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ゲームのレア職業を当てましたが、「洗濯屋」ってなにをするんですか?  作者: 倉永さな
《五日目》月曜日 *主にリアル

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第六十話*いきなりの部署異動

 楽しい時間はあっという間に過ぎていく。


 結局、四日目の夜のフィニメモでは、夕飯を楽しく食べ、どこかに出掛けることもなく、ぐだぐだと過ごした。


 そして迎えた月曜日の朝。

 うーん、こんなことなら月曜日は在宅勤務(テレワーク)にしておけばよかった。


 そんなことを思いながら出勤すると、私を待ち構えていたらしい部長に朝一番で捕まった。


 木曜日と金曜日に有給を使ったのがマズかった?

 いや、これは周りに迷惑をかけないように前倒しで仕事をすませていたから問題ないはずだ。

 それともなにかやってしまったのだろうか?


 会議室に連れて来られたのだけど、部長はなにも説明してくれない。

 いったいなにごとかとビクビクしていると、後から二人の男性が入室してきた。

 先に入ってきた人は典型的なサラリーマンといった男性。後から入ってきた男性はかなり不機嫌な表情をしているけど、明らかなイケメン。

 この二人だけど、見覚えがある。


 私が勤めている会社はかなり大きくて、持株会社を頂点としたグループ会社を何社も抱えているところだ。

 その中のひとつである、グループすべての会社の雑務を一手に引き受けている、言ってしまえばなんでも屋な会社にいる。

 その中のひとつの部署である総務部にいるのだけど、雑多なことをやる会社の中でも、さらに雑多な、どこの部にも振り分けられないような仕事を包括している部署になる。

 最初は覚えることが多すぎて大変だったけど、この仕事のおかげで様々な部署の人と知り合えたので、感謝をしている。

 社会人になると、仕事が出来る、というのにも種類があるということを知ったのだけど、一番は人脈をどれだけ持っているか、は大変に大切なことだと気がつかされた。


 そんな部署にいるので、社員数が半端なくいるのだけど、そのほとんどの人と話をしたと言っても過言ではないくらい人と接している。

 さすがに一度の薄いやりとりをしただけの人のことは覚えていないけど、何度か話している人はそれなりに覚えている。


 この二人も、私がいる部ほどではないけど、かなり色々なことをやっている部署のようだ。だから連携して業務を回す、なんてことはよくある話だった。

 それゆえに覚えていたのだけど、それだけではなく、後から入ってきた不機嫌な表情の男性のおかげで、この部署は社内だけではなく、社外でも有名なのである。


 どうして有名なのかというと、彼らの一族が繁栄の象徴であるからだ。

 分かりやすく言えば、国家版座敷わらし一族?

 ということは、ラウみたいな存在?


 そんな一族なので、昔は秘匿されていたようなのだけど、AIが普及したことで明るみに出てしまったようなのだ。

 だから昔は知る人ぞ知る的だったのが、国民全員にというと大袈裟だけど、知られるようになってしまったようだ。


 そんな人が通常ルートで入社してくるということで、大騒ぎになったらしいのだけど、私はその一年後に入社だったので、それは知らない。

 そのせいで次の年から応募者殺到で倍率がものすごいことになって少しだけ殺意を覚えたのも、今となっては良い思い出である。


 そしてそんな彼であるけど、業務の手続き上で何度か話したことはある。向こうが覚えているかは知らないけど。

 この人に人間らしい感情ってあるのかと思うほどの淡々とした話し方だった。


 そんな特殊な一族で、さらには私が見てもイケメンだと思える容姿を持っているということは、女性人気がすごいということで。

 彼の周りには絶えず女性の姿がちらちらしていて、おまえら仕事しろよ、と何度思ったことか。


 そんな人が、はて、なんで私に用があるの?


「お待たせしました。始業時間前に申し訳ございません」


 入ってきて二人はすぐに私に向けて頭を下げてきた。

 私は慌てて立ち上がったのだけど、え、なになに?


「実は、大変に恐縮なのですが、陸松さんのお力を借りたく」

「私の?」


 入社三年目の雑務係の私になんの力があるというのでしょうか。


「座って話しませんか?」


 部長は座ったままなにもせずにいるので、私が話を進めなければならないようだ。


 二人が座ったので、私も座った。

 ちなみに先ほどから先に入ってきたサラリーマンさんと私しか喋ってない。


「ご存じかもしれませんが、先に自己紹介をさせてください」

「はい、お願いします」


 何度か話したことはあるけど、すみません、名前を思い出せなくて、さっきから必死に思い出そうとしてるのだけど、思い出せないのですよ!


「私は 青野悠也(あおの ゆうや)と申します」

「オレは藍野麻人(あおの あさと)だ」

「同じ部署に音だけ聞くと同じ苗字がふたつあるので、私のことは悠也、彼のことは麻人と呼んでいただけますと助かります」

「はぁ……」


 音だけ聞けば、とは?


「あのぉ、お二人の苗字の漢字、どう書くのですか?」

「私は青に野原の野、彼は藍色の藍であお、でやはり野原の野です」


 なるほど、確かに字で見ると違うけど、音は一緒なのか。


「ありがとうございます」

「いえ。分からないことがあれば、いつでも聞いてくださいね。今日から一緒に働くことになりますから」

「…………? えっ、なに?」


 え、どういうこと?


「麻人さんのことはどこまでご存じですか?」

「国家版座敷わらし?」


 あ、本人を前にしてなんか間抜けな回答をしたような気がする!


 やはりその回答がおかしかったのか、麻人さんは肩を振るわせて笑い始めた。

 う、やっちまったか。


「ははっ、うん、やはりオレが思ったとおりだ。採用で!」

「……ということです」

「はぁ、ありがとうございます?」


 細かいことは改めて、と言われて二人は会議室から出て行った。

 うん、分からん!


 部長と二人、取り残された会議室で、部長がポツリとつぶやいた。


「これで……さらなる出世が約束されたも同然っ!」


 さようですか。

 サラリーマンって大変ね。


     ◇


 良く分からないまま、いきなり部署異動になったのですが、これって前から分かっていたことなのかしら?

 先週は木曜日と金曜日は休んでいたので、状況がわからない。


 席に戻るなり片付けを始めた私を、同僚たちが遠巻きに見ているのが分かった。


「陸松くん」

「はい?」


 パソコンの電源類を引っこ抜いていたところに空気を読めないくん──名前は忘れた!──が声を掛けてきた。


「なにをしてるんだい?」

「なにって」

「始業のチャイムはもう鳴っているよ?」


 そんなの、言われなくともわかっとるわっ! と内心で思いつつ、淡々と返す。


「そうですか、席を外していたので聞こえていませんでした」

「朝から部長に呼ばれるなんて、キミは仕事が出来ない人なんだね」


 前々から思っていたけど、ことあるごとに突っかかってくるんだけど、なんだこいつ?


「他になにか?」

「い、いや」

「?」


 こんなのを相手にしている暇はなかったので、作業をしながらだったのだけど、なんか急に空気が変わった?

 不思議に思って顔をあげると、なぜか麻人さんがこちらに歩いてきていた。

 ありゃ、遅いから様子を見に来られてしまった?


 部署内の女子全員が色めきだっているのですが、あぁ、そうか。楓真と父で見慣れているけど、目を奪われる見た目ですからね。しかも国家版座敷わらし(ヤケ)。

 あわよくばと思う人は多いのでしょう。

 大変だね、うん。


「手伝いに来た」

「それはすみません」

「荷物を運ぶのに台車がいるだろう? そこの通路に置いている」

「あ、ありがとうございます」


 うん、おしい!

 通路に置かれると、そこまで運ばないといけないじゃないですか! ここまで持って来い! と内心で思いつつ、表に出すことなく淡々と言われた場所に置かれている台車をもってきて、そこに片付けた荷物を乗せていく。


 今度は不気味なほど部署が静かなんですけど。

 様子見しないでぇぇ!


 ……こうなったらできるだけ気配を殺して作業をしよう。

 見られてない、見られてない……。


 ……………………────。


 むっちゃ見られてるっ!

 視線が超痛いっ!


 うぅ、なにこの月曜日の朝からの地獄。

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