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3-10 文化祭(2)





 校舎に入って、まずは学校中を巡っていく。

 とりあえずは下見をしようと方針が決まったので、僕達は真剣に吟味する。


 文化祭に相応しい催し物がないかを丹念に探し求める。

 妥協などすることなく、目を光らせて辺りを見渡す。


「あ、ここの和風喫茶店はなんだか新感覚ですね」


「先輩、ここの組の劇はコメディー風味のイソップ物語らしいです」


「見てください先輩。ここのお化け屋敷は三教室分も使っている超本格派ですよ」


 巡っている最中も、絵里ちゃんの楽しそうな声が響く。

 実際、僕も楽しかった。

 そうしておそらくすべてを巡り終えた僕達は、スタートした場所に舞い戻ってくる。


「さて、どうしようか」


「はい」


 結局、いろんな催し物に目移りして、順番が決まらない。

 遊園地のように明確な目標がないのも要因だった。


「絵里ちゃんはどこか行きたいとこある?」


「そうですねぇ」


 絵里ちゃんは腕を組んで考える。


「私も一番最初はどこに行こうか迷っています。なかなか絞れなくて」


「そっか」


「でも、今回もどこに何があるかは覚えましたよ」


「それはすごいね」


「もっと褒めてください。それとついでに頭もなでてください。秘密のデートですし」


「え? それはちょっと違うんじゃ」


「いいんです」


 僕は少々納得がいかないながらも、絵里ちゃんの髪をなでる。

 すると絵里ちゃんは、日向ぼっこしているネコみたいになった。

 目を細めて気持ちよさそうにしている。


「あの、絵里ちゃん? これいつまでやるの?」


「はっ? 気持ち良すぎてすっかり我を忘れていました。なごり惜しいですけど、もう大丈夫です」


「あ、うん」


 僕は絵里ちゃんから手を離す。

 そしてこっちも少しなごり惜しいな、と思ったその時である。


「へぇ、おたくは絵里ちゃんを選んだわけだ」


 岩崎さんが僕達の目の前に立っていた。

 さらに岩崎さんは、こっちを見ながらにやにや笑っている。


「あの、岩崎さん。今の見ていましたか?」


 絵里ちゃんが聞く。


「見たよ。ばっちりとね。それも絵里ちゃんが頭を撫でられて恍惚としていた表情を」


 岩崎さんがからかい半分で言うと、絵里ちゃんの顔が真っ赤になる。

 たしかに知り合いがいるところであの行為は恥ずかしい。

 なぜなら、僕も恥ずかしいからだ。


「やっぱりおたくはすけこましだね」


 僕の肩をつんつんと突っついてくる岩崎さん。

 しかも、なぜか機嫌がいい。


「この様子だと、幼馴染と絵里ちゃん以外にもおたくに好意を持っている女の子がいるんじゃない? クラスの女子はもちろんとして、意外にも年上の女性や小さな女の子まで籠絡させていたりして」


「えっと」


 僕は岩崎さんの言葉を聞き流すしかない。

 ここで反論しようにも、何かと不利な状況だ。


「まあ、私は面白ければいいんだけどな。それよりもこんなところでいちゃついているからにして、どこに行くかは決めていなかったりする?」


「あ、はい」


「そうか。やっぱりそんな雰囲気がしたんだよ。迷っているようなね」


「はぁ、そうですか。わかるもんなんですか」


 僕はなんとも言えない返事をする。


「まあね」


「すごいですね」


 絵里ちゃんが口を開く。


「すごくないね。ちょっと観察すればわかるんだよ。まあ、ともあれ、ここは私についてくればいいんじゃない?」


 絵里ちゃんと僕は顔を見合す。

 お互いに岩崎さんの誘いを受けるべきかを考えているのだ。


「どうしたのさ、二人とも。あ、そっか。もしかして、もっと二人でいちゃいちゃしたいとか考えていたりするわけか?」


「い、いえ。ついていきますとも。岩崎さん」


 絵里ちゃんが焦ったように言う。


「そうか。それは良かった。なら、誰も知らない素晴らしい所に連れてってあげよう」


 そう言って、岩崎さんは歩き出す。






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