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ゲームのレア職業を当てましたが、「洗濯屋」ってなにをするんですか?  作者: 倉永さな
《四日目》日曜日

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第四十九話*《四日目》戦闘開始

 視界の端でキースが頭を抱えていた。

 あはは、申し訳ない。


「リィナ、そこの男もパーティに加えて」

「う、うん?」


 レベル差があるからとか言ってたけど?


「私たちだけではアレは倒せない」

「そういうこと?」


 キースにパーティ申請をすると、秒で承諾された。


『おまえな、目を離した隙になにしてるんだ!』

『目を離したのが悪い』

『おまえも原因だろうがっ!』

『キースが悪い』


 ドゥオはキリッとキースに返していた。


『やらかしの後始末の責任を取って』

「私?」

『リィナ、パーティチャットで!』


 パーティチャットとは?


『……まさか、パーティチャットが分からないとか、言わないよな?』

「いえ、そのとおりでして」


 なんかね、さっきからこもってるような聞こえ方がなんか変だなとは思っていたのですよ。それがパーティチャットだったとは。


『えーっと? これでよい?』

『よき』


 パーティチャットというのは、パーティに所属している人にしか聞こえない声、といえば分かりやすいだろうか。

 リアルだとそういった機能がないから説明は難しいのだけど、そういうものがある、と思っていただくしかないというか。


 あぁ、これに近いかも! 分かりやすいたとえをすれば、ウェブ会議? 同じ仮想の会議室にいる人たち同士に聞こえるってのが近いかも。


『ったく。目を離したオレが間違いだった』

『いやぁ、たぶんこれ、そういう問題ではなさそうだよ?』


 どのみち、キノコを一撃で沈めていただろうから、結果は一緒のような気がしないでもない。


『トリガーはキノコを連続で一撃死させてたことみたいだよ?』

『……やっぱりやらかしじゃないかっ!』

『あれ、そうなの?』

『そもそもが初期装備だとこのあたりから一撃で倒すな……ん、て……。ま、まさか』

『キースも一端』

『うわっ! オレもかっ! ナチュラル巻き込みの被害だっ!』

『結局は私っ?』

『きっかけを作ったのは確かだが、トリガーを引いたのは間違いなくリィナだっ!』


 ここで揉めている間に先ほどのアナウンスを聞いたプレイヤーがあちこちから集まってきた。すでにお祭り状態になっている。


「なんだ、なんだ?」

「でかっ! なんだあれ」


 今までのやらかしはローカルといっていいのか、身内だけだった。

 けど、今回のはこれだけの目撃者がいるので、隠せない。

 うん、フィールドでのやらかしは危険ですNe☆


 と言っている場合ではなくて。


《お~のぉ~れぇ~! 我が同胞を一撃で次々と(ほうむ)りくさりおってぇ~!》


 やはりトリガーは一撃死のようだ。


『……リィナのやらかしはだれにも止められないな』

『キースさん、キースさん』

『なんだ?』

『指揮、よろしく!』

『は? なんでオレっ?』

『この三人の中で一番戦闘に慣れてるのと、知名度?』

『おまっ……! これやったら今以上の悪夢が……』

『だいじょーぶ、だいじょーぶ! フーマが手を回してくれてるから!』


 ということでパーティリーダーをキースに移譲、と。


『てめぇ……。おぼえておきやがれ』

『覚えてたらNe☆』


 Ne☆ は使えるっ!


 そんなやり取りをしていたら、見知った三人組を見つけた。


『キースさん、マリーちゃんたちを発見しました!』

『よし、鴨が来たっ!』


 鴨っていったい……。


 キースは素早くマリーたちに近寄ると、なにごとかを交渉して、それから三人が新たにパーティに加わった。


『マリー、メインタンクを任せたぞ』

『えっ? な、なんでわたくしっ?』

『知り合いでタンクはマリーしかここにいないからだっ!』


 あ、なんかとばっちり?


『が、がんばりますわっ!』


 アナウンスを聞きつけてやってくるプレイヤーが後を絶たず、あっという間にすごい人ごみに。


【参加者はただちにボスフィールドに入ってください。三分後にフィールドを閉鎖します】


 とのアナウンスが。

 おや、あまり時間がないみたいだ。


【今回の討伐のまとめ役にさせられたキースだ。討伐を成功させたければ、指示に従ってほしい】


 お、覚悟を決めたようだ。

 いいぞ、キース! やるのだっ!


 周りの声が聞こえてきて、「キースさま」やら「あいつだれ?」やらいろんな声が聞こえてくる。


【連合を組みたいので、ヒーラー、アタッカー、タンクで分かれて列を作って欲しい。今、パーティを組んでるヤツはそのままで】


 キースの指揮の下、集まった人たちがそれぞれの職ごとに隊列を作っていく。


【ある程度、分かれたな? この中でパーティリーダーが出来るヤツ、前に出てきてほしい】


 数人が出てきて、キースはその人たちになにか指示をしていた。


【パーティに入った人は隊列から外れて】


 あ、なるほど。

 即席でもそれなりにバランスを考えてパーティを組ませるために職ごとに分けたのか! さすが、慣れてるね!


【フィールド締め切り、残り一分きりました!】


 だれかがアナウンスしてくれた。

 バタバタと慌ただしくなり、パーティが出来た端からキースは連合に誘っているらしく、視界に新たなウインドウが開き、名前がずらっと並んだ。


【パーティメンバーに余裕があるところは、追加で残ってる人を入れてくれ!】


 残り十秒前くらいになり、ここにいる全員が連合に参加できたようだ。


【メインタンクはマリーがする。他のタンクも分散してヘイトを取っていってくれ!】

【キースの妹のマリーでぇっす! よろしくお願いいたしまぁす!】


 あ、それ、言っちゃうんだ。


 周りはかなりザワッとしたけれど、カウントダウンが始まったため、静かになった。


【……ゼロ!】


 システムのカウントダウンが終わった途端、ボスフィールドは透明なドームに覆われた。

 勝敗が決まらないと出られないみたいだ。


【よっし、マリー、(ファースト)(アタック)だ!】

【御意!】


 な、なんでそこで急に御意っ?


 マリーは走り出し、巨大キノコに近づいた。


 キノコの大きさはどれくらいなのだろうか。縦にも横にも大きい。しかもこれがグリーンマッシュルームから生まれたとは思えない見た目だ。

 簡単に説明すれば、カサ部分が緑の巨大なしめじ、といったところか。


「マリー、いっきまぁーすっ! おりゃあ! 巨大になればいいってものではありませんことよっ!」


 マリーの一言に、巨大キノコ……災厄キノコがフンガーッ! と怒りをあらわにした。


 ヘイトスキルを使うのを初めて見るのだけど、もしかしなくても、相手を怒らせるようなことを言ってヘイトを稼ぐ……なんてこと……。


「こっちだぜ、ウスラトンカチ!」


 他にもタンクらしき人が災厄キノコに対して罵りの言葉を放っていた。

 ……な、なんだろう、子どものケンカっぽく見えてくるのですが。


 開幕は子どものケンカのように始まったけれど、遠距離攻撃が出来る人たちから災厄キノコへ次々とダメージを与えていく。

 最初はタンクのヘイトが打たれる度に右往左往していた災厄キノコだが、ようやく方針が決まったのか、それとも、一定のダメージを受けたからなのか、一度、咆哮を上げると、身体の横から腕らしきものがペリペリっと剥がれるようにして現れた。その腕はなぜか四本もある。

 というか、キノコに腕が生えて、怖いし気持ちが悪い。


『な、なにあれ』


 私はまだ、戦闘に参加してない。

 というのも、遠距離攻撃が出来るスキルも武器もないというのが最大の理由だけど、あれに近寄るのはちょっとどころかかなりの勇気が要る。


『腕だな』

『見たら分かりますって! なんで四本もっ?』

『ダメージを負うごとに腕の本数が増えるタイプかもな』


 キースは弓を取り出して、背中に背負っていた。

 弓の見た目は青……というより例の藍色といえばいいのか。藍色に染まった大きな羽が弧を描いていて、とても優美だった。

 思っていたよりも細い見た目に、腕力が必要そうには見えない。

 キースもまだ、攻撃していなかった。


『ドゥオ』

『なに?』

『武器は短剣だけか?』

『そうね』

『この先、どうも嫌な予感がする。ドゥオも形態変化に備えて、ここで待っていてくれないか』

『りょ』


 キースは災厄キノコが変身すると読んでいるようだ。

 あの腕が出たのも小さなモードチェンジといえばそうなのかも。


 災厄キノコは腕の調子をみるかのように四本同時に腕を振った。


「うわぁぁぁ!」

「きゃーっ!」


 という悲鳴が各地で上がり、それと同時にプレイヤーの何人かが軽く宙に舞った。

 だが、飛ばされた人は立ち上がっていたので、致命傷ではないようだ。

 そのことにものすごくホッとした。


 たぶんだけど、私があの攻撃を受けて吹き飛ばされていたら、死んでた。

 そう思うと怖くなり、動けなくなった。

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