第四十七話*《四日目》ようやく狩り?
ということで、ようやく狩りをすることになった。
……のだけど。
「あのぉ、私の武器」
「商売道具以外なら、なんでもいいさ。トレースのように素手でもいいし」
トレースは爪を伸ばして見せてくれた。
「ぉ、ぉぅ」
獣人は見た目は人間と同じなのだけど、耳や尻尾がついている姿をしていることが多い。
トレースもそうだし、マリーたちもだ。
だからトレースが爪を伸ばして見せてくれたのは、人間と同じ手なのに、急に爪が伸びたので、ビックリして引いてしまった。
「トレース、つかぬことをおうかがいしますが」
「おう」
「牙ってまさか」
「あぁ、これか?」
そう言って、トレースはニッと笑って八重歯を見せてくれた。それはキラッと光っていて、とても手入れをされた刃物のようだ。
「……そ、それで噛みつく、と?」
「そうだが?」
う、うん、ワイルド……ですね?
「リィナ、こんな変な戦い方をするのはトレースだけだから、安心して?」
ドゥオの一言に、トレースは顔を引きつらせていた。
「リィナ、オレが渡した短剣を使えば良い」
「そうかもだけど、なんだかもったいなくて」
「使わないほうがもったいないだろうが。別に使っていく度に耐久値が下がるわけでもないのに」
言われてみればそうなのだけど、なんというかですね。
最初からこんな良い武器を使っていいのかという葛藤がですね。
……………………。
「……ありがたく、使わせていただきます」
キースの口からまさか「もったいない」なんて単語が出るとは思わなかった。
武器は決まった。
私が使いこなせるかはまた別だけど。
「……ところで、NPCとパーティって組めるの?」
そう、一番の心配はこれ。
しかも良く分からないけど、私は今、システムに登録されている人としかパーティが組めないという、またもや謎の縛りが発生しているのだ。
「普通は組めないです」
「普通は……」
これもやらかし? いや、そうではないと思いたい!
「ですが、リィナさん、あなたはだれとでもパーティが組める状態ではないはずです」
「システムに登録されている人……。それってどこかで確認できるの?」
「フレンド一覧の項目で確認ができます」
ウーヌスの説明を聞いて、確認してみた。
フレンドリストなるものがあるのもウーヌスの説明を聞くまで知りませんでした!
MMORPGはやったことはあるけど、そこまで深く遊んでこなかったので、そういうことができる、程度しか知らなかったのだ。
そして、フレンドリストを見た。
キース、マリー、伊勢、甲斐の四人。
それとは別でタブがあって、「システム登録者」とあったので見てみる。
フレンド四人は当然ながら入ってるのだけど、洗浄屋の人たち全員も入っていた。
「……これ」
「またやらかしか」
「やらかしとは違うけど! でもこれは私のせいではない!」
それはともかく、
「私をのぞいて五人とパーティが組めるのだけど、だれと行けばいいの?」
「店を休んでとは言ったけど、この周辺であればペアくらいがちょうどいいね」
となると、だれと狩りに行くのかが問題になったのだけど。
このままだと、前のジャンケン騒動の二の舞になりそうだったので、先手を打つことにした。
「あんまり話をしたことがないドゥオさんで!」
「私が」
「いや、俺が」
「二人はダメです! キースさんに闇討ちに遭うから!」
「……キースめ、覚えておけよ!」
「ふふんっ」
もう、なんでそんなに大人げないのよ!
「では、と」
ドゥオにパーティ申請を送ると、すぐに承諾された。
「……これでパーティ状態なの?」
「もしかしなくても、ステータス表示を切ってるのか?」
「? なにそれ?」
「……設定画面を開く」
「はいな」
「表示設定のタブを選択して、その中に『パーティ状態の設定』タブがあると思うが」
「これか!」
その中に「HP・MP表示」というのがあって、チェックが外れていたので入れてみた。
すると、私の視界の左上に私のゲージとその下にドゥオの名前とゲージが現れた。
「おおお、RPGっぽくなった!」
「……おまえは初心者かっ!」
「フィニメモでは初心者です!」
胸を張って言うことではないかもだけど、ラウを真似てみた。
すると、ラウとオルが横に来て、同じポーズをとってくれた。
ラウとオルってば、かわゆす。
『なんじゃ、おぬし。リィナリティをいじめるでない』
「いじめてはないぞ」
「ねーちゃんいじめ、反対!」
「おい、だから違うと」
キースのうろたえる姿が面白いからそのまま見ていたのだけど、さすがにかわいそうかなと思い、助け船を出すことにした。
「ふたりとも、このお兄さんは私のことを心配してくれてるだけだから、ね?」
『それならいいでちが』
「爺?」
「おいいい!」
オルが地味にやり返しておる。
キースもキースで過剰に反応しすぎ。だから面白がって遊ばれてるのよ。
「では、行きますか」
椅子から立ち上がると、キースは目深にフードを被り、立ち上がった。
「あやしい」
『あやしいヤツでち』
オルとラウにそう言われて、だけどキースはフードを取らなかった。
「なんとでも言えばいい」
「爺フード」
「造語を作るな」
「Gフード!」
なんか急にかっこよくなったぞ?
「時間は有限だ、行くぞ!」
キースはそう言うと、台所から出て行った。
私もドゥオとともに出掛けることに。
「行ってきます」
「気をつけて行っておいで」
みんなに見送られて、洗浄屋から出た。
キースは外で待ってくれていて、しかもまたもや手を繋がれた。
「あの?」
「人が多いから、迷子にならないように」
「……はい」
今後、これはデフォルトになるのかしら?
そんなことを思いながら、キースに連れられて村の中を歩いた。
◇
ドゥオが先頭になり、狩り場を探すことに。
村の中は案の定というか、人が多くてキースが手を繋いでくれてなかったら、迷子になるところだった。
人混みを縫って、ようやく村の外へ。
村から近いところに配置されているモンスターはレベル一から五くらいが適正らしい。狩りデビューだと思われる人たちが狩りをしていた。
試しにモンスターをタゲってみると、名前が真っ青だった。
ということはペナルティが発生していて、倒しても経験値がほとんどない状態のようだ。
戦闘してないのに、すでにレベルは十だからなぁ。
なんだか損をした気分。
さらに歩くと、レベル五から十までが適正のモンスターがいる場所になった。
「リィナは狩りは初めてよね?」
「はい」
ドゥオだけど、店ではタイトな黒のワンピースに白いエプロンをしていたのだけど、狩りに行くからと着替えたようで、黒の丈の短い身体にピッタリとした革のシャツに、こちらも革でできた黒のズボン。普段は黒い髪を下ろしているのだけど、今はポニーテールにしていた。
そんなあまり飾り気があるとは思えない格好なんだけど、彼女がダークエルフだからなのか、なんと申しますか、妙な色気がありまして。
ドゥオさん、ぱない。
……すみません、ぱないって使ってみたかっただけです。
「ここは適正ギリギリだけど、様子見できるからここにしよっか」
「はいな!」
まずはドゥオが狩りの仕方の見本を見せてくれた。
彼女の武器は短剣で、スキルと短剣での殴りと混ぜて戦うのが基本だとか。
スキルばかり使っているとMPが枯渇する。だけど殴りだけだとなかなか倒せない。なので両方をバランス良く使うことで、狩りのテンポをよくしていくのだとか。
パソコンでMMORPGをやったことがあるので、そのあたりは知っていたけど、フィニメモでも同じようだ。
あとはターン制ではないので、向こうの攻撃を待つ必要はない。
速く狩り、こちらの被弾をどれだけ減らすのか、はリアル寄りの狩りで重視されることだ。
行き過ぎると「効率厨」と言われるけど、限りある手数の中でいかに多く速く狩るかは効率云々の前に命題だと思う。
そのためにはよい武器を手に入れるのが近道で、それを生かすためにスキルや装備を整える。
……というのがRPGでの共通理念のような気がする。
とはいえ、このあたりではドゥオであればスキルも要らず、一発で倒せる。
……当たれば、の話になるけど。
短剣は攻撃速度が速いという利点はあるけれど、その分軽くてスカることが他の武器に比べたら多いらしい。でも、攻撃速度が速いから、リカバーはしやすいとも言える。
まぁ、これも中の人スキルに依存する部分があるので必ずしも短剣=当たらないとはならないらしいのだけどね!
できたら命中補正がほしいところ、らしい。
ドゥオが二、三体倒したところで、今度は私となるのだけど。
「うりゃぁぁぁっ!」
スカっ
「どりゃああああ!」
スカっ
「…………」
「致命的なまでに戦闘センスがないな」
「ううう……」
相手はジッとしているキノコなんですけどね!
例のあの! 私をKOしていったキノコ、グリーンマッシュルームですよ!
絶望的に当たらないのです!
「……それなら、刃をキノコの表面に当てて、力を入れて倒すのがいいかと」
ドゥオのアドバイスの元、実行してみる。
「どりゃああああ!」
グサッ。
「…………」
うん、すごい! 一撃で倒せましたね!
「倒せたけど、刺したときの感触がやだ」
なんでこんなところまでリアルなのよ!
「オレはそれがやで、弓にした」
「……な、なるほど?」
キースが「やで」なんて、ちょっとかわいい? あれ、それとも、矢とやで掛けた?




