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ゲームのレア職業を当てましたが、「洗濯屋」ってなにをするんですか?  作者: 倉永さな
《十日目》土曜日 *AIのない世界

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90/230

第九十話*《十日目》AIのないNPCは悲しすぎる

 一軒家といっても、間取りも! 広さも! まったく違うものということを思い知らされました。


 藍野家、金持ち。

 陸松家、それなり。


 く、悔しくなんてないやい!


 そもそもがVR専用の部屋があること自体が間違っていると思うのですよ!

 さらには! そこに二台置いても余裕があるとか!

 わ、私の部屋……。わかっていたけど、狭かったのね……。


「それでは、ゲーム内で」

「あいにゃ!」


 楓真のお下がりとはいえ、麻人さんのVR機に負けてないぞ!

 ヘルメットをかぶって、と。


 久しぶりに見るフィニメモのログイン画面。

 なんだけど。

 あれ? なんか微妙に違わない?

 このゲーム、こんなにグラフィック、ちゃちかった?


 疑問に思いつつ、暗転。

 そして次に目にしたのは。


「うにゃあ!」

「おはよう、オレのリィナ?」


 な、なんと! 麻人さん……違った、キースのあごから下が目の前に。

 な、ど、どういう状況っ?


「なななっ?」

「そういえば、どこかのだれかさんは()()()していたなぁ」


 ……思い出した。

 アネモネと戦っていたのだけど、ゲーム内で睡眠のデバフを喰らって、リアルでも寝てしまったのを。


 間抜けすぎる。


 いや、それは分かったのだけど、なんでここ?

 しかもこの体勢、どう見ても抱きしめられているのですが!

 キースが抱きしめているせいで身体を起こせないのだけど、見える範囲で判断すると、ここはどうやらどこかの宿屋。視界の端に見覚えのある姿。


「ドゥオ!」

「お帰りなさい、リィナリティさん」


 な、なぬっ?


「ドゥオ?」

「お帰りなさい、リィナリティさん」

「あの、ドゥオ、よね?」

「お帰りなさい、リィナリティさん」

「……………………。キース?」

「なるほど、運営はNPC鯖とAIの繋がりを切ったのだな。それでメンテが長引いていたのか」

「え?」

「メンテ前のドゥオだったら、今の状況を見て、『キース、アウト』と言っていただろうな」

「そ、そうね」


 というか、分かっているのなら止めなさいよ。

 これ、絶対にドゥオに言わせたくてやってるでしょ?


「ところが、だ。メンテ明けの今、話しかけなければ反応がなくなっている」

「うぅ、ドゥオがぁ」

「お帰りなさい、リィナリティさん」

「……これはひどいな」


 打てば響くドゥオだったのに、同じセリフしか返ってこなくなった!


「私のドゥオを返してぇぇぇ!」

「お帰りなさい、リィナリティさん」


 うぅ、これは本当にひどい。


 めそめそと泣いていると、キースが慰めるように頭を撫でてきた。だからってわけではないけど、胸元に顔をうずめた。


「役得ではあるが、こいつらがこれだと、張り合いがない」

「……どっちなんですか」

「張り合いがあるのがいいに決まっているだろう」

「なんでNPCと争うの」

「こいつらしかリィナの良さを分かってないからだ!」


 いえ、リアルでの反応が正しいのだと思うのですが。


「とりあえず、だ。世界樹の村に戻るか」

「そういえば、ここってどこですか?」

「まさかのそこからなのか?」

「そうだった。前にドゥオに」

「お帰りなさい、リィナリティさん」

「……もしかして、私が名前を呼んだら」

「そういうプログラムをもとに動いているのだろうな」


 うぅ、悲しい。


 それはともかく、と。

 前にマップを見るようにと教えてくれたので、見ることに。


「え……と? オセアニの村?」


 サラが言っていた村か!


「分かったか?」

「りょ」


 となると?


「サラに水源に来るように言われていたんだが、この状況で行ってもな」

「……そうね」

「なので、状況確認をするために世界樹の村に戻ろう」


 洗浄屋は残っているのか、残っていたとしてもみんなはどうなっているのか。

 不安は尽きないけど、キースがいてくれる。

 一人ではないというのは、なんと心強いのだろうか。


 急がないのならフィールドを歩いて戻りたかったのだけど、今は急ぎだ。なので村間転送装置を利用することに。

 ここでもNPCの対応がプログラムどおりで、それは当たり前なのかもだけど、個性が消えてしまって悲しい。


「運営、許すまじ」

「激しく同意だが、それをするのは確認してからだ」

「洗浄屋のみんながNPCになってしまうなんて」

「待て。あいつらは()()()()NPCだぞ」

「……分かってますよ。分かってるけど! こんな味気ない対応ではなかったではないですか!」

「……AIに関しては色々と複雑な気持ちはあるんだが」

「だけど」

「上総に聞かされた『未来』は、オレがいてもいなくても起こる結果だったのか。オレが関わってしまったばかりに──」

「キースさん、そもそもが間違ってますよ」

「なにがだ?」


 たまに後ろを振り返りながら、口を開く。


「関わらなければ、そもそも()()なんてしませんよね?」

「……そう、なのか?」

「観察することで、関わり合いができません?」

「ずいぶんな詭弁(きべん)のような気がしないでもないが」

「知らなければ、そこでなにが起こっていても、私たちには知りようがありません。だから、そこでなにかが起こった、ということを知った時点で、関わってるんです」


 ちらりと見ると、ドゥオは私たちについてきている。


「だから、キースさんが気にすることはないのですよ。たぶんですが、事前に辞めさせたのは、AIなりの優しさ、ですよ」

「……そういうことにしておこう」

「それがいいです」


 もしかしたらAIは、藍野家の人たちに働かれては困るのかもしれない。なにしろ彼らは色々と鋭いから。私たち人間に不都合なことをAIは隠しているのかもしれない。……なんて思ってしまうわけですよ。


 あるいは。

 麻人さんが選んで入ったあの会社自体がAIにとって不都合ななにかがあるのかもしれない。

 だからこそ、亡くそうとしている──。


「それにしても」

「ん?」

「AIってなんでしょうね」


 データを蓄積しただけでは、なんの役にも立たない。だからこそ、これまで収集したデータを読み解き、利用しようとしたのがAIだと認識してるんだけど?


「……クイさんいわく、」

「え? クイさんとそんな話をしたのっ? いつ?」

「したぞ。リィナが家出したときだ」

「……ぅ、やっぱりあれ、家出判定なんですか?」

「駆け落ちでもいいぞ」

「かけ……。ま、まぁ、一人ではなかったですけど!」

「みんととすみれなんて()()()()()作って」

「あのですね!」

「冗談はともかく」

「キースさん、冗談が言えたんですね」

「ほら、いちいちチャチャを入れない」

「あいにゃ」

「…………。AIというのは、情報の(かたまり)なんだそうだ」

「情報の……塊?」


 それは先ほど似たようなことを考えたところだ。


「今まで蓄えた言葉、表面的な感情。それらを合わせ、時には()()()()──と」

「表面的な、感情……」

「さすがに内面でなにを考えているのかまでは分からないのだろう」

「そ、それが、AI搭載のNPC?」

「クイさんの話を信じればそうなる」


 感情まで似せられるなんて。


 でも、確かに不自然さや違和感はなかった。


「そのうち、AIが人類は不要だと判断したら、滅ぼされる可能性もあるな」

「そ、そんなっ!」

「あくまでも可能性だ」

「……うん」


 それでも。


「人間にもいろんな人がいるし、いなくなって欲しいと思う人もいないわけではない。でも、滅んでほしいなんて思ったこと、ないです」

「まぁ、そうだな。そこはオレも同感だ」


 そんな話をしていたら、洗浄屋に着いてしまった。


 実は洗浄屋で真実と直面するのが怖くて、わざとゆっくりと歩いていたのだけど、着いてしまうわよね……。


「……か、覚悟を決めて……は、入りますか」

「建物自体は見えるし、洗浄屋の看板も出ているな。さすがに運営もここまで手が回らなかったのか、それともなんらかの事情で残しているだけなのか」


 どちらでもいい。

 残っていた、という事実だけあればいい。


 洗浄屋のみんなはNPCに戻ってるだろうから……。


「うぅ」

「……運営め。後で呼び出して説教だな」

「説教だけで済ませるなんて、キースさんは優しいですね」

「そうだな。……なるほど、その手があるか」


 キースはなにか思いついたらしい。


「それでは、行くぞ」

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