第七十三話*《六日目》スキル『乾燥』はある意味チート
モンスターを倒さないと、経験値は稼げないし、お金もドロップも稼げない。ということは、強くなれない。
強くなれなくてもいいかもと思ったけど、それではなんのためにフィニメモをやっているのか分からない。
だからモンスターを倒さねば、なんですけどね?
重々に承知しているのだけど、感触がリアルすぎてギブアップでござる!
「リィナ、物理攻撃がやなら、魔法」
「ドゥオさん! それ、早く言ってぇぇぇ!」
「気づかないリィナが悪い」
「ぅ」
そうなんですけどね!
なんでだろう、戦闘は物理攻撃のみと勘違いしてたのは。
……あれか! フーマの動画の刷り込みか!
「魔法……かぁ」
魔法少女☆ (ちょいオーバー)とよぎったこともありましたけどね?
なんでだろう、私が魔法攻撃をしている姿を想像できないのですが。
ま、まぁ、使ってみよう、うん。
幸いなことに知らないうちに経験値とスキルポイントを稼いでいて、攻撃魔法を取ることはできる。
だから取ろうと思ってスキル取得画面を開いたのですけどね?
種族スキルは取れるみたいなんですよ。
職スキルは新規はないけど、レベルがあがるのがあったので取得して、と。
で。
共通スキルも取れるようなんだけど。
そういえばきちんと見ていなかったのだけど、職スキルは条件が合えば覚えられると聞いていた。
前に癒しの雨などを覚えたとき、職スキルタブにしたとき、新規スキルは三つしか表示されていなかった。
このとき、自分の職スキルが新規で三つと思っていたのだけど、いま、改めて見て分かったことがある。
今、覚えられるスキル一覧表の、職スキルタブに表示されているスキルは、ないっ! 皆無っ! ゼロ、なのである!
えええ、バグった?
これ、さっきのフェラムに聞いてみる?
とりあえず「ゲームマスターと話す」を選択、と。すると、だれと話しますか? とシステムさんが聞いてくる。さっきはなかったけど、ゲームマスターと話して知り合ったから出るようになったのかしら?
フェラムを選ぶと、声だけ聞こえてきた。
『さきほどはありがとうごさいました』
「あ、こちらこそ。そ、それで、ですね。お聞きしたいことがありまして」
『はい、どうぞ』
「あの、職スキルって自分の職以外でも条件が合えば覚えられるはずですよね?」
『はい、その認識であってますが、リィナリティさんは、その枠組みから外れてます』
「な、なんだってぇ?」
『システムが勝手に作った職ですので、そもそもの成り立ちが違うため、覚えられません』
「そ、そうですか。ありがとうございました……」
フェラムとの会話を終わらせて、ここがフィールドだと分かっていても、思わず座り込んでしまった。
まさかのまさか。
システムさんのやらかしのせいで、私は他職のスキルを一切覚えられないようなのだ。
父ではないけど、がーんと口にしたいくらいショックである。
途端に超ベリーハードな職に早変わり。
幸いなことに、共通スキルは取ることが出来る。だから武器スキルは取れるけど、物理攻撃はやなのである。
となると、魔法攻撃なんだけど。
こちらはスキルを取って覚えないと使えない。
私のフィニメモ人生、おわた……。
思わず人差し指でフィールドをイジイジとしていたのだけど、ドゥオが私の肩を叩き、それから一言。
「乾燥」
乾燥……?
乾燥って、スキルの?
「あれで戦う」
確かに災厄キノコのとき、あのでっかいキノコを一瞬にして乾燥させましたよ?
そのせいでMPが空っぽになりましたけどね?
「MP効率、めっちゃ悪くない?」
「あれはボスフィールド全体に対して使ったから」
「それに、災厄キノコが大きかったから?」
「そう」
乾燥って広さと対象物の大きさによってMP消費が変わるの?
あの運営が考えたわけではなく、システムさんが考えたのなら細かい調整がされているのかもだけど、説明不足なのもシステムさんのせいと思うと、なんとも。
「試しに乾燥」
「ぉ、ぉぅ」
「そこは御意」
「ぎょ、御意?」
とりあえず、あのゴブリンに短剣を突き刺したときの生々しさはやなので、乾燥を使ってみる。
オルとラウとのスパルタ特訓のとき、癒しの雨はそこそこ早い段階で合格がもらえたのだけど、洗浄の泡と乾燥、特に乾燥はなかなかゴーサインが出なかった。
洗浄の泡の難しいところは任意の場所に泡を出すところだったのだけど、乾燥のなにが難しかったのかというと、加減だったのだ。
この間の災厄キノコはとっさだったので加減が効かずにマックス火力で出力してしまったため、MPがぶっ飛び、災厄キノコがカラッカラになったのだと思う。
……なるほど。
あの二人がなかなかゴーサインを出さなかったのは、私がその重要性を認識していなかったからなのか。
乾燥の火力調整が自由自在にできなければ、効率の悪さもさることながら、思ってもいない状況になってしまうということか。
二人は肌感覚として分かってはいるけど、それを伝えるのは難しく、だからこそ実技を通じて会得しろと、スパルタだった、と。
オルもラウもどちらかというと口下手というとちょっと違うかもだけど、スキルの使い方と効果の説明は下手だった。
まぁ、あの二人は洗濯屋のスキルが使えるとはいえ、職スキルというより種族スキルに近いのだから、それを説明しろというのは難しいのだろう。
ということは、だ。
……あれ、ちょっと待って?
洗濯屋のスキルは職スキルというより、種族スキル?
私、今の今までエルフだと思っていたけど、もしかして?
恐る恐る、自分のステータスを確認してみた。
種族欄を見ると、きちんとエルフだった。
システムが私に「やらかしの女神」の称号をつけていたので、種族が変わっていたらと思ったけど、さすがにそれはなかったようだ。
と思ったのだけど。
「……またなんかやらかしが」
種族名の横にシステムが悪ふざけした称号「やらかしの女神」が表示されているのだけど、さらにその下に「見習い女神」となっている。
そもそも女神に見習いなんてあるのっ?
「システムさんがその気なら、とことん付き合ってやろうではないですか」
とりあえず、種族はエルフ、そこは間違いない。
それはよいとして。
オルとラウは洗濯屋のスキルが使えるけど、それは種族的に使えるもののようだ、という推測が成り立った。
では、クイさんは?
洗濯屋だと言っていたから私と同じなのだろう。
さて、考察はこれくらいにして。
目の前でのんきにあくびをしているゴブリン一体にスキルを使ってみよう。
「乾燥」
「ぎぎぎぎ」
スキルを控えめに使ってみたら、半生だったようで、ゴブリンは生きていて私に襲いかかろうとしていたのだけど、ドゥオがすかさずフォローしてくれた。
「ドゥオ、ありがと」
「うん」
「しばらくスキルの使い方を探るから、また危なかったらフォローお願いね」
「御意」
ブレないなっ!
次は先ほどより気持ち強めに。
それでもまだ半生。
手探りでちょうどよい火力を探っていくと、感覚的にピタリと当てはまるところがあった。
あれ、このあたり?
と思っていたら、乾燥を使おうとするとゲージが出るようになったのだ!
もしかしなくても、オルとラウは私にこれを出させようとしていた?
乾燥をたくさん使ったからなのか、それとも私がちょうどよいところを見つけたからなのか、条件はわからないけれど、対象物に対してのちょうどよい火加減が表示されるようになった。これでかなり狩りが楽になる!
そしてゲージを使いこなせるようになるため、ゴブリンを次々葬り去った。
最初はゴブリンを一体ずつ倒していたのだけど、だんだんと面倒になってきたので二体ずつ、三体ずつと数を増やしていった。
五体ずつを楽々狩りが出来るようになってから気がついたのだけど、一体ずつより複数体に乾燥を使うのが効率がよいようだ。
まだゴブリンにしか試してないけど、感覚的には対象が変わるとMP消費が変わるような気がする。
あとは同じモンスターでも、消費MP量によってダメージが変わるのは先に試したとおりだ。
乾燥、なかなか奥が深い。
洗濯屋がユニーク職だというのが残念で仕方がない。
乾燥の使い方がそれなりに分かってきたのと、時間も遅くなってきたのでログアウトすることにした。




