第七十八話*《七日目》システムめぇ
振り返ればヤツがいる……ではなくてですね、水色の髪の少女が立っていた。
「あなた、みんととすみれに会ったでしょう?」
「え、えぇ」
「あと、キース」
この三人の名前と見た目から、この子がサラねーちゃんかしら?
「あなたがサラ?」
「そうよ! そういうあなたはだれよ!」
「私はリィナ」
「ってだれよ!」
だれって言われても、この場合、なんて答えるのが正解なの?
「みんととすみれにあなたを助けてほしいって頼まれたの」
サラは訝しげな表情で私を見ていたけど、ツンとした表情をして視線を逸らした。
「それなら、今すぐあたしをここから出してよ!」
「そうしたいのは山々なんだけど、アレを倒さないと出口が出てこないみたいなのよね」
「えーっ! あなた、役に立たないわね!」
その一言にムカッときたけど、仕事で覚えた無表情で対応することに。
「私はあなたみたいにここでただ待ってるだけなんてしないので」
いかん、売り言葉に買い言葉状態だ。
クールビューティよ、リィナ!
サラは私の言葉に激昂していた。
「なんなの、あなた! あたしがただここでぼんやりしてたような言い草!」
「違うの?」
「違うわよ!」
「へえ? それならその証拠を見せてよ」
キースが苦手と言っていたけど、確かにこの感じだと、いつもキースの周りにいる女性とは明らかに真逆だから苦手とするのは分かる。
しかしこの子、ツンのみデレなしなのか。
「しょ、証拠だけど」
「うん」
「そこの触手の名前はアネモネ」
「知ってる」
「そ、それから、ここはシルヴァの村の水源から少し離れていて、海に近い洞窟よ」
その情報は地図を見ても分からなかったから、ありがたい。
「具体的にどのあたりか分かる?」
「オセアニの村」
地図を広げてオセアニの村を探すと、海岸そばにあった。シルヴァの村からそんなに離れていない。
「場所が分かって助かったわ、ありがとう」
「あたしが嘘を言ってる可能性は考えないんだ」
「あなたが私に嘘を吐いて、なにかよいことでもあるの?」
「ないわ」
「それなら、嘘をついてるとは考えないわよね」
サラが言っていることが嘘でも本当でも、結局は今いる場所は地図で確認が取れない場所なのだから、極端な話、どちらでも同じだ。
「さて、と」
この部屋の広さはそこそこある。
今、私がいるのはアネモネの反対側の壁際。アネモネとの距離は四、五メートルくらいだろうか。
横幅も同じくらい?
この洞窟らしきところなんだけど、うっすらと青い壁に囲まれていて、床と天井も壁と同じ青。アネモネも青いところを見ると、アネモネがここの色に合わせているのか、それとも青くなるなにかを含んでいるのか。
そして、この洞窟らしきところ、かなり湿気を帯びている。天井も壁も床も濡れていて、天井からたまに水滴が落ちてくる。意識が戻ったときに聞いたぴちょんという音はどうやら天井から落ちた雫の音だったようだ。
足場は濡れているせいで滑りやすい。気をつけないと滑って転びそうだ。
そして、肝心の出入口は見当たらない。なのでアネモネを倒さなくては出てこないのだろうと推測した。
アネモネはどう見てもボスっぽいのだけど、ここにはあまり人が入れそうにない。ということは、ボスといっても一パーティで倒せるくらい?
それなら、私が頑張れば倒せるかも?
となると、アネモネの攻撃はどう見てもあの触手でだろう。触手に当たらなければなんてことない!
触手の伸びる長さがどこまでか分かればいいのだけど、どうやって確認しよう?
地面を見ると小さな石が転がっている。これを使って確認できるかしら?
「ていやっ!」
試しに小石を投げてみた。
思ったより石が飛んでくれなくて、しょぼん。
でも、アネモネは石に反応して、シュッと触手を伸ばして小石をつかんだ。
……うむ、思ったより触手は伸びる、と。
安全地帯はないと思って挑んだほうがよさそうだ。
それでは、
「戦闘、開始っ☆」
「えっ、な、なに考えてるのよ! あたしの身の安全はっ!」
「戦況を見て、自分の身は自分で守って」
「なんなのよ! あたしを助けに来たんじゃないのっ?」
「来たけど、だれも安全に帰すなんて言ってないから!」
詭弁と言われても仕方がないけど、そんな器用なことができるわけないでしょ!
「まずは、『癒しの雨』」
ここは洞窟内だけど、問題なく癒しの雨は使えた。なるほど、これはチート級?
それからアネモネに視線を向けて、
「『洗浄の泡』っ!」
アネモネを泡だらけにしてみた。
なにか理由があるのかと聞かれたら、ない! としか答えられない。
なんとなく泡に弱そうだと思ったからなんだけど、予想どおり、アネモネは泡を喰らって嫌なのか、触手で必死に泡を剥がそうとしていた。
それでは、この隙に……。
「『乾燥』っ!」
ゴブリン相手に乾燥を使いまくった成果としてゲージが見えるようになったのだけど、アネモネのゲージも問題なく見える。のだけど、さすが水棲生物、水分量が半端ない。しかも触手一本ずつにゲージがあり、さらには本体にもあるようだ。
さて、ここで問題です!
私のMPが枯れる前にアネモネを倒せるのでしょうかっ?
私の予想では、足りないと思われる。
それなら挑むなよと思うかもだけど、助けが来るまでのんびり待っていられる性格ではないのだ!
今までのやらかし伝説を信じて、最後に奇跡が起こる!
ということで、手っ取り早く本体の水分を飛ばそうとしたのですけどね。
触手が本体を隠すようにうにょうにょと動くのですよ!
見えない! 本体が見えないのですけど!
ぐぬぬ……。
こうなったら、先に触手を……。
……いや、ちょっと待って?
乾燥は単体だけではなくて、範囲でも効果があったよね?
ということはだ。
上手く使えばこれは勝つる?
「『乾燥』っ!」
範囲で使ってみたのですが、こいつら、水分含みすぎぃ! ゲージもまったく動かない!
ま、まぁ、その、ですね。
アネモネを改めてタゲってみたのですが、名前が真っ赤!
ということは、格上!
そりゃあダメージのとおりが悪いはずだわ。
それでなくても相性が悪い相手なのに。
でも、諦めない!
触手を一つずつ攻めていくしかない。
……とはいえ。
なんか、おかしくない?
そもそもここがサラの証言どおりにオセアニの村の近くということなら、マップ情報には対象レベルは二十以上と表記されている。
私は今、ドゥオのおかげで戦わずにしてレベルが十五の手前、要するに十四だ。経験値バーを見ると八十五パーセントを越したあたりなので、もう少し頑張れば十五になる。
そんなレベルなので、レベル十から二十手前に最適な狩り場であるシルヴァの村近辺がよいのだけど、アネモネは赤い。
ちなみに、モンスターをターゲット(略してタゲると言うことが多い)すると、自分のレベルを基準に対象モンスターとのレベル差で色が変わる。白が適正レベル、緑が少し格下、このふたつだと倒せた場合、設定された経験値が入ってくる。薄青、青となるとレベル格差があり、経験値補正が入って少なくなり、最後には経験値ゼロになる。
そして、黄色、薄赤、赤が格上で、こちらも経験値補正があり、レベル差によって減っていく。
要するに、だ。
無理して格上を倒さず、あるいは楽して格下を倒さず、頑張って適正レベルのモンスターを倒して成長せよ、ということだ。
その考えからすると、そもそもがこのクエストが発生するのはシステム的におかしいってことになる。
ま、またもや「やらかし」と言われるってことっ?
システムめ。
どうあっても私をやらかしの人にしたいらしい。
ぐぎぎぎぎ。




