3-9 文化祭(1)
「うわぁ、先輩すごいですね。中学校とは雰囲気が全然違いますよ」
「ほんとだなぁ」
隣で絵里ちゃんがはしゃいでいるのを見て、僕も感慨気につぶやく。
今日は文化祭デートの日。
絵里ちゃんとは朝の十時に学校で待ち合わせして、自転車を二十分漕いでこの高校までやって来た。
ちなみに僕達はなんとなく制服を着ている。
それは学校見学を兼ねているからなのかもしれない。
「先輩」
「何? 絵里ちゃん」
「早く中入りましょうよ」
「うん、わかったから落ち着いて」
入口の校門からたくさんの人で賑わっている。
年齢層は明らかに学生が多いものの、そうではない人も意外に結構いる。
僕達はそんなバイタリティーあふれる空間の中、前へと進んでいく。
「お化け屋敷やってまーす」
「メイド喫茶どうですかー」
「十一時から劇やりまーす」
客引きも頻繁に行われている。
仮装をしながら看板を持って練り歩く人、チラシを配っている人。
いろんなタイプが見受けられて、見ているだけでも面白い。
「それにしても、ほんとに雰囲気がありますね」
「うん」
「すごいですよ。あれもこれも」
絵里ちゃんは止まらない。
ほんとに楽しそうだ。
「私、びっくりしました。これが高校の文化祭かぁ」
「そうだね。きっとこれが高校の文化祭なんだよ」
僕は感心しながらも言う。
ちなみに美咲さんに高校の文化祭に行くことを説明したら、大学の学園祭はもっとすごいと言われた。
これよりもすごいとはどういう規模なのだろうと思う。
僕は今でも十分にすごいと感じている。
「先輩、また遊園地みたいに下見をしてから楽しみますか?」
「うん。それがいいと思うよ」
「ですね」
絵里ちゃんが笑顔でうなずく。
その拍子にサイドにくくってある髪がちょこんと揺れ、僕はなんとなくそれを見つめてしまった。
「先輩?」
「あ、なんでもないよ」
「そうですか?」
「そう。なんでもないんだ」
自分に言い聞かせるようにつぶやく。
絵里ちゃんはそれで納得したのか、話を元に戻す。
「でも、下見は途中で寄りたくなっちゃう誘惑にかられるんですよね」
「そこを我慢して計画を立てるのがいいんだよ」
「あ、そうでした」
てへっと舌を出す絵里ちゃん。
おちゃめなしぐさはいつもと変わらない。
「一応、遊園地の時のジェットコースターみたいに指針となるものは決めときましょうよ」
「そうだね、できれば文化祭でしか楽しめないものにしようか」
「あ、それいいですね。でも、何がありますか?」
「何があるんだろう」
僕は考える。
けど、考えてもなかなか答えは出てこない。
「そうですねぇ」
絵里ちゃんも必死になって考える。
その横顔は真剣な表情だ。
「やっぱり劇だと思います」
「劇か」
たしかに劇は文化祭特有のもの。
絵里ちゃんの言う通りだろう。
「でも、刺激を求めるのならお化け屋敷もいいのかもしれません」
「あ、お化け屋敷もいいね」
僕は相槌を打つ。
「でも、やっぱり迷います」
「まあ、とりあえず全部回ってから決めよっか。意外なところに文化祭らしいのがあるかもしれないからさ」
「そうですよね」
絵里ちゃんが笑顔でうなずく。




