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ゲームのレア職業を当てましたが、「洗濯屋」ってなにをするんですか?  作者: 倉永さな
《十日目》土曜日 *AIのない世界

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第八十九話*着せ替えごっこ

 フィニメモの無期限メンテの決着は、土曜日の早朝についたらしい。


 どうして伝聞なのかと言いますと、察してください。


 しかも私が気絶するように寝ている間に実家に置いていたVR機器一式を麻人さんのお家に移動させただなんて、いえ、そのうちそうしようとは思っていたのですけど!


 ……もしかしなくても、私、このままここから出られない?

 さ、さすがにそれはないよねぇ?


「麻人さん、つかぬことを」

「しばらく無理だぞ」

「まだなにも言ってません!」

「家に帰ることができるかどうか、だろう?」

「ぅ、そ、そのとおりなんですけど!」

「莉那、どうして駄目か、聞きたくないか?」

「ぅ…………? も、もしかしなくても、なにか」

「あった」


 なにかって、ナニですかっ!


「金曜日の夜二十一時過ぎ。通常であればフィニメモは稼働していて、莉那はかなり高い確率でプレイしている時間だろう」

「そ、そうですね」


 ところが昨日のその時間は……。

 お、思い出すだけで恥ずかしいので、そこは麻人さんと仲良しだったということで!


「ところが、フィニメモは木曜日の定期メンテナンスのまま、無期のメンテに入っていた。だからこそオレがここに莉那を連れ込めたわけだが」

「ぅ」

「それはともかく。そのことを知らない空気読めないくんは──」

「ま、待って! な、なんでそこで空気読めないくんが出てくるのっ?」

「なんでだろうなぁ?」

「ひぃ、怖いっ!」

「莉那の家に、あいつが来たんだよ」

「──……え?」


 き、来たって、な、なんであいつ、私の家を知って……。


「なんで、家」

「まぁ、色々なパターンが考えられるな。莉那のいる部署は全員が人事データを見ることが出来るよな?」

「……はい。人によっては表層しか見られなかったりしますけど」

「それでも、名前と所属会社、部署、居住地までは見ることが出来る」

「はい」

「それを見て、メモっていた可能性は?」

「ありますね」


 あいつほんと、ろくでもないなっ!

 そんなヤツをあの部署に配置するなと言いたい!


「今回が初めてだとは思えないんだよな」

「ぇ」

「事前に下見に来ていた可能性は高い」


 キモい! キモすぎるぞ、空気読めない!


「だが、家族には接触してなさそうなんだよな」

「空気読めないから、突撃して母にコテンパンにやられているかも」

「……ありえるのか?」

「依里さんにチョップかませる母ですよ?」

「なるほど」


 しかし、さすが空気読めない。母のこと、怖いと思わなかったのか。

 母の(まと)う、そこはかとなく恐ろしい空気を感じ取れないとは、哀れなヤツ。


 もちろん、普段はそんなことないのですよ。

 ただ、たまぁーに、なんと表現すればいいのか。肝がヒヤリと冷えるような恐ろしさを感じることがあるのですよ。我が母ながら怖い、と思うことがある。


「それで、だ」

「……はい」

「空気読めないくんはこともあろうか、陸松家に不法侵入を試みようとして、周りにいた莉那の行動を探る密偵に見つかって警察に捕まった、と」

「あの、麻人さん」

「なんだ」

「どこからツッコめばいいのか分からないくらい、おかしな点しかないのですが」

「莉那は自分が監視されていることに気がついていたか?」

「あれだけあからさまでしたら、さすがに」

「今回はそいつらのおかげで未遂だった」

「そうかもですが、なんでそんなのが!」

「まぁ、オレのせいだな」


 今回の件に関しては密偵が活躍……というとなんかおかしいけど、そいつらのおかげで空気読めないに侵入されることはなかったわけですが、どちらにしても、おかしい!


「警察では莉那のことを悪く言っているらしいが」

「……あいつはいつもそうですよ。自分は仕事ができる男で、私は仕事が出来ない、助けてあげないとダメダメなヤツと思われているようですから」


 んなことあるかぁ! と何度、叫びたくなったことやら。

 妄想も大概にしろと。


「私のことを悪く言ったからといって、不法侵入の理由にはなりませんからね」

「そうだな」


 かかわり合いたくないので、あいつのことは忘れよう。


「家に帰れない、というより、帰らないほうがよい、ということですね」

「そうだな。着替えに関しては、こちらで用意した」

「そ、それはどうもありがとうございます?」

「着替えは陽茉莉が用意してくれたから、安心しろ」

「陽茉莉ちゃんが?」

「あいつはまだ学生だが、そこそこ名の売れたデザイナーなんだぞ」

「デザイナー……?」


 フィニメモで着ていた防具は明らかにプレイヤーメイドだったけど、まさかあれ、マリーちゃんデザイン?

 あと、陽茉莉が着ていた服、かわいいと思ったけど、もしかしなくてもあれも?


「気に入った客にしかデザインしない、なかなかわがままなデザイナーなんだがな。それでも引っ張りだこらしいぞ」

「この間着ていた服も?」

「あぁ、あれな。あれも陽茉莉デザインみたいだな」


 な、なんという才能にあふれた子なの!


「いい! かわいい!」


 とはいえ、陽茉莉は黒髪ロングで美人さんだけど、私は黒髪ボブ。しかも平民顔。果たして、似合うのかっ?


「莉那の部屋に用意してるが、見てみるか?」

「あいにゃ!」


 いかん、猫さん! どうして煽るように出てくるのっ!


「……なるほど、かわいい服を着たままというのも」

「うわぁ! なに考えてっ!」

「猫コスプレもありか」


 だ、だれかこの人、止めてっ!


 私は慌てて隣の部屋に飛び込み、鍵をかけようとしたけど、麻人さんはやはり上手(うわて)だった。長い足と腕で扉が閉まるのを阻止した。さ、さすがだ。

 って感心している場合ではなくて!


「あの」

「陽茉莉から伝言だ。『どの服が気に入ったか教えてほしいです』と」


 クローゼットを開けると、服がズラッと掛かっていた。そしてそれらには記号と番号が書かれた紙がハンガーについていた。


「そこに書かれている記号と番号を知らせればいいみたいだな」

「うぅ、どれもかわいいけど、似合うとは思えない……」

「着てみないことには分からないだろう」


 そう言って麻人さんが当たり前のように私が着ている服の端に手を掛けて、脱がそうとしているのですが!


「麻人さん、アウト!」

「なんでだ?」

「自分で脱げますし、着替えも出来ますから!」

「手伝いたい」

「脱がしたい、としか聞こえないのですがっ!」

「よく分かったな!」

「アウト!」


 ぎゃいぎゃいと言い合ったのだけど、結局のところ、私の負けだった。

 それにしても、なにが楽しくて、脱がしては着せ、をしてるんだろう、この人。


 麻人さんは順番に私に服を着せては写真を撮り、脱がせると次の服を着せ、を繰り返した。


「麻人さん、楽しいですか?」

「楽しいに決まっているだろう!」


 さようですか……。


 結局、すべての服を着せられたのだけど、いったいどれがよいのか分からなかった。

 陽茉莉デザインはレースたっぷりなかわいらしいのから、シンプルだけど少し変わった布の使い方をしたものや、違う素材の組み合わせなど、実験的なものがあったりとなかなか面白い。

 麻人さんはどれが気に入ったのだろうか。


「陽茉莉は良く分かっている」

「なにが?」

「莉那はいつも地味な服ばかり着ているよな」

「地味なって。社会人として当たり前な格好を……って。麻人さん?」

「なんだ」

()()()()私を見てました?」


 それは直感だった。

 仕事にはいつも地味といっても過言ではない服しか着ていってない。なぜなら、下手に目立つのは得策ではないからだ。

 この一週間も同じように地味な服しか着ていってないけど、どうもその前からも含んでいるように聞こえたのだ。


「……実は、何度か様子を見に行ったことがある」

「それで周りが騒いでいたんですね」

「こっそり見に行っていたんだがな」

「麻人さんのこっそりはあてになりません!」

「バレていたのか。それなら、早々に止めたから問題ない」


 確かにすぐに沈静化はしていたけど、ずいぶんと騒動になっていたことをこの人は知らないだろう。


「それにしても」

「ん?」

「どうして麻人さんが少し動くだけで騒動になるのでしょうか」

「たぶんだが」

「はい」

「オレの行動がAIにとって気に入らなかったというか、想定外のことだったのだろうな」


 就職活動をして、今も働いていることを指しているのなら、私も思ったことだ。


「AIにとって麻人さんが働くことはデメリットなんですか?」

「さぁな」


 とりあえず、一段落したので、ご飯を食べたらフィニメモに久しぶりにログインだ!

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