る。


「何? 坂本」


 小平さんが僕に聞く。

 なので僕は、あらかじめ用意していた言葉を告げる。


「えっと、今度の日曜日なんだけど開いてる?」


「日曜日?」


「うん」


「開いてるけど。あっ、もしかして紹介してくれるの?」


「うん。紹介というか、彼から話があるんだ」


 それは小平さんにとって、あまりいい話ではない。

 男装した綾が直に断わりを入れるのだから。


「楽しみだな」


 笑みをこぼす小平さん。


「ありがとう、坂本」

 

 そして笑顔でお礼を言う。


「で、その彼に会うついでにさ、家で勉強会をしようと思っているんだけど」


「あ、もちろん参加するからね」


 小平さんはいち早く参加を表明する。






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