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3-7 ジモティーズ(2)





 絵里ちゃんの格好は前回と同じくスポーティだった。ロンTと短パンというお決まりの格好で、あいかわらず魅力的だ。

 特に短パンが隠れるロンTが素晴らしい。


「どうですか? 先輩」


 絵里ちゃんは誇らしげに格好を見せてくる。


「うん。問題ないと思う」


「他には何かあります?」


「似合っているよ」


「ありがとうございます」


 Vサインをした絵里ちゃんが笑顔を見せる。


「では、アップしましょうか」


「オッケー」


 絵里ちゃんと僕は周りを見習ってアップを開始。

 二人でストレッチをした後、ボール回しをする。


「絵里ちゃん、やっぱ上手だね」


「そんなことないですよ」


 謙遜はしているが、絵里ちゃんの技巧はあいかわらず上手だ。

 僕ではその実力に到底及ばない。


 絵里ちゃんの場合、練習の成果が如実に反映しているのだろう。

 普通の人との上達の度合いが全然違っている。


「先輩、先輩」


「何?」


「そろそろアップもこの辺にしましょう」


「そうだね」


 絵里ちゃんと僕は、頃合いを見て休憩をする。

 するとその時に、岩崎さんがこっちにやってきた。


「絵里ちゃん。ちょっと彼を借りるから」


「あ、はい」


 絵里ちゃんに断わり、岩崎さんは誰もいない場所に僕を連れだす。

 そして案の定、渡したいものについて話を切り出す。


「私、おたくに渡したいものあるんだけどさ」


「えっと、なんですか?」


 僕が尋ねると、岩崎さんはお尻のポケットからチケットみたいなのを取り出す。


「これだよ」


 差し出してくるので、僕は遠慮なく受け取る。

 見れば、高校の文化祭の優遇券と書かれている。

 それも二枚だ。


「おたくが受験したい高校の内側を見ておいた方がいいと思ってね」


 一応、遠目から見学したことはある。

 けど、敷地に足を踏み入れてはいない。

 だから、岩崎さんの言うことは理にかなっている。


「そうですね。それでこれを僕にですか?」


「そうさ。ちょっとした親切心を起こしてね。後、ほんの少しのいたずら心だな」


「いたずら心?」


「そう、いたずら心。今にも女の子に刺されそうなおたくが、あの幼馴染と絵里ちゃんのどっちを選ぶのかと思ってね」


 その言葉を聞いて、僕は心の変な部分を刺激される。


「岩崎さん。僕と綾はそんな関係ではありません。ただの幼馴染です。それに絵里ちゃんともそんな関係ではありません。ただの後輩です」


 それぞれの関係性を構築するのに然るべき距離がある。

 それを意識していないといけない。


 そうしていないと自分の中にへんな違和感みたいのが生まれる。

 とらえどころのないどうしょうもない感覚みたいなものだ。


「それにしてはただならぬ関係のようだね。特に幼馴染の方は」


 岩崎さんが痛いところを指摘する。

 やけに勘が鋭い人だ。

 むろん、秘密の遊戯についてを言っているわけではないと思うけど。


「まあ、とにかくだね。私はおたくがどっちと文化祭デートをするか楽しみにしてるわけだ」


「そんなこと言われても困りますよ」


「いいや、私が困らない。あ、ちなみに男同士でくることは禁止。男同士で来たらそういう関係だってことにするぞ。後、私に会わなければいいなんてごまかそうとしても無駄だから。当日しっかり連絡を取るからな」


「あ、えっと」


 岩崎さんの怒涛の勢いに圧倒された僕は言葉を返すことも出来ない。

 結局、渡されたチケットの端をずっと見ているだけ。

 反論する余地もなく、誰かを連れていくことが決定してしまった。


 なので、これをどうするべきか。

 僕は必死になって考える。


 このチケットは岩崎さんのいたずら心半分というのもある。

 けど、せっかくのご好意で渡してくれたもの。


 だからこそ、岩崎さんの言う通り文化祭デートと言う形で使うべきだろう。

 とは言っても、当てはなく思案に暮れてしまう。


「ということで、おたくのがんばりに期待しているから」


「期待されても困りますよ」


「またまた。冗談はほどほどにしないといけないな」


 岩崎さんがアメリカ人のように手を広げてオーバーアクションをする。

 僕はそれを見て、嘆息するのだった。






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