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ゲームのレア職業を当てましたが、「洗濯屋」ってなにをするんですか?  作者: 倉永さな
《六日目》火曜日 *リアルとゲーム内半々

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第六十八話*【楓真視点】無自覚煽り、いくない!(莉那の真似)

 ……頭が痛い。


 誤解のないように否定しておくけど、いわゆる頭痛というヤツではなく、考えすぎたり想定外のことを言われたりして困って頭が痛いというヤツだ。


 まず、キース──いや、これはリアルでの話だから麻人と言うのが正しいだろう──から長文のメールが届いた。

 麻人は筆不精なのでメールはめったにこないか、来ても一言だけという、それ、メッセージアプリでよくね? てことが多いので、それだけでもすでに非常事態だ。


 内容はというと、一応は弟の俺に報告と書いてあったが、身近な人に自慢をしたかっただけとも取れる。


 麻人は珍しく「権力」を使ってそばに莉那を呼んだというのだ。

 いくら麻人が他人に興味を持ちにくいとはいえ、ゲーム内であれだけリィナにくっついていたのだ、気に入ったどころの騒ぎではなく、自分の()()として認定しているのは明らかだった。


 だけどあの麻人がそこまで目立つ行動を取るなんて、レア過ぎて驚いた。

 それだけ本気だというのは分かったけど、さらには公衆の面前で莉那はオレの伴侶だ宣言をしたという。

 それだけでもあちゃーだったのだが、莉那にプロポーズするまえに言ってしまったので、落ち込んでいるようだった。


 あいつもなかなかにブレない。

 冷静そうにみえて実は違うんだよな。


 メールを思い出しながらそんなことを考えていたのだが、電話がかかってきた。

 ちなみにこちらは月曜日の十五時、ということは、日本は二十三時。

 仕事中だが、息抜きというか休憩をしているところだったので出ることにした。画面を見ると麻人からだった。


「珍しいな」

『莉那に逃げられた』

「……はぁ?」

『……いや、ゲーム内だからリィナか』


 ゲーム内でもリアルでも、どちらにしてもなにしてるの状態である。


『リィナのヤツ、システムと結託してユーザークエストなるものを出してきて、フィニメモでかくれんぼをしようと言われた』

「かくれんぼ。──おまえら、成人済みだよな?」

『それはおまえがよく知ってるだろうが』


 かくれんぼも頭が痛いが、リィナもなんでシステムと結託しているんだ。


「なぁ、麻人」

『楓真からその名で呼ばれるの、なんだか久しぶりだな』


 そういうチャチャは要らない。だから無視して続けた。


「莉那から送られてくるフィニメモ動画なんだが、なんで俺たちが知るフィニメモと違うように見えるんだ?」

『そりゃあ、やらかしの女神の動画だからだろう』

「やらかしの、女神……」


 だれだ、その絶妙なニックネームというか二つ名をつけたのは。


『おまえの姉は、やらかし犯からやらかし魔、やらかしの神に取り憑かれて、最後はやらかしの女神まで登り詰めたぞ、おめでとう』

「やらかしの女神はおまえがつけたのかっ!」

『そうだ。システムまで悪乗りして、称号に認定されたぞ』


 ちょっと待て!


「さっきから『システムと』と言ってるが」

『……AIと直結しているらしいNPCによると、リィナはシステムとの親和性が高いらしいぞ』

「莉那はフリーダムというか、クラッシャーすぎないか?」

『ふ、それでこそオレの伴侶』

「おまえそれ、本気なのか?」

『本気だ』


 ……思惑どおりと言えばそうなんだが、こんなにハマるとは思わなかった。


『あぁ、あと、親父がおまえを日本に()()()()()陽茉莉と結婚させると言ってたぞ』

「ぉ、ぉぅ」


 日本に戻りたいと、ホームシックとまではいかないがそう思っていたから大歓迎なんだが。


『楓真、おまえの気持ちなんて親父にはバレバレだぞ』

「俺は……どうでもいいんだが、……その、陽茉莉は?」


 陽茉莉のことは好きだ。大好きで大切な人である。

 だからこそ、大切過ぎて……。


『陽茉莉が見知らぬだれかと結婚して──』

「ストップ。それ以上は口にするな。そんなこと、許さない」


 俺の低い声にさすがの麻人も黙った。


『陽茉莉は楓真のことが好きだ』

「どうして断言できる?」

『それはオレと同じだからだ』


 ……なるほど、こいつの言動がいわゆる「尊い回」を助長させているのか。


「無自覚煽り、いくない!」


 あ、なんか莉那っぽくなった。


『おまえは莉那かっ!』


 思うことは一緒だった。


「──で、なんでそのリィナとかくれんぼすることになった?」

『……分からん』

「分からんって」

『クイさんいわく、リィナを不安にさせたから、らしい』


 莉那は人当たりがよいし、人付き合いも悪くない。のだが、莉那は他人に思いっきり猫をかぶって接している。

 だけどフィニメモ内での動画を見ていると、キースに対しては構えてなくて素で接していた。

 珍しいと思ってみていたのだが、だからなのか。


 ……そういえば、莉那の好みの男って?


 今さらだが、知らない。

 男友だちはいるようだが、あくまでも友だちだ。今まで彼氏らしき人はいなかった。

 莉那の好みというか理想が高すぎるのか、たまたまそういう人物がいなかっただけなのか。


 フィニメモの動画でしか判断できないが、莉那はキースの……麻人のこと……ん?


「そういえば、麻人」

『なんだ』

「莉那はキースが麻人だって知ってるのか?」

『今日、知った』


 まぁ、そうなるよな。


『なかなか気がつかれなかったぞ』

「そこは莉那だからとしか」


 そうだな、と電話の向こうで麻人が笑った。


 こいつ、まだ俺相手だから感情が出てるけど、普段は無表情で抑揚のないしゃべり方だからな。

 まぁ、それが素敵、なんていうヤツ(男女ともに、だ!)がいるから、むしろ逆効果のような気がしないでもないが、言ったところで今さら変えられないだろう。


 返す返すも「尊い回」はキースのせいか。


「莉那が戸惑うのはすごく分かるよ」

『なんでだ?』

「おまえな……。言わないと分からないのか?」

『分からん』


 こいつ、大丈夫か?


「いいか、麻人。おまえは前から莉那を知ってるかもだが、莉那はキースと会ってから数日だぞ? ましてや、麻人で会ったのは月曜日が初めてだろう? そんな相手からいきなり『結婚してください』と言われて、普通は受けると思うか?」


 麻人は黙った。


「え、そこ、悩むところなのか? マジか?」

『……いや、莉那は()()()オレのことが好きだ』

「すごい自信だな。どこに根拠がある?」

『オレがキースだと分かってからだが、距離を取っていると「なんで?」と不思議そうな顔をしていたから』

「キースはリィナにくっつきすぎだ! オレは許可した覚えはないからな」

『リィナの反応がかわいすぎるからだ!』

「リアルでもあれ、やってるのか?」

『いや、無理!』

「なんでだ?」

『……察しろよ』


 良く分からんが、リアルでやってないのならまだいいとする。


『近々、日本に帰国命令が出るから、いろんなものを片付けておけよ』

「……せっかくこっちでパソコン買ったのに」

『日本から持っていかなかったのか?』

「持ち出せなかったんだ」


 VRもだが、パソコンまで駄目とは、とガッカリした覚えがある。


『どうする? 持って帰るか?』

「いや、売るか処分するかして身軽で帰る」


 幸いノートパソコンだったので持って帰れるのなら持ち帰りたいが、悩ましい。データはすべてクラウドに入れてあるので問題ない。


『オレが莉那と結婚したら、楓真は義弟だな。弟ができて嬉しい』


 まぁ、そうなんだが。


 しっかし、こいつ、こんなかわいいことを言うようなヤツだったか?


『楓真』

「なんだ?」

『これからもよろしくな』

「あ……あぁ?」


 なんだこれ、ツンデレ?


「麻人、気は確かか?」

『……すまん、楓真。陽茉莉が来たみたいなんだ』

「分かった、じゃあ、また」


 キースとの通話が終わった。


 陽茉莉が来たということは、説教コースか?

 こってり絞られるといい、麻人!

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