第九十六話*《十日目》プレイヤーと運営、双方参加のイベントらしい
ルールが決まったので、またもや世界一軽いアーウィスくんのアナウンスが入った。
【今回のルールですが、運営を時間内に全滅させてくださぁいっ! って、いてっ! なにするんですかっ!】
真面目に来るのかと思ったら、やはりアーウィス。語尾が締まりない。あれ、絶対わざとだ。だからなのか、だれかに怒られている。
『運営はあれでいいのか?』
『いいんじゃないですか? みんながみんな、生真面目な人が運営なんて、ゲームが面白くなさそうです』
『確かにそうだな』
にしても、アーウィスは軽すぎだと思うけど。
【今回のプレイヤー側の指揮はキースに任せたからな】
とは、先ほどの厳つい人。名前を聞いてないから分かりません!
【ももすけ、覚えておけよ?】
【キース、てめぇ、地域チャットで名前を呼ぶなっ!】
さっきの人の名前、ももすけっていうのか。見た目にそぐわないかわいい名前だ。
【犬のももすけくんによろしく】
【キースっ!】
な、なるほど? 飼い犬の名前からもらったのか。
【ふざけるのはここまでにして。指揮をするように指名されたキースだ。ソロで特攻でもいいが、せっかくなのでパーティを組んで、運営からNPCを取り戻せ!】
キースの呼びかけに、あちこちから鬨の声があがった。
それにしても、キースの声ってゲーム内でもその気にさせるというか。不思議だ。
前の災厄キノコのときと同じようにキースは次々と連合に招待していく。
【できるだけパーティを組んでくれると指揮が取りやすい】
キースの要望にソロ組もパーティに入っているようだ。
編成が終わったところでキースはフェラムに連絡を入れた。
【ゲームマスターのまとめ役であるフェラムです。βテストのときは企画はあったものの実現できませんでしたが、こんな形ではありますが、運営とプレイヤーの双方参加のイベントができたことを嬉しく思います】
ま、まぁ、前向きにとらえればそうとも言える。
【とはいえ、運営は負けませんよ!】
それに呼応するように、こちらだって負けねーからなっ! などといったプレイヤーの声があちこちから聞こえてきた。
『うんうん、盛り上がってまいりました!』
『それ、動画用か?』
『そうDeathにゃあ』
『だから殺すなと』
フィニメモでは毎日、モンスターを大量虐殺中Death! ってほど、狩りに出てない。それなのにレベル二十……。
無職なのに、レベル二十……。
なんだろう、このやっちまった感は。
楽してというより、ズルしてレベルが上がった感が半端ない。
レベリングって面倒だって思うけど、こうして勝手にレベルが上がっていると達成感がないのよねぇ。
そう、私に足りないのは、達成感だっ!
今回は一人で格上のボスに挑まされたわけだけど、結局のところ、自力で倒したというより、キノコたちのおかげだったわけで。しかも最後は寝落ちをしてしまって、キースに拾われたというおまけ付きだ。
なんというか、この拾われたというのが父のエピソードを彷彿とさせて、しょんぼりしてしまうのですが。
それにしても父よ、なんで拾われるなんてことに。
あ、これも知らない幸せなんだろうか。
それはさておき。
【それでは、第一回、運営対プレイヤーのGvG大会を始めたいと思います!】
運営さん、もしかしなくてもこちらの会話、聞いてます? それともこれは偶然の一致?
偶然だということにしておこう、うん。
『第一回って』
『二回目をやるかやらないかというより、第一回と銘打つことに意味があるのだろう』
そういうことなの?
ま、まぁ、あの運営だから、またなにか粗相をやりかねないし。そうなったらプレイヤーから抗議があって……。
それってどうなんだろうか。
『それで、ですが』
『なんだ?』
『結局、私はどうすれば?』
『オレとここで戦局の見極めを。マリーたちはどうする?』
『わたくしたちはお兄さまとお姉さまの護衛をいたしますわ』
『……となると、伊勢は遊撃、甲斐はここでマリーとともにいてくれ』
『御意』
マリーの御意ってここから来てる?
前から思っていたけど、伊勢と甲斐が入ってくると途端に時代がかなり過去に飛ぶんだけど、違う時間軸に生きてませんか?
それにしても、不思議なふたりだ。
私たちの役割分担が決まったところで、フェラムが
【開始から十分以内に運営を全滅させてください! では、スタートっ!】
と宣言した。
開始と同時にプレイヤーは運営本部に押しかけていた。
いつの間に運営は本部なんて? その襲ってくださいといわんばかりの主張というか……。
『あいつら、本気でやる気があるのか?』
やはり同じ感想を抱いたようだ。
まぁ、そう思うよねぇ。
『本部はおとりでござる』
遊撃を指示された伊勢から、本部の様子という報告が入った。
『おとり? ということは別働隊があると?』
『本部の中は空っぽだったでござる。どうにもこの会場のあちこちに散っているようでござる』
そういえば。
『運営とプレイヤー、どうやって見分けるのですかっ!』
『……言われてみればそうだな』
うぉぉぉいぃぃ!
『運営は……マーカーが緑のはずだ』
えと?
『改めて確認ですけど、一般プレイヤーが白で、βテストの上位者が黄色。NPCが青で、運営が緑?』
『そうだな』
キースはひとつため息を吐くと、
【運営のマーカーは緑だ】
と連合に向けて告げた。
どうやら運営の見極め方が分からなくて疑心暗鬼になっているプレイヤーもいたようで、だからこそ運営本部を襲撃という考えに至ったようだ。
なるほどね。
運営はそこを分かっていたからこその『運営本部』なのだろう。
運営のことを馬鹿にしていたというより格下と思っていたけど、ここは考えを改めないといけないらしい。
『運営に軍師がいるな』
『軍師と言っていいかは分かりませんけど、自分たちを下に見せて油断させる作戦ですわね』
マリーも同じことを思ったようだ。
【運営は人数は少ないかもだが、あらゆる手段を使って攻撃してくるぞ。油断するな】
とキースがアナウンスした端から悲鳴が聞こえてきた。
あっちゃぁ、やられたか。
『姿を消してプレイヤーが固まっているところで範囲攻撃を仕掛けてきてるな』
『少人数の不利を逆に利用されていると?』
『そうだが、こちらは数の暴力というものを搭載しているっ!』
『でも、相手をとらえないと意味ないにゃあ』
なんでこのタイミングで猫さんは現れるのかしら。
『……こんな茶番、さっさと終わらせて莉那といちゃつく』
『お兄さま、本音がだだ漏れですわよ』
『分かっている。わざとだ』
あれ、今の猫さん、キースを煽るためだったの?
『散々、煽りやがって、分かってるんだろうな?』
『なんのことかにゃあ?』
猫さん……。私の身が大変に危険なのですけどっ?
『お、ももすけ斑が……いち……に、三? 運営を仕留めたようだな』
『運営って何人いるんですっけ?』
『分からないが、三十人以上いるのは確かだろう』
対するプレイヤーはその十倍ではきかないくらいいると思われる。遠目から見ていると、人の波状態になっている。
ももすけたちのような高レベルな廃人さまたちから、イベントをやってるからというお気軽感から参加したプレイヤーと様々な人がいると思われる。
なので平均戦力はたいしたことないかもだけど、それをキースがどう調理するのか、なかなか見どころだ。
『……どうしたものか』
対人戦の指揮は初めてと言っていたけど、なるほど、これはなかなかに難しい。
対モンスターだとひたすら倒していけばいいだけ、というと極端だけど、それでいい。ボス戦もしかり、だ。
しかし、これが対、人となると話はかなり変わってくる。
相手もこちらを出し抜いて倒そうとしてくるのだから、それを上回る策を弄さねばならない。
遠くから見ている限りでは、どちらがプレイヤーで、どちらが運営なのか分からない。
だからこそ戦争のときは同じ服に身を包んでいたのか、と変なところで納得。
それにしても、なにか打開策はないのだろうか。




