2-15 ハロウィン(2)
美咲さんの持ってきた仮装に着替え終え、僕達は互いの格好を見やる。
直はオルレアンの乙女風味な男装。
小平さんはバンシー系をモチーフとした妖精。
この二人の格好を逆にすると、わりとキャラクターに合う気がする。
けど、美咲さんはあえてこうしたようだ。
ちなみに僕は、かなり魔改造がこなされた燕尾服に、ムンクの叫びのような白黒のお面を被せられている。
この中で一番の色物なのは間違いない。
色物すぎてキャラクターが見えてこない。
「坂本」
「何?」
「そんなにじろじろ見るなっ」
「いや、似合っているなと思って」
「何言ってるの。こんな衣装が似合っているわけないじゃない。ショートカットでボーイッシュな私なんかに」
やけに本人は謙遜しているが、小平さんは美少女といってもいい部類だ。
たしかに服のタイプはキャラクターと合っていないのかもしれないけど、けっして似合わないということはない。
むしろ不思議な魅力として輝いている。
「うー、坂本」
「どうしたの? 小平さん」
「これでここら辺を練り歩くの?」
「うん。そうだね」
小平さんは自分の着ている仮装を見直して、顔を赤くする。
「はぁ、どうしてこうなったんだろ」
「それは小平さんが参加するっていったから」
「たしかにそうだけど、私は」
小平さんが小声でつぶやく。
「でも、ここまでしたんだから彼のこと教えてよね」
「えっと、それとこれと話が別だって」
僕は気まずそうに言う。
「私、ここまでしたのに?」
「あのさ、小平さん。これ楽しむもんだからね」
「わかってるわよ」
小平さんがやけくそ気味に叫ぶ。
そして何かを思い出したのだろうか。
底意地の悪い笑みを浮かべ、僕の耳元に近づく。
「そういえばさ、坂本」
「何?」
「あんた、ハロウィンパーティーは女装じゃなかったの」
「あ」
僕は虚をつかれる。
たしかにそんな言い訳していた。
なので、ここでしっかりと言い訳しないと整合性が取れない。
「えっと」
「ん? どうしたのよ」
小平さんはさらに攻め立ててくる。
「あ、急に変わったんだ」
「ほんとに?」
「ほんとだって」
僕は小平さんの様子を窺いつつも、さらに言い訳を募る。
正味五分くらいしゃべっていただろうか。
その間、小平さんは真偽を見極めるように聞いていた。
「それで納得してくれた?」
「納得してはしていないけどね。まあ、そんなことはどうでもよくなったってとこ」
小平さんはふん、と鼻息を荒くして言う。
どうやら話は逸れていくようだ。
「それよりもさ、どうして坂本は彼のこと教えてくれないの? 私、こんなに真剣なのにさ」
と思ったら、話が最初の方にぶり返した。
「いや、それは」
「私、真剣だよ」
小平さんが僕を真摯な瞳で見つめてくる。
それは直のように全てを見透かしてしまいそうな瞳とも違うし、絵里ちゃんのようにキラキラした瞳とも違う。
けど、たしかな特徴を持った存在感のある瞳だ。
「坂本、私、彼のあどけなくてほっとけない感じが気になって仕方ないの。そう、あのどこかを寂しさを抱えているようなアンニュイな雰囲気が」
なんだかどうにも言い訳の出来ない状況に追い込まれていく。
どうすればいいのだろうか。
僕にはわからない。
「ねぇ、坂本」
「うん」
「お願いだから私に紹介してよ」
小平さんは手を握ってまで嘆願してくる。
そしてその熱意に、僕は段々と押されていく。
「あのさ、小平さん」
「何?」
「じゃあさ、彼に聞いてみるから」
結局、僕は観念してそう告げる。
「え?」
「今のところはそれで勘弁してくれない?」
「あ、うん。わかった」
「どうも」
「ううん、こっちこそありがと。坂本」
小平さんが満面の笑みで喜びを表す。
不覚にも、妖精姿と相まってかわいいと思ってしまった。




