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ゲームのレア職業を当てましたが、「洗濯屋」ってなにをするんですか?  作者: 倉永さな
《十日目》土曜日 *AIのない世界

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第九十三話*《十日目》運営チームの思惑

 速いのはいいんだけど、この人、軽すぎなのよねぇ。


「今回は強制退場はされませんから!」


 ドゥオはいないけど、キースがいるし、私だって我慢できなければ速攻でスリーアウトを出してやる。


「それで、ご用件は?」

「痛覚設定なんだけど」

「あ、それ! 大変申し訳ございません。ほかのことに手を取られてまして、現在、百%から下げられない状況なのですよ」

「運営、またやっちまった案件か」

「まぁまぁ、そう言わず! VRにMMORPGが導入された時は痛覚設定なんてなかったのですから!」

「痛いのは()なんですけど!」

「リィナリティさんのその『や』っての、かわいいですよね。運営内で大流行(おおはやり)ですよ」

「リィナがかわいいのはオレだけが知っていればいい」

「おや、キースさん、嫉妬ですか?」

「オレのリアル伴侶だ」

「……ぇ? リィナリティさんって既婚者だったのですかっ?」

「まだしてないです!」

「してるのと同然だ」


 キースめ! どんだけ独占欲が強いのよ!


「というかだ。まだ、ということはオレとの結婚を承諾したのだな?」

「あ……れ? そうなるの?」


 いや、違うぞ! 言いくるめられるな!


「いやぁ、なんか見せつけられただけですね!」


 アーウィスくんは相変わらず軽い。


「あ、キースさん。さっきの念書ですが、これでよければアナウンスをしたいのですが」

「あの念書だが、オレたちが負けた場合のことが書かれてないのが気になったんだが」

「それですね! 運営が勝った場合はそのまま継続です」

「それを付け加えてほしい」

「了解であります!」


 アーウィスくんはなにやらやり取りをして、少し待った。すると、その手には一枚の紙が握られていた。


「では、こちらが新しいものです。ご確認をおねがいしまぁっす!」


 キースはいつもの無表情に戻って紙を受け取り、確認していた。


「……これでいいだろう」

「あざーっす!」


 この人、本当に社会人? 大丈夫?


「それでは、しばしお待ちを。これからワールド内にアナウンスしますので。それではっ、アデュー!」


 最後の最後まで軽いままのアーウィスだった。


「なんだ、今のは」

「世界一軽い運営くん」

「リィナ、むやみやたらとあだ名をつけるな」

「なんで?」

「……どうしてオレの苦悩を分かってくれない?」

「あれ? キースさんもあだ名をつけられたいのですか?」

「そうじゃない!」


 違うの?

 それならどうすれば?


「オレはリィナの、莉那の一番でありたい」

「一番、かぁ」


 私の一番ってだれなんだろう?

 そんなこと考えたことがなかったから言われて戸惑う。


「オレの中では莉那が一番だ」

「そ、そうなの?」


 改めて考えてみるけど、私の中ではだれが一番というのはなくて、だれもが一番で、大切だ。


「私は……みんな一番で、みんな大切なの」

「さすがだ。……ということは、オレは一番でもあるということか」

「そ、そうね」


 相変わらず変に前向きだ。


 そんな話をしていたら、ようやく運営からアナウンスが入った。


【ふははははは、全プレイヤー諸君!】


 この声は先ほどのアーウィスくん。


【世界一軽くて、運営で最速のアーウィスが告ぐ!】


 さっきの()()、しっかり聞かれてら。


【NPCを()()()ほしくば、われら最強の運営チームにPvPで勝ちたまえ!】


 運営チーム、悪役を地で行くつもりのようだ。というより、アーウィスくんだから無自覚にやっているような気がしないでもない。


【今からログインしている全プレイヤーにアンケートを送る。締め切りまで何度でも回答を変えてもいいが、よく考えるといい!】


 思っていたより親切?

 と思っていたのですが、私のところにきたアンケートは『参加する』以外は選択できなくなっていた。

 いえ、参加しますけど!

 突発クエストも選択肢がないままだったし、強制参加はデフォルトなのですか?


「強制参加か……」

「キースさんもですか?」

「リィナもか」

「私はいつもですけどね」

「いつも……。さすが、なのか?」

「システムはAIがなければやらかしはしないと思っていたのですけど」

『あ、リィナリティさんとキースさんは強制参加ですからね!』


 アーウィスくんからの声に、思わずふたりして同時にため息を吐いた。


     ◇


 私たちは早々に特設ステージに転送されていた。

 ステージというからライブ会場のようなものを想像していたのだけど、実際にはスタジアムと言えばいいのだろうか。

 観客らしいプレイヤーがすでに観客席に座っているのが見える。


「やぁ、リィナリティさん」

「フェラムさん」

「あと、キースさんも」

「……あぁ」


 なぜかいきなり、キースがパーティ勧誘をしてきた。疑問に思いつつ了承すると、私とキース、それからフェラムが。


『フェラム』

『なんでしょうか』

『どうしてAIとNPC鯖を切り離した?』

『あぁ、それですか。リィナリティさんは面識があると思いますが、開発チームのリーダーであるミルムがAIの()()()に気がついて、経営陣に掛け合って取り除くことが決定されたのですよ』

『経営陣……』

『メンテナンスの延長に許可が下りたのも、ミルムの後ろに経営陣がついていたからです』


 経営陣から了承を得てるのなら、もしもプレイヤーが勝っても元に戻すのは難しくない?


『ただ、メンテ明けからプレイヤーからの抗議がすごくてですね……』

『だからこんな茶番をした、と?』

『はい。そこにちょうどキースさんからもご提案がありましたから、乗っからせていただきました』


 やはり運営と開発は極端な言い方をすれば対立関係にあるのか。


『経営陣の中にはプライベートでフィニメモをプレイされている方もいらっしゃいまして、そういう方たちは今の仕様に反対のようですが、トップがですね……。はぁ』


 フェラムは社会人として苦労をしているようだ。上と下とに挟まれて苦しんでいるのは、今も昔も変わらぬ中間管理職のさだめ、か?


『……まさかわざと()()()なんてことは、しないよな?』

『バレましたか、ははは』


 バレましたか、じゃないです!


『確かに前の仕様に戻せと要求したが、手抜きは求めてない』

『容赦ないですね』


 フェラムの声は疲れていたけど、楽しそうだ。


『手を抜いてわざと負けるのなら、そもそもこんな馬鹿げた仕様に変更させるようなことをするなと言いたい』

『まったくそのとおり。なんですが、気がついたのがメンテ明けという体たらくでして』

『だが、メンテ延長になって運営に問い合わせて回答をもらったヤツの話によれば、NPC鯖に重大なミスを発見してという話だったらしいが』

『はい、開発チームからそのように聞いていたので、そう答えるように指示は出しましたが?』

『気がつけよっ!』

『言い訳になってしまいますが、もしかしてという思いはありましたよ? でもまさか開発チームがあんなにも強固な姿勢を見せるとは思わず』


 良く分かんないけど、開発チームは()()()に気がついたのかもしれない。


『とにかく、だ。手抜きはしない、プレイヤーが勝っても()()()()元に戻せ』

『キースさん、言ってることがむちゃくちゃ』

『ふふっ、かしこまり。リィナリティさん』

『はい?』

『私はですね。あなたたちと一緒に、一度でいいから共に戦ってみたいのですよ』

『にゃっ?』

『私たち運営チームはあなたたちを見張ってます』

『……不本意ながらそうみたいですね』

『今日もあなたたちがログインしてきてから見張っているのですが』


 うきゃっ? ま、まさかあの、ログイン直後のアレも見られていた、と?


『NPCがいないと楽しくない、という結論に達しました』

『Deathよねぇ』

『リィナ、殺すな』

『てへっ』


 するとキースがギュッと私を抱きしめてきた。あの、フェラムと話しているところなんですけどっ!


『どうして次から次へとかわいいことをするんだ』

『キースさんは通常運転中のようですから、無視して続けますね』

『はぁ』


 さ、さすが?


『それに、リィナリティさん、あなたは特にAIがないと困るのでは?』

『そうなのですよ! 職が消えて、ですね』

『たぶんだが、AIとNPC鯖を切るときに、システムの一部も意図的に切ったのではないかと思っている。そこにリィナの職情報などが乗っていた』

『まぁ、お互いが絡み合って複雑なシステムになっているのは確かですから、それはあり得ますね』

「私の職データがある場所が削除されたから、参照しようにもデータがないから出来なくて空白になっている、と』

『空白、なのですか?』

『はい。スクショがあるので、見ますか?』

『ぜひ。もし問題なければ、そのスクショ、提出していただければ』

『あいにゃ!』


 ね、猫さん……。フェラムにまで猫……。あれこれ、煽ってるの? 猫さん?


『こ、これが噂の「にゃ」……。直に聞くと、なかなか強烈ですね』

『かわいかろう?』


 キースがなんで自慢げなのさ?

 しかも抱きついて、頭を撫で撫でし始めたのですが?

 いちいち気にしていたら大変なので、気にしない、気にしない、と。

 母の気持ちが激しく分かってきたよ。

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