表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/176

3-2 前髪






 直が作ってくれた朝食を三人で取り、学校へ行く時間となったので家を出る。

 美咲さんはもうひと眠りするらしく、部屋に戻っていく。

 直と僕はいつもの坂道を歩きながら、ぽつぽつと会話を交わす。


「朝、寒くなったね」


「ん」


 吐く息は白い。

 十一月ともなればすっかり寒くなる。

 それを肌で感じる。


 やがて学校に着き、教室のドアを開ける。

 そして席に座り、隣の吉田さんに話しかける。


「吉田さん」


「は、はいっ」


 びくんと背筋を伸ばす吉田さん。

 今日もいつもと変わらない大和撫子。

 と思ったけど、いつもとちょっぴり違う。


「もしかして前髪切った?」


「……っ!」


 僕がそう言うと、吉田さんはなぜか赤くなって涙目になる。


「どうしたの?」


「切りすぎちゃって」


「そうかな。そんなことないと思うけど」


「ほんと?」


「うん。似合っているよ」


「……っ!」


 さらに顔が赤くなる吉田さん。

 ほんとにどうしたのだろうか。

 しかも、なにかぶつぶつ言っている。


「もしかしてっ。これが前髪をつかむチャンス?」


「あの、吉田さん?」


「は、はい」


「なんか言った?」


「ううん。気にしないでね。坂本くん」


「そう」


「うん」


 なんだか変な雰囲気になっていく。

 最近の綾との間に起こるあの空気だ。

 なので、僕は慌てて用件を言う。


「それでさ、本読んだから」


「あ、読んでくれたんだ」


 空気が元に戻る。

 一気に解決した。


「うん。少しずつ読んだから二週間かかったけどね。吉田さんはもっと読むの速かったりする?」


「そんなことないよ。私もそんなペース」


「そうなんだ」


「うん」


 それから吉田さんと僕は、互いに共有できる話題となった本の内容を語り合う。

 あの場面が良かったなどと言い合い、結構話が弾んだ。


「で、思ったより面白かった。ありがとう。教えてくれて」


「ううん。感謝されることはないよ。私、もしかして自分の趣味押しつけちゃったかな、って自己嫌悪に陥りかけたとこだし」


「いやいや。そこまで考えなくてもいいのに。それにどうやらそんなことなかったみたいだしさ」


「そうみたいだね。良かった」


 吉田さんがはにかみながら言う。


「ていうかさ、なんだかファンタジーは食わず嫌いだったみたいだよ」


「そうなの?」


「うん。だから、良ければまた次のおススメを紹介してくれない?」


「え? いいの?」


「もちろん。読書が受験勉強のオアシスとなれればいいかな、と思ってね」


「そっか。それなら」


 吉田さんはいくつか本の題名を挙げてくれる。

 僕でも聞いたことがある有名な本だ。


「わかった。今度読んでみるよ」


「うん。それでね、坂本くん」


「何? 吉田さん」


「えっと」


 吉田さんはもじもじしていて、なかなか話しを切りださない。

 上目づかいにこっちを見て、何かを言いづらそうにしている。

 さっきまでスムーズに話し合っていたのが嘘みたいだ。


「どうしたの?」


 僕はとりあえず聞いてみる。


「あ、うん。また、今日みたいに本の内容を話し合ったりできるかなって思って」


「え?」


「あ。な、なんでもない。今言ったこと忘れて」


「どうして? 話し合ったりしようよ」


「え、いいの?」


 吉田さんの表情が驚きに変わる。


「いいに決まっているじゃないか。僕はその方が楽しいと思うんだ。それに僕達は隣の席同士なんだし、話し合う機会はたくさんあるはず。そうでしょ?」


 僕はまくし立てるように言う。


「うん。そうだね」


 吉田さんは嬉しそうにうなずく。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ