第七十四話*莉那たちは取り囲まれた! 逃げられない!
朝です。
麻人さんは今日も当たり前のようにお迎えに来てくれた。
そういえば昨日はなかなか濃くて忘れていたけど、キースは果たして私を探しているのでしょうか?
昨日は私より後にログインしてきて、早めにログアウトしていたようなんだけど。
向こうの動向がむっちゃ気になる……!
でも、聞くのはなんか負けたような気になる!
私がそんなことを悶々と悩んでいたのがバレたのか、麻人さんは機嫌が良さそうな声で聞いてきた。
「リィナは相変わらずやらかしてるのか?」
「ぅ」
「なるほど。そうだよな、大人しくしている性格ではないからな」
「ぅ。そ、そんな落ち着きのない子のようなことは」
「あるよな? 昨日、ちょっとした噂を聞いてな」
いやいや、キースがログインをしていた時間で噂になるような……こ、と……。
……ひとつだけ心当たりがある。
それはドゥオだ。
そもそもNPCが単独でフィールドでずっと狩りをしているのがおかしい。しかもドゥオはかなり目立つ。
さてはそれだな!
ということは、今日あたりにシルヴァの村に来るということか。
さて、どうしたものか。
来るのが分かっていて待っているのも癪だけど、どれだけ早く頑張ってもログインできるのは夜になる。
さて、どうしてくれよう。
そうだ! 宿屋に立てこもる!
……これは駄目だ。
となると。
昨日みたいに村の周辺で狩りをする?
いや、さすがに今日もゴブリン相手は飽きた。
もっと楽しそうな場所か、綺麗な場所がいいな。
宿屋のおかみさんに聞いてみよう。
仕事よりもフィニメモでの狩りの計画を立てている時点で廃な人になりつつあるような気がするけど、気のせい!
本当の廃な人は二十四時間ログインしているのです!
いろいろとツッコミがあるけど、廃な人は本当にいるのですよ!
「そ、それでその噂、とは?」
「にゃあで質問されたら話すかもしれないな」
な、なんでさらに残念な人になっているのですか、麻人さん!
「くぅ」
「にゃあ、で」
というかですね、麻人さんが「にゃあ」って言うのがかわいすぎるのですけど!
えぇ、私も相当にやられてますよ!
昨日のフィニメモはまぁ、正常運転で濃かったのですが、そこにはキースがいなかったのよね。
リアルで麻人さんに会ってはいるけどね?
もちろん、キース=麻人さんと痛いほど認識はしていますよ? でもね、キース ≒麻人さん、なのですよ!
この、びみょーな差が分かりますかっ?
しかし。
私は朝からなんの駆け引きをしているんだ……。
「今日はどうも気乗りしてないみたいです、猫」
「むぅ」
うぅ、これがフィニメモ内だったら、今のを動画に撮れていたのに! 大変に残念すぎる!
「リィナの居場所が分かったから、今晩、行くからな」
やっぱりバレてら。
そもそもあのあたりで一日でレベルがふたつも上がってるってことは、相当な量のゴブリンを倒したのだろうから、目立ってる、よねぇ。
「それで、にゃあ、は?」
「麻人さんのにゃあがかわいすぎて、それを上回れそうにないのと、猫が拗ねてるので、なしで」
「……オレ、かわいいのか?」
「はい」
「なるほど」
あ、なんかロクでもないことを考えてる!
「リアルでもゲーム内でも、ネコ耳、ネコの尻尾をつけるのは禁止! ですからね」
「な、先に封じに来るとはっ!」
「やる気だったんかいっ!」
この人、怖すぎる!
しかも残念度がパワーアップしてる!
これはぜひとも本日中につかまえてもらわないといけませんな。
たぶんふたりして壊れる。
なら、さっさとかくれんぼなんて阿呆なこと止めろって?
いや、それは出来ませんっ!
これは意地なのです!
……ま、まぁ、意地を張っていられない状況になったら止めるけど、それ、思った時点で布石してるから! 駄目Death!
なんでしょうか、前に進んでも、戻っても、止まってもなんらかのトラップがあって、周り地雷原、みたいな状況。
避けるの面倒なので、全部踏んで連鎖反応を狙いますけどね!
そんなことを考えていたら会社についたので車を降りようとしたのですけどね?
きょ、今日は駐車場に大集合って、これ、仕事出来なくないですか?
「なんだというのだ」
麻人さんの戸惑いは大変よく分かります。
だってここに入ってくるときは周りにだれもいないように見えたのですよ。
まさかあちこちに潜んでいたなんてだれが思いますか?
「警察に連絡を入れますので、少々お待ちいただけますか」
とは運転手さん。
それも大変に大切だとは思うのですが、これ、人事に通報案件だと思うのです!
ということで、会社から支給されているスマホを取り出し人事部へ。
おまえら、こんなことしたことを後悔させてやるからなっ!
あとは電話連絡をしながら、逃げられても困らないように証拠の動画&写真Death!
さすがに人事部の人たちはまだ出勤してなさそうだし、どちらにしてもあそこの部署は在宅勤務が多いのだけど、だからこそ伝手が生きるっ!
なんのために猫をかぶってまで人脈を築いてきたのか……っ!
「……ということで、のちほど、証拠の動画と写真を人事部のみなさんの共有アドレスに送っておきます」
人事部所属で仲の良い子にかけたら、どうやら昨日の騒動は知っていて、今日の朝一でお達しを出そうという話になっていたらしい。
騒動の中心にいると思われる私は知らなかったのですけど。
麻人さんをチラリと見ると、知っていたようなんだけど、「にゃあ」の話より大事なことを伝えてくれないとは!
電話を終えても外は減るどころか増えているようなのですけど。
警察の到着を待ちますか。
しかし、なんでこんなにも騒動になっているの?
「麻人さん」
「なんだ」
「私に謝ることがあるんじゃないですか?」
「不安にさせるのもと思い、黙っていた」
「あのね。むしろ知らない今が不安なのですよっ!」
まぁ、まさかここまでおろかな行動を取られるとは思ってなかったってのもあるんでしょうね。
私もあの人たちがなんでこんなことをするのか、さっぱり分からないし、分かりたいとも思わない。
「麻人さん、なにか隠してますか?」
「隠してはないが、話してないことはそれなりにあるかもしれない」
「つまり、聞けば話すということですか?」
「……そうだな」
なんで間! 間があるのっ!
といっても、今、聞きたいことなんて特にない。
……ことは、ないか。
「では、質問です」
「あいにゃ!」
「……麻人さん、答える気、ないでしょ?」
「いや、少し場を和ませようかと」
「そんな気遣いはいりませんから!」
ほんとに、なんというか。
「とりあえず、質問そのいち」
「質問はいくつある?」
「それは答え次第かと」
「いいだろう」
「ズバリ! 麻人さんたちの血族は、座敷わらし的な力があると思ってます?」
「ない」
「……で、ですよねぇ」
「だが、思い当たることはいくらかある」
「え?」
「隆盛の判断力が高いのだと」
「……あ、あぁ、そういうヤツですね」
「どういうのだと思っていた?」
どういうのって言われても、ねぇ?
「物語はたいてい、結論ありき、だろう?」
「……そうかもです」
「去ったから没落した、来たから繁栄した。過去形だ。結果論でしかない」
そうなのかもだけど、それだけではないような気もするのだ。
「本当にそれだけなのですか?」
「まさかオレたちが未来が見える血族とでも?」
「もしそうだとしたら、ここまで生き延びていないと思いますよ」
「なぜだ?」
「そんな強い力を持っていたら、淘汰されるからです」
人は自分たちと違う力を持っている相手を恐れる。
それが例えば私のフィニメモでの職のようにユニークであれば本人や周りが話さない限りはバレることは稀だろう。
だけどそれが血族単位であれば?
秘密というのは、知る人が増えれば増えるほど、暴露される可能性が高くなる。
「もしかしたら、オレたちの祖先には本当に繁栄を司るなんらかの力があったのかもしれないな。だが、今はない」
「でも、未来を見極める目は持っている、と」
「見極めるなんて大層なものではないと思うぞ」
「そうなのですか?」
「前に言っただろう。オレは怠けたい、と。どうやって効率よく仕事をこなすか。それを追求していたら、自然と区別がつくようになった」
それが麻人さん個人の資質なのか、藍野家の資質なのか分からないけど、そうやって生き延びてきた、と。
そんな話をしていたら、警察がやってきて私たちはどうにかここから脱出することができた。
それから警察から事情聴取をされたりとあったのだけど、そこは思い出しただけでも腹が立つので、割愛する!




