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ゲームのレア職業を当てましたが、「洗濯屋」ってなにをするんですか?  作者: 倉永さな
《八日目》木曜日 *リアルのみ???

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第八十六話*フィニメモのメンテナンスは無期限?

 夕飯はカオスで食べた気にならなかったのだけど、麻人さんと陽茉莉ちゃんはよく食べていた。二人は食べ終わると「フィニメモで会いましょう」と言って帰っていった。


 なので私もフィニメモにログインしようとしたのですけどね?


 むむむ?

 メンテナンスが延長? 終了日時未定? どういうこと?


 公式サイトを見に行くと、説明が書かれているのだけど、どう見ても支離滅裂で、運営が混乱しているようだった。

 なにこれ?


 そう思っていたら、麻人さんから電話が。


「あいにゃ!」

『くぅ。やはり持ち帰り』

「ダメですにゃ」


 うむ、猫は麻人さんを煽るスタイルで行くようだ。私にはなにひとつメリットはないのに。


「それで、まだ家に着いてないと思われますが、忘れ物でもしましたか?」

『莉那を連れて帰るのを忘れた』

「忘れる程度なのなら、それはまだ駄目にゃあ」

『あえて忘れた振りをしたのに!』

「分かりましたから、本題」

『フィニメモがずっとメンテナンス中みたいだな』

「あぁ、そうみたいですね」

『……この隙にオレの家にVRを持ち込んで設置……』

「拒否します!」

『なんでだ?』

「母のご飯が食べられなくなるのは()です!」


 それだけではないけど、なんというかですね。

 ……覚悟? が出来てないわけですよ。


『それなら、二人も一緒にくればいい。そうすれば父も喜ぶ』


 あれ? なんか墓穴?


『楓真は帰国したら、陽茉莉のところだしな』

「えっ? そこ、もう決まってるのっ?」


 あまりの驚きに、猫さんが行方不明。いや、これが普通なのか。


『当たり前だろう。陽茉莉を狙っているヤツは多いからな。楓真も護衛対象になる』


 ぉ、ぉぅ。

 それもあって、急な帰国になったのか、納得?


『莉那』

「はい」

『本気の本気で聞く。両親も一緒にこっちに来ないか?』


 な、なんだろう。

 陸松家、藍野家に取り込まれる、の図?


「あの、素朴な疑問なのですが」

『なんだ?』

「麻人さんと陽茉莉ちゃんのお母さまのご家族も同じように、その」


 なんと言いますか。


『あぁ。母は天涯孤独だったらしいぞ』

「そ、そうだったのですね」


 参考にしようと思ったのに、ならなかった。


『それに、母の時と時代が()()


 うぅむ。


『それと、陸松。オレは会社を()()()()()()()()()()なった』

「な、なんでっ!」

『会社からはそのあたりの説明はなにもなかったのだが、調べたところ、どこぞの馬鹿が会社に圧力をかけたそうだ。そいつがだれか分かっているので、親父に進言しておいた。あとは知らん』

「急な話ですね?」

『昨日の夜、された』

「報連相っ!」

『今、しただろうが』

「さっきでよかったじゃな……い、です……か」

『先ほど、調査の結果を聞いたばかりで……。って、頼むから、電話の向こうで泣かないでくれるか』


 なんで?

 彼らがなにをしたっていうの?


 別に藍野家の人たちに不思議な力があるわけではない。

 むしろ、あったほうがよかったのにと思う。


『すまないが、戻ってくれないか』


 え、な、なんでっ?


「も、戻って来なくていいからっ!」

『陽茉莉とは別だから、問題ない』


 いや、そういう問題ではなくて!


「運転手さんっ! 戻って来なくていいから!」


 聞こえるかどうか分からないけど大声で叫ぶと、遠くから『問題ございません』と聞こえた。うぅ、すまぬ! それと、今度、名前を教えてください……!


 麻人さんが戻ってくるということで、玄関前で待とうと思ったのですけどね?


 玄関を開けた瞬間、サッと人が去る気配があったので、慌てて中に戻った。

 えと?

 なんか人、いたよね?


 少し時間を置いてそっと覗いてみたら、やはり人が。


 これ、もしかしなくても、見張られてる?

 さっきまで麻人さんが来てたから?


 …………………………。


「あら、莉那ちゃん、玄関でなにをしてるの?」

「ぁ、母。外に人が」

「あらぁ、それ、最近はずっとよ? 気にしちゃ駄目よ」

「最近って具体的にいつからっ!」

「んー? あら、いつからかしら? 最近と言ったけど、ここ二・三日かしら?」


 ……犯人はやはり麻人さんっ!


 ほんと、なんなの?

 嫌がらせも甚だしいのですが!


「懐かしいわ」

「はいっ?」

「依里さんと仲良く遊んでたとき、こうやってよく纏わりつかれてたのよね」

「……………………」

「さすがに雑誌に載ったりはしなかったけど、そういう人たちも来てたみたいよ」

「なんでそんなに冷静なの」

「ん~。あの人たちは()()()()だから」


 そう言われると、なんでだろう、急にオカルトチックになるのですが。

 母の何気ない一言ってなんだか良く分からない恐ろしさがある。


 そんな話をしていれば、麻人さんが戻ってきた。


「あらあら、麻人くん、どうしたの?」

「莉那の持ち出し許可をいただきに」

「駄目にゃっ!」


 猫さんっ! 逆効果っ!


「そうねぇ。いいわよ、と言いたいところなんだけど、莉那ちゃんも準備がいると思うから、今日は駄目ね」


 母、グッジョブ!


「分かりました。こちらも受け入れ体勢を万全にして、いつでも迎えられるようにします」

「それなら問題ないわ」


 母はそう言って、去っていった。

 ……な、なんというか、この、微妙な空気。


 それより!

 改めて母の言葉を思い返すと、準備さえ整えばいいって言ってるし!


「莉那」

「な、なんでしょうか、麻人さん」

「泣くときは一人で泣くな」

「なっ、なに言ってるんですか」

「オレが知らないところで莉那が泣いているのは、つらい」


 そうだった!

 なんで麻人さんが戻ってきたのか、思い出した!


「会社を辞めなくてはならないって」

「……仕事の妨げになるから、いないほうがよいと」

「そんな! 麻人さんは真面目に仕事をしているのに!」

「オレが真面目でも不真面目でも、オレがいるだけでみだりに風紀を乱すから、と」


 なんなの、その理不尽なのはっ!


「莉那にも迷惑をかけたな」

「迷惑だなんて!」


 なんというか、悔しくて涙が出てきた。


「泣くな」


 そう言って、麻人さんは恐る恐るといった感じで私の頬に触れ、涙を拭ってくれた。


「その、抱きしめても、いいか?」

「ゲーム内だったら断りを入れないのに」

「……こちらだと、お持ち帰りしたくなるからな」


 リアルとゲームとの違いは、はて?


 ……も、もしかしなくても。


「身体目当てかにゃあ!」

「良く分かったな」

「駄目にゃんっ!」

「……持ち帰らなくても、ここでも問題ないよな?」

「問題、ありまくりにゃあ!」


 猫さん、自重!


 玄関でぎゃいぎゃい言っていたので、母に怒られ、仕方がなく自室へ。

 人を招き入れられる状態ではないけど、致し方ない。

 ちなみに、在宅勤務をする場合は空き部屋でやっている。あそこは荷物が詰め込まれているけど、ちょうどよい机と椅子があったし、なによりも電源ですよ! VR機器、どんだけ電源ケーブルついてるのってくらい部屋の電源口を奪っていったのですよ。電気代、怖い……!


「部屋を見ても引かないでくださいね」

「分かった」


 絶対こいつ、分かってない。


 引き戸を開け、中を見せると案の定、引いていた。


「な、なんでこんなことになっている?」

「奥が寝るためのベッド、目の前にあるのが楓真から譲られたVR機器」

「ほかの部屋は?」

「楓真の部屋は楓真の荷物でいっぱい、空き部屋は荷物いっぱいだし、私はあそこで在宅のときは働いてるので、置く場所はここしかなかったのですよ」


 一人一軒の家を与えられてる人には分からないでしょうね、この状況。


「やはり、早く整えて」

「却下っ!」

「なんでだ?」

「いいですか、麻人さん。結婚は就職と同じくらい、人生を左右する出来事なんですよ? それを知り合って数日で決められるわけ」

「ある。オレは決めた。莉那がいい」


 そんなに真っ直ぐな視線で断言されると大変に困るのですが。


 結局、ベッドに隣同士で腰掛けて、麻人さんと話し合いを行った。

 それは日付が変わるころまでで、結局のところ、どこまでいっても平行線だった。車はとっくに帰っていたので、麻人さんは泊まっていくことになった。

 …………私と一緒のベッドで。


 狭いです!

 麻人さんが無駄に大きいから、麻人さんの足はベッドからはみ出してるし、油断したら私が転げ落ちそうだし、なんでこんなことに?


「ほら、寝ろ。おやすみのキスをしないと寝られないのか?」

「あのですね! この状況で寝られる人、いますかっ?」


 これなら、VR機器で寝た方がマシっ! 昨日も寝られたから問題ない!

 ということで、麻人さんの手をぺりぺりっとはがして、ごろんとVR機器に降りようとして、首根っこを掴まれたせいで失敗した。


「うにゃぁぁぁ!」

「待て」

「首を掴むとは、卑怯なり! 私はこっちで寝ますから!」

「それなら、莉那が壁際で」

「どうしても同衾(どうきん)を強要するのですねっ!」

「同衾なんて単語、よく知っているな」

「それはそちらも! 小さいころ、楓真がよく入ってきてたんですよ」

「……楓真、あいつはやはり一度、殺しておいたほうがよさそうだな」

「どうして物騒な方向にいくんですか!」

「どうして楓真はよくて、オレは駄目なんだ」

「身体の大きさを考えてからそれ、言ってください! 今の楓真とは、絶対にしませんし!」


 夜中だというのに、ぎゃいぎゃい言い合って、ようやくVR機器で寝られることになった。

 まったくもう。

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