3-5 ハロウィンごっこ
翌日。
天気は翠さんの予報通り快晴。
なので直と僕は、ハロウィンパーティーのミニグッズとお菓子をトートバックに入れて持っていく。
二つともあまり場所を取らないのでかさならない。
だから、持って行くのには支障はない。
「直」
「ん?」
「綾はどんなお菓子を持ってくるかな」
「さあ? どんなお菓子だろう」
「綾は料理上手いから楽しみだね」
「ん」
昼休みになり、直と僕は屋上へ向かう。
直と二人でここに来るのは、綾の告白の儀式の時以来だ。
ともあれ、最近の僕はここを頻繁に利用しているといってもいい。
「あ、もう綾がいる」
「ほんとだ」
すでに屋上唯一の富士山が見えるスポットで待っている。
そしてそんな綾なのだが、風になびいてたそがれている姿はお嬢様そのもので、普段とは違って見えてしまう。
それは僕の見間違いでもない。
ほんとにそう見えるのだから仕方がないのだ。
「綾」
僕は声をかける。
すると綾が振り向く。
「春、直」
「待った?」
「待ってないよ」
「そう。それは良かった」
僕達は三人はいつもの青いベンチに移動する。
綾が真ん中で、直と僕が両端に座った。
「それじゃあ、綾」
「ん?」
綾が首をかしげる。
「まずはこれをかぶって」
「え?」
綾は困惑しているが、僕はムンクの叫びのような白黒のお面を渡す。
これはハロウィンパーティーの当日に僕が被ったやつと同じもの。
「綾」
「何よ、春」
「ハロウィンごっこなら、まずはこれをかぶらないと」
その言葉と共に、直と僕も同じお面をささっと取り出す。
先にかぶって手本を示す。
もちろん直も無表情でかぶっている。
「えっと、なんかちょっと違うんじゃ。ハロウィンにまつわるお菓子を交換するだけって聞いたけど」
「それだけじゃあ雰囲気でないから」
「そうかな」
「そうだよ。ほら」
僕が促すと、綾は不服そうにしながらもかぶる。
三人揃ってムンクの叫びのようなお面。
まるでサバトパーティーみたいだ。
けど、これからするのはハロウィンごっこである。
その証拠に直が何やら綾に迫っている。
「トリック・オア・トリート」
「へ?」
「トリック・オア・トリート」
「えっと、直にお菓子をあげればいいの?」
綾が戸惑っている間に、直は痺れを切らしたらしい。
「トリック」
そう叫び、なんと綾のスカートをめくる暴挙に出た。
「きゃっ、直!」
綾は慌ててスカートを押さえる。
けど、すでに時遅し。
白い残像が脳内をちらつく。
ばっちりと焼きついてしまった。
「な、なにすんの。直」
「お菓子をくれないから」
直が間髪いれずに答える。
僕は言葉が出ない。
「だからって、直ひどい」
「でも、いたずらだから仕方がない」
「仕方なくないっ!」
綾は直に憤慨していたが、急に矛先がこっちに飛んでくる。
「春」
「えっと、何? 綾」
「見た?」
綾が涙目で聞いてくる。
顔も真っ赤だ。
どう答えればいいのだろうか。
「えっと、それは……」
こうして困惑しながらも、この後は無事にハロウィンごっこが行われた。
綾をなんとかなだめてから、お菓子を交換してミニ仮装をしたりする。
それはハロウィンパーティーとまで呼べる代物でなかったけど、終わりには綾が満足げな表情を浮かべていたのだからそれでいいのだろう。
つまり、昼休みいっぱいを使って楽しむことができたので、成功したといっても良かった。




