第六十四話*《五日目》安定のやらかし、ユーザークエスト
ようやくフィニメモにログインしました。
そ、それにしても、キースにはしてやられたわっ!
台所に行くと、キース以外がいた。
「ねーちゃん、お帰り」
「オル、ただいま」
『あたちたちは今から寝るでち』
「そうなんだ。会えないかと思ってたから、寝る前に会えてよかった」
『うむ。それにしても、キースは即断即決でちね』
ん?
「な、なんの話?」
『あれはぷろぽぉず、とか言うでち?』
「え? な、なんで、ラウ?」
「まぁ! お兄さまったらいきなりですの? やはり間合いの取り方が下手すぎですわ!」
いやいやいやいや、ちょっと待って?
ここ、フィニメモですよね? ゲーム内だよね? なのになんでリアルの、数時間前のことを把握されているの?
『えーあいとかいうのが、あたちたちに教えてくれたでち』
う?
「え……? AIって」
戸惑っていると、システムがキースがログインしてきたのを知らせてくれた。
トントンとリズミカルな音がして、それから台所にキースが現れた。
『キース、リィナリティにぷろぽぉずしたみたいでちね』
「なんで知ってるんだ?」
『えーあいが教えてくれたでち』
「……なるほどな。AIはそこまで進化していたのか」
「進化?」
「あぁ。世間ではAIは『AI管理協会』が一元管理をしているという建前になっているが、一部の識者の間では、すでに人間の管理から手が離れて独自で進化をしていると言われている」
……ウーヌスが前に言っていた話と合わせると、あながち嘘ではなさそうだ。
「さて。運営はこのことに気がついているのか? 気がついていたらどういう対応をするのか、楽しみだな」
オルとラウがひっきりなしにあくびを始めたので、二人を部屋の前まで送っていった。
「おやすみなさい」
『おやすみでち』
「むにゃ……」
オルはもう寝てるっぽいけど、大丈夫かっ?
オルはふわふわと扉を開けずに中に入っていった。
……うん、オブジェクト透過ですか。自重しろ☆
「台所に戻りますか」
一人で大丈夫と言ったのに、キースも着いてきていた。
「リィナ」
「あいな?」
「返事、聞いてないぞ」
「にゃっ?」
い、いかん。なんで猫語になるのっ? かぶっている猫がはがれるときの効果音なのかっ?
「オレに姿を偽ることもないし、遠慮することもないからな」
「なぜ猫を被っているのがバレてるっ?」
「ここ数日、ずっと見ていたからな」
「っ! こ、怖いっ! お巡りさーん」
「いないからな」
「くっ……」
予防線を張られまくりなのですけどっ!
「……そ、それでですね」
「今回は死ななかったな」
「うっ……。いちいちツッコミ入れないでくれますか、話が進まないDeath!」
「殺された」
「…………。で、なんの返事ですか?」
「リィナ……いや、莉那、好きだ。結婚してほしい」
「いや、待てっ! なんでここでっ? 面と向かって言えっ!」
「……れ、練習だ」
「な、なぬっ? ということは、本番があるのかにゃ?」
あ、また猫がはがれた!
「なるほどな」
「なにがなるほどなのかにゃあ」
わ、私はいったいどれだけの猫をかぶっているの?
というより、楓真相手でもこんなに猫ははがれないのに、キース、恐るべし……っ!
「では、明日。改めて聞くから、返事を聞かせてくれ」
「いや、それに関しては保留だと」
「後退することはないだろう?」
「ぐ……」
「なら、素直に受け入れろ」
「あの、ですね。ここで喋ってたら」
「場所を変えるか」
話が早くて助かる。
ということで、またもや応接室へ。……と思って行ったのですけどね?
「……なるほど、これが別の場所に繋がってる状態なのか」
「洗い場、ですかね」
クイさんから聞いてはいたけど、目の当たりにして実感した。
扉の向こうは見たことがない景色が広がっていたのだ。
この先に進んだらどこに行けるのかなと思ったけど、今はその時ではないとなにかに言われたような気がして、後ろ髪を引かれながら閉じた。
そして洗い場。
台所だとだれかがいると思うけど、ここならあまり人がこないはず。
「それでだ」
「あの、キースさん。……麻人さん、といったほうがよいですか?」
「どちらでもいい」
「では、キースさんで」
キースは目線で続きを促してきた。
「あのですね、私にも、その、いろんな覚悟というものが必要なんですよ」
「ほぅ? それはどんな覚悟だ?」
「……一番大きなものが、『藍野』を名乗るという意味、ですよ。キースさん……麻人さんは産まれたときから藍野だから分からないかもですけど、そこにはいろんなものが乗っかっているではないですか」
「まぁ、直系で、という意味だとそうだが、そこに関しては莉那は気負うことはない」
とはいうけど、藍野の家がどれだけ特殊かってこと、きちんと理解してるのかしら?
「麻人さんは『私の当たり前はオレには当たり前ではない』と言いましたよね」
「あぁ」
「それを私にも強要するってこと、理解してますか?」
ただのお付き合いでも悩むところなのに、キース……麻人さんはそれを飛び越して、その……。
「理解はしているし、そのことを思うと……大好きで大事な莉那に背負わせるのはと思うが」
な、なにこの人、サラッとさらなる告白をしてくるのっ?
「苦労をかけるのは分かっている。が、好きという気持ちがあふれすぎて……オレも戸惑っている」
「そ、そうでゴザイマスカ」
それでは、ここで問題です!
応接室がどこかに繋がっていたのですが、さて、それはどこでしょうかっ?
さっき見たときは今ではないと思ったのだけど、それはこの時のために取っておけというなにかの意思だったのだろう。
それがなにかは分からないけど、これは今だ。
「では、キースさん。今からあなたに私から特別なクエストを出します。題して、『フィニメモ内かくれんぼ! リィナリティを探せっ☆』」
すると、システムがやはり悪のりしてくれて、キースと私に『ユーザークエスト』なるものを出してくれた。
「おまっ。これ、またもや、やらかしかよっ!」
「ですねー」
システムも学習するみたいですNe☆
「ルールは簡単です。この、ディシュ・ガウデーレ内のどこかにいる私を見つけてください。ただし、今からキースさんのマップから私の存在を探すことは出来なくなります」
「……なんでシステムと連携してるんだよ」
「さて? あ、リアルで見つけて捕まえても無効ですからね! そうしないと、私、キースさんに見つけてもらうまで在宅勤務になっちゃいますよ?」
「分かった、承諾しよう」
「あ、その前に。クエスト報酬を提示します」
……うーん、これはやはり半虜なのか。生贄? 人身御供? ま、なんでもいいや。
なんかですね、悔しいのですよ。
私も麻人さんのこと、好きですよ?
キースの中の人……というとなんか違うかもだけど、生身に会って確かめたいって思ったもの。
麻人さんがキースだって気がつかなかったわけですけどね?
なので、先に麻人さんに会っていたら好きになっていたかどうか。
その見極めをしたいわけです。
ま、言ってしまえばまたもや時間稼ぎ!
「クエスト報酬はですね。キースさんがクリアしたときに決めます」
「……それでいい」
「いいのですか?」
「システムサポートがなくとも、探し当てる自信はあるからな」
どこからその自信は来るのでしょうかね?
「フレンドは解除するなよ」
「しませんよ。私もキースさんも相手がゲーム内にいるかいないかくらいは分かってないとですから」
あと、と私は付け加えた。
「クエストが承諾されてから十分間はキースさんはこの部屋から動けません。あと、私は動かずに待つなんてことは出来ませんから、移動しますよ」
「了解」
注意事項はこれくらい?
……どうもキースはなにかやらかしてくれそうだからなぁ。
「……まさかとは思いますけど、クエストを受託した瞬間に私を捕まえようなんてしないでくださいよ?」
「な、なぜ読まれている……っ!」
ごらぁ、キースぅぅぅ!
「キースさんは部屋の端へっ! 私は出入口からやりますからね! いいですか? では、クエスト、開始でっ!」
システムメッセージが出た瞬間、私は部屋から飛び出した。すぐそばで「ちっ」という舌打ちが聞こえたのだけど、ったく、油断ならないんだからっ!
「絶対に見つけるっ!」
がんばー!
と心の中で応援しておいた。
応接室へ行こうとしたら、クイさんとドゥオが待っていた。
「行くのかい?」
「……うん」
「なら、ドゥオを連れて行ってくれないかい?」
「な、なんで?」
「あたしらもリィナの挙動が分からないのは、心配だし不安なんだ」
「キースは嫌いだから、こっそり知らせたりはしない」
「ドゥオ姐さん……。はっきり言うわね」
「ま、御守りだと思って連れて行ってほしい」
「……うん、そうする」
このクエスト、どこにも「一人で」なんて条件はないからねっ! ま、キースはそのあたりは気がついているだろう。
「んでは、行きますか!」
応接室の扉の前に立って開けると、やはりまだどこかに繋がっていた。
「途中ではぐれたらやだから、ドゥオ、手を繋ご?」
「御意」
「……ブレないわね」
そうして手を繋いだのだけど。
「リィナの手、ちっさい」
「うっ……。わ、私の手が小さいわけじゃなくて!」
「ほら、急ぐ」
ドゥオに引っ張られて、私たちはどこに繋がっているのか分からない先へと向かった。




