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1-6 適切な距離






 サツマイモをつまんだおかげか、夕食は軽めになった。

 僕達はいつもと変わらない出来栄えの料理をつまみつつ、くつろぎながらテレビを見ている。


 やっているのは最近はやりの料理番組。

 最近の直はこういう番組を見ているらしい。


 ただ、こんなふうに試行錯誤をこなしているが、料理の腕前は一向に上がらない。

 かといって、それに不満はない。


「春」


 直が口を開く。


「何?」


「最近の悩みは女の子だった?」


「うん。そうなんだ」


「そっか」


「今まで黙っていてごめん」


「ん」


 直がご飯を口に含みながらもうなずく。


「ただ、今でもこの懊悩は上手く言語化できないんだ。もう少ししたら説明するよ」


「わかった」


 直がそう言ったと同時に、テレビの方から大きな笑い声。

 その声がよく響く。


「春」


 仕切り直しのように直が言う。


「女の子好き?」


「え?」


「女の子」


 僕は考える。

 けど、明確な答えはでない。


「僕にはわからないよ」


「そう」


「うん」


 また、テレビの笑い声が聞こえる。

 料理番組なのに、バラエティの方に重きが置かれているのだろうか。


「じゃあ、私のこと好き?」


「えっと、どういうこと?」


「私は女の子だから。で、好き?」


 僕はもう一度考えてから言う。


「それはもちろんだよ。かけがえないの家族で兄妹だし。というよりもさ、直」


「ん?」


 直が首をかしげてくる。


「今まであまり言わなかったのかもしれないんだけど、僕は直のことを尊敬しているんだ」


 僕がそう言うと、直は表情一つ変えずに驚く。


「そうなの?」


「そうだよ」


「私はただの私だけど」


「うん、それでも」


「そっか」


 直の表情は変わらない。

 けど、少しだけ嬉しそうにしている気がする。


「春、それなら綾のことは好き?」


「綾?」


「うん」


「わからないよ」


 その言葉に嘘はないか。

 僕にはなぜか確証はない。


「あ、もちろん好きか嫌いかで言えば好きだけど」


「そっか。わかった」


 直がうなずく。


「春、最後」


「うん」


「悩んでいる女の子のことは好き?」


 その問いが核心とばかりに、直は怜悧な視線で見つめてくる。

 あいかわらずすべてを見透かしてしまいそうな視線は変わらない。


「直」


「うん」


「やっぱりこれもわからないんだ」


 そう、これにはいろいろなことが密接してくる。

 絵里ちゃん、それと今度街に帰ってくる彼女。

 この二人に明確な意思を持ってして返事ができるか。

 

 僕にはわからない。

 難しすぎてだ。

 

 感情の在り方があいまいで、まるで靄がかかったかのようでもある。

 このことを考えると、自分と物事との適切な距離がつかめない。


 すべての事象には適切な距離があるのにそれが乱れてしまい、にっちもさっちもいかくなる。そしてそれはいかにして生きるべきかという悠久の命題と同じように、僕を深く困惑させていく。



 



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