第四十八話*《四日目》災厄キノコ
せっかくキースが短剣を提供してくれたのだけど、あまりの生々しさに心が折れそうなリィナリティです、こんにちは。
「だが、弓はあまりおすすめしない」
「なんで?」
「エイムに自信があるのならいいが」
そう言ってキースはちらりと私を見た。
aimというのは一般的な英単語で、標的、狙いといった意味だ。私が苦手とするFPSでよく使われれていて、どれだけ正確に標的を狙って撃つことができるかといった意味合いで使われているようだ。
そういったゲームにはエイムのサポートシステムが搭載されていることが多々あるようだけど、フィニメモは妙にリアルなのでシステムで補正といったものはなさそうだ。
ただ、スキルはありそうだけど、それもどれだけ補正してくれるものか分からない。
キースの口ぶりからすると、あまりサポート機能はあてにならないと思っていいのかもしれない。
「……馬鹿にしてますね」
「今の狩りを見て、そうとしか判断できないよな?」
「う……」
自分でもどれだけ不器用なのよ、と呆れてるくらいなんだから、改めて抉らないでください……!
「オレの弓を貸してもいいんだが」
「だが?」
「かなりカスタマイズしてて、腕力がないとまず、弦が引けないんだよな」
「…………。私に腕力があるように見えますか?」
「見えない」
「うわあああ、キースがいじめるよぉ!」
そういってドゥオに抱きつくと、よしよしと頭を撫でてくれた。
うう、やさしい。
「おまえ……」
キースは自分が私をいじめたのに、なんでドゥオをそんな目でにらむのですか。
「自業自得」
「てめぇ」
ドゥオも煽らない。キースも煽りに乗らないで。
「あの、これだといつまでも私、レベルが上がらないのですけど」
「……そうだな」
すぐに目的を忘れて熱くなるの、どうなのよ。
「近いレベル同士でパーティを組んでいれば経験値が入るから、ドゥオにすべて任せろ」
「いやいや、それ、私の狩りスキルが上がらないのですが!」
「……オレが守るから、リィナは狩りが下手でも問題ない」
「な、なに言ってるの! 見てるだけなんて、RPGの醍醐味を私から奪ってるようなものじゃないですか!」
キッとキースをにらみ、それからドゥオを見た。
「ドゥオ姐さん! 私に短剣の極意を授けてくださいませ!」
「……いいけど、狩りはリィナにすべて託すわよ?」
「おっす!」
スキルによる補正なし、中の人スキルは低い。
それでも私は根性でやってやる!
ドゥオ監修の元、私はキノコチャレンジを繰り返した。
ちなみにキノコチャレンジは私が勝手に命名した。
キノコは動かない。
命中率を上げるには背後からと言われたけど、キノコの背後ってどこですか?
「リィナ、しっかり短剣の刃先を見る」
「は、はい!」
「振り下ろすとき、腕がぶれてる!」
「お、おっす!」
「まっすぐ……なんでスカるの」
「それは私が知りたいです!」
おかしい。
なんで動かないはずのキノコなのにかすりもしないの?
「仕方がない」
キースはやれやれといった風に私の後ろに立った。
「な、なにをっ?」
「オレがアシストする」
キースは私の背中にピタリとくっつき、右の手首をつかまれた。密着している背中が急に熱い。
「いいか? ドゥオはそんなに短剣を振り上げてなかっただろう?」
「う、うん?」
どうだった? ドゥオの動きが速くて、正直なところ、あまりよく分からなかった。
「上から振りかぶると短剣はぶれやすい。リィナは特にそういった傾向が強いから、身体の横から突き刺せ」
「身体の横から?」
キースはそう言うと、私の手首を身体の横に這わせるようにしてきた。短剣は腰のあたりにある。
「素早く刺すとダメージは出やすいが、今はそれよりも命中率を上げたい。だからゆっくりでもいいから確実に当てろ」
キースが言うとおり、当たらなければダメージを与えることもできない。
「一撃で仕留められなかったら、ドゥオがフォローするから安心しろ」
ドゥオに視線を向けると、うなずかれた。
「では、リィナはあまり力まず……そうだ。オレの動きに合わせて」
キースの動きに合わせて、腕を動かす。
若干、下から上へ突き上げるように短剣を前に繰り出し、キノコへ。
「っ!」
先ほどまであれほどスカっていたのに、キースのアシストのおかげなのか、キノコに当たった。
しかも下から上へだったのもあり、その勢いでキノコを切り裂いた。
真っ二つとは言い難いバランスの悪さではあったけど、キノコの身体はふたつに分かれ、バタンと地面に倒れた。
「た、倒せた?」
「あぁ。一撃だ。上出来だ」
そう言って、キースが頭を撫でてくれた。
アシストがあったとはいえ、倒せたのがすごく嬉しい。
「身体が動きを覚えるまで、アシスト付きでやれ」
しばらくキースのアシスト付きでキノコを切り裂いていった。
たまに一撃で倒せなくてもドゥオがフォローしてくれたので、今のところは無傷だ。
「一度、オレのアシストなしでキノコを倒してみろ」
「う、うん」
キースが背中から離れて、ひとりになった。
背中の熱がなくなりスーッとするけど、喪失感を忘れたくて、キノコに八つ当たりだ!
キースに教えられたとおりに腰の横に短剣を構える。キノコの後ろに立ち、それから確実に当たるように短剣を突き刺すようにして前へ。
ザクッとした手応えのあと、キノコが裂けてベロッとめくれた。キノコだからまだいいけど、それでもグロい。
残念ながら一撃で仕留められなかったので、ドゥオがすかさずキノコを真横に斬り裂いてくれた。
「さっきまでのスカスカっぷりを思えば、ずいぶん上達したな」
「えへへ、キース先生のおかげですね。ドゥオもありがとう」
キースとドゥオがやってきて、ふたりが同時に頭を撫でてくれたのだけど、なぜかふたりはにらみ合っている。
なんでキースと洗浄屋の人たち、こんなに仲が悪いの?
「オレのリィナに触るな」
「あなたのリィナではないでしょう?」
仲良くしてほしいけど、相手をしていると私のレベルが上がらない。なので放置して、私は次なるキノコへと向かった。
先ほどと同じ要領でキノコに攻撃する。今度は上手くいったようで、一撃で沈めることができた。
うん、なかなかいいね!
キノコが一撃で沈んでいくのが楽しくて、次から次へとキノコを倒していった……まではよかった。
そうやって倒していくうちに、キノコを倒した後に急にキノコが断末魔? らしきものをあげはじめた。
それは、こんな感じだ。
キノコの後ろだと思われるところに立つ→短剣がより刺さりやすい場所を確保→ドスッと刺す→「きぃ~」とキノコが鳴く?→後ろ(以下略→「のぉ~」
「……………………?」
鳴くのもおかしいのだけど、先ほどから地面に転がっているキノコが消えないのですが。
たまにNPC鯖の調子が悪いと消えないことがあるんだけど、視認できる範囲で狩りをしている人たちが倒したモンスターは消えているから、あれ、これってまさか?
……分からないけど、検証しなきゃねっ!
ということで、キノコの背後に立ち、ドスッとやった。
そのキノコは今度はなにも言わず、地面に転がった。
うん、どうやらさっきの二体がおかしかったのね!
さて、次は……と思っていると、地面に転がっていたキノコが急にどす黒い煙みたいなのを吐き出した。
「っ!」
ちなみにキースとドゥオはどういう経緯でかは分からないけど、またもや戦っていた。
だけどキノコから煙みたいなのが出始めたことで異変に気がついたようだ。
「おい、リィナ!」
「は、はいっ!」
思わず直立不動になり、手をあげていた。
「おまえ、またやらかしたなっ!」
「そ、そ~みたいですNe☆」
「Ne☆ じゃないだろうがっ!」
そうは言ってもですね!
「うきゃぁ」
黒い煙がキノコの周りにもうもうと立ちこめ、地面に転がっていたキノコを包み込む。
それは徐々に凝縮されて……急激に黒い煙は収縮して、それから巨大ななにかへと変貌した。
「きぃ~のぉ~こぉ~!」
【災厄キノコが現れました。周辺の人たちは避難をするか、腕に覚えのある者は討伐してください】
そのアナウンスとともに、
【突発クエスト】災厄キノコの復讐
を受領しました。
と出た。
はい、やらかしですNe☆




