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ゲームのレア職業を当てましたが、「洗濯屋」ってなにをするんですか?  作者: 倉永さな
《七日目》水曜日 *リアル少なめ

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第八十話*【キース視点】You BAN!

 ゲームマスターであるフェラムを呼ぶと、すぐにやってきた。


 シルヴァの村近くのフィールドだったので、近くにいた狩りに行こうとしたプレイヤーが何事かと集まってくる。


「キースさん」

「……なんだ?」

「ここで公開処刑を行いますか?」

「……いいんじゃないか?」


 オレたちに変な形で関わるとどうなるのかということを分からせるためにプレイヤーの目に見える形を取るのはいいと判断した。


「それでは、ここで続けますかね。マロンさん」

「っ!」


 オレが縄で縛った、リィナにつきまとっていたダークエルフの名前はマロン。そういえばそうだったと思い出した。


「あなたは自分がなにをしてきたか、理解してますよね?」

「……なんで」

「はい? なんですか? 大きな声でハッキリと」

「なんでっ!」

「なんで? なにがですか?」

「透明マントを着ていたのにっ!」

「なるほど、()()を着て近寄って?」

「見えないはずなのに、なんでっ!」

「あなたは『なんで』しか言えないのですか?」


 気がついたら、オレたちの周りにはプレイヤーが集まっていた。しかし、だれもなにも言わず、固唾をのんで見守っている。


「マロンさんはプレイヤーに付きまとうことは規約違反だと理解していますか?」

「つ、つきまといなんてっ!」

「していない、と?」


 フェラムの質問に、マロンは黙った。

 リィナは基本は洗浄屋にいたので、中にまではさすがに入れていないはずだ。

 ……もしかしたら、設定を変えるまでは入れていたかもだが、今は入れない。


「こちらの調査によりますと」


 そういってフェラムは視線を少しマロンからそらした。なにか資料でも見ているのかもしれない。


「特定プレイヤーにつきまとうこと……二十回を超していますね」


 正式サービスが始まって、今日で七日目だ。その間に二十回超とは、こいつ、気持ちが悪いな。


「さらには、特定プレイヤーにモンスターおびき寄せシールを貼付しましたね」

「…………」

「このシールは、プレイヤーおよびNPCに貼ることは()()されていることは知っていますよね?」

「し、知らっ」

「ないこと、ないですよねぇ?」


 そう言って、フェラムはモンスターおびき寄せシールを取り出した。サイズは五センチ四方だが、それは端が少し欠けていた。


「これがなにか、マロンさんなら分かりますよね?」

「っ! そ、それは!」

「思い当たりますよねぇ? なんたってこれ、()()()()インベントリから出したものですから」


 さすがは運営なのか?

 それとも()()に取り出していいのか、とツッコんだほうがよいのか?


「な、なに勝手にっ」

「お願いしたら提出してくれましたか?」

「…………」

「しませんよねぇ? だってこれがバレたら、あなたはBANですから」


 フェラムはどう見ても悪役な笑顔をマロンに向けた。


「最期に言いたいことはありますか?」

「な、なんでキースさんはあんな冴えない女を構うだけではなく、引っ付いたり抱えたり、世界樹の上で花火見たりっ!」


 こいつ、オレの行動をどこまで把握してる?

 気持ち悪すぎるんだが。


「前にパーティを組んだとき、わたしのことが()()()()()ってずっとそばにいてくれたのに!」


 こいつ、なに勘違いしてるんだ?

 自分の都合のいいように改変しないでほしいんだが。


「キースさん、そんなこと?」

「あるわけないだろうが。こいつが仕事をしないから、オレがしただけだ。こいつが勝手に付きまとっていただけだ」

「なるほど。調査の結果と一致しますね。特定プレイヤーへのつきまとい、虚言。バグ利用。あとは……ゲーム内での恐喝」

「そんなことをしていたのか?」

「えぇ。このシールは恐喝して手に入れたもののようですね。まぁ、今度のメンテナンスのときにこのアイテムはワールド内から削除します」


 トラブルを起こす種になるからということか。


「それが賢明だ」


 ()()運営にしてはまともな対応だ。


「そういえば、痛覚設定なんだが」

「申し訳ございません。そちらもメンテのときに対応いたします」


 フェラムはマロンに視線を向けた。


「それでは、マロンさん。あなたはこの世界へ戻ってくることはできませんが、モンスターおびき寄せシールを削除させるという()()を成しましたことは、後世に語り継がれるでしょう」

「くっ」


 不名誉な名前の残され方だな。


「マロン事件とでも名づけましょうか」


 それはやり過ぎでは? と思ったが、まぁ、これはこれでなにかのかたちで語り継がれないと同じような馬鹿者が次々と出てきたら運営が大変なのだろう。

 いくら運営側でそう名づけても、プレイヤーが語り継いでいかないと消えてしまうのだがな。


「それでは、マロンさん。さようなら。You BAN!」


 フェラムのその一言とパンっという手を叩いた音とともに、マロンは消えた。そこにはオレがマロンを縛っていた縄が力なく落ちていた。

 あっけない最期だった。


「そういえば、キースさん」

「なんだ?」

「リィナリティさんと鬼ごっこ? かくれんぼ? をしていたんですよね?」

「かくれんぼだ」

「なんでマロンさんがいたのに、リィナリティさんがいないのですか?」

「運営はリィナの行方を把握していないのか?」

「……どういうことですか?」


 おいおい、おまえらはオレたちを監視してるんじゃなかったのか?

 前にフェラムがコンタクトを取ってきたときにそう聞いていたのだが、今はしてないのか?


「少々お待ちを」


 そういって、フェラムはどこかと会話を始めた。声はしないが、話しているのは分かる。口の形でなにを言っているのかはだいたい分かった。

 さすがは運営、リィナとは別方向のやらかしだ。


 目を離した隙にリィナがいなくなったのでログアウトしたと判断したとか、おまえら、馬鹿か?


「……お待たせしました。状況は把握しました」

「相変わらずだな、おまえら」

「まったくもって面目ない」


 せっかく少しマシになったかと思ったのに、駄目ダメのようだ。


「今、リィナリティさんの行方を探してます」

「オレはだいたいは把握しているんだが、どうやらマップに表示されない地域にいるようなんだよな」

「な、なんですって? それはどこのあたり!」


 フェラムの食いつきが前のめりすぎて、さすがに引いた。


「……今、マップをスクリーンショットに撮って見せる」


 マップをそのまま見せるということができないため、そうするしかない。


「マップを他人と見ながら話せると助かるんだが」

「それはいいですね! 開発に提案してみましょう」


 軽いな。

 まぁ、そういうノリ的なのは嫌いではない。

 実現されればもっといいんだが、どうだろうな。


 スクリーンショットを撮り、フェラムに見せた。


「このあたりは……オセアニの村近辺ですね」

「分かるのか?」

「ここがオセアニの村です。そして……この赤い丸が?」

「リィナの居場所だ」

「いやぁ、やらかしてますねぇ」


 なんというか、こいつに言われるとなんか腹が立つ。


「このあたりに……はて? なにかありましたか?」

「おいっ」

「……ん? あぁ、そうですか」

「なんだ」

「リィナリティさんをキーにして、突発クエストが発生したみたいでして」

「……なんだろうな、だんだんそれが当たり前になってきてるんだが。明らかに麻痺してる」

「どうやら今、リィナリティさんはボス戦中のようですね」

「なぬっ?」

「しかも格上でして、苦戦しているとのこと」

「おい、なんでそんな突発クエストが発生してるんだよ!」

「いやぁ、おかしいですねぇ? レベル制御をしてるはずなんですけどね? まぁ、リィナリティさんですからとしか」

「で、オセアニの村に行けばいいんだな?」

「そうですけど」


 ずっと空気と化していたドゥオに視線を向けると、うなずきを返された。どうやら静かに待っていてくれたみたいだ。

 こいつはこいつで腹が立つが、こちらの意図をよく汲んでくれるので、助かっている。


「行くぞ」


 ドゥオに声を掛けると、後ろから着いてくる。

 そしてこちらも静かに待っていたみんととすみれを両腕に抱え、シルヴァの村に戻ろうとしたら、


「どちらに?」

「村間転送装置のところに行こうとしていたんだが?」

「それなら、私が送りますよ」

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