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ゲームのレア職業を当てましたが、「洗濯屋」ってなにをするんですか?  作者: 倉永さな
《三日目》土曜日

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第四十五話*《三日目》NPCと侮ること勿れ

 洗浄屋についても、キースは手を離してくれなかった。

 なんというかですね、大変に居心地が悪いのですよ。


 キースと繋いだ手が心地良いと思えたり、温もりというより熱い手に驚きがあったりだとか。

 握手をしたときも言われたけど、キースの大きな手にすっぽりと包まれている私の小さな手に安心感が、座りが良すぎて怖い、とか。


 知ってはいけないことを知ってしまった怖さ。

 これを知ってしまったら、手放したくなくなる。


 だけどキースはとても人気があって、そもそもが私が独り占めといっていいのか、そんなことをしてはいけない人なのに、それに、周りの反応を見ていると、特別扱いをされている感じもあって、いいのかな、と。


「急に静かになったな」


 そんな私の戸惑いと葛藤なんて知らないキースは、のんきなことを言っている。


「リィナを黙らせるには、手を繋ぐのが効果的、と」

「キースさんっ!」

「なんだ?」

「な、なんで、手っ!」

「オレが繋ぎたかったから」

「だから、どうして……。いえ、なんでもないです」


 理由を聞いて、自分が望んでいたものと違っていたらと思うと怖くて、結局、黙るしかなかった。


 幼いころはそれこそ、興味本位であちこち歩き回る私の制御をしていたのは、楓真だった。

 一緒に出掛けるときは、楓真は必ず私の手を繋いでいた。

 それも長じるにつれて、されなくなったのだけど。


 幼いころはなんのてらいもなく手を繋げていたのに、どうして大人になると素直に繋げなくなるのだろうか。


 幼いころは純粋と言う名の、なにも知らなく、無知だったから出来たのだろうか。

 大きくなると、不純になるから繋げなくなるのだろうか。


「なんかまた、考えてるな?」


 あんたの行動のせいで私はいろいろと悩んでるのよ! と言いたいところだけど、なんだかキースに翻弄されているのを知られるのが嫌で、(だんま)りを決め込んだ。


「お兄さまは間合いを取るのが下手くそですわ」

「なにをっ!」

「いきなりそんなに押せ押せで詰め寄ると、お姉さまはとても戸惑うと思うのです」


 マリーの言葉は今の私の戸惑いを端的に表していて、思わず大きくうなずいた。


「おや、戻ったのかい? ずいぶんとにぎやかになったねぇ」


 私たちは洗浄屋に着き、いつの間にか集合場所になっている台所で話をしていたら、クイさんが現れた。

 クイさんを見ると、いつもはワンピースにエプロン姿なのが、今はパジャマを着ていたので、寝る準備をしていたのかもしれない。

 というかだ、NPCなのに場面ごとに服装を変えるなんて、なんて芸が細かいんだ!


「あ、クイさん、ごめんね。寝ようとしてたところだったよね?」

「構わないよ。リィナたちが帰ってくるのをただ待ってるのも時間がもったいなかったから、寝る準備をしてただけさ」


 NPCといえども、きちんと生活サイクルがあるのね。


「それで、新しい人()()は?」


 ここを出るときは一人だけと思っていたのでクイさんにはそう伝えていたのに、私たちを見て、すぐに複数人であることを判断してくれたようだ。

 NPC、怖い! AI、マジ怖い!


「あの、この人たちなんだけど」

「マリーと申します」

「自分は伊勢でござる」

「甲斐だ」


 クイさんはこの濃い三人を見ても特に表情は変わらなかった。

 さ、さすがクイさん?


「で、だれがキースの妹なんだい?」

「マリーちゃんです」

「ほう。よく似てるね!」


 クイさんに言われて、二人を交互に見てみる。

 先ほどまで暗いところだったので、明るいところで見比べるのは初めてだ。

 クイさんがいうように、このふたりはとても似ていた。

 容姿のよさもさることながら、形の良いパーツも似ている。


 一方の私と楓真だけど、似てないとよく言われる。

 まぁ、私の見た目が地味だからね!

 楓真は派手というよりは華やかって感じ。


 それにしても、キースひとりでもきらびやかだったのが、マリーが並ぶときらきらしすぎて目が潰れそうなんですけど。

 半端ないな、この兄妹!


「それでね」


 この三人は同じ部屋でいい旨をクイさんに伝えると、心得たといわんばかりにうなずいた。


「ちょうどいい部屋が空いてるよ」


 時間を確認すると、思っていたより経っていたので、今日はこれで解散という話になった。


「私がいないときでもここは使ってもらっていいので! それでは、お休みなさい」


 それだけ告げて、私は自室に戻ってログアウトした。


     ◇


 ログアウトして、時間を確かめると、日付が変わろうとしていた。

 今は日本は夜中の零時。イギリスは十六時か。

 楓真に連絡してもいいけど、どうしようかなぁ?

 とりあえず、忘れないうちに先ほどの動画を送っておこう。


 動画を楓真に送りつけ、寝る準備をして部屋に戻ると、スマホがちょうど鳴っていた。

 楓真からだった。


『莉那』

「こんばんは、さっきぶり」


 私の挨拶に楓真はそれはそれは盛大なため息を吐いた。


『キースの妹もフィニメモ始めたのか?』

「うん」

『βテストのとき、大変だったんだよな、なだめるの』

「楓真は妹ちゃんと面識があるんだっけ?」

『ある。むっちゃくちゃフリーダムだから』


 キースもそういえば言ってたな。


『あー、しまったな……』

「どうしたの?」

『あ、いや……。キースの妹に「約束守れなくてごめん」と言っておいて』

「はぁ」


 今の話の流れ的に、楓真は妹ちゃんをなだめるために、正式サービスが始まったら一緒に遊ぼう的なことを言ったのかもしれない。


『……海外勤務、力業で短縮するしかないな』

「え、そんなこと、できるのっ?」

『俺をだれだと思っている!』

「り、陸松楓真?」

『くっ……くくく……』


 楓真はスマホの向こうで笑ってるんだけど、あれ、おかしくなった?


『いやー、やっぱり日本がいいね』

「そ、そうなの?」

『こっちだと、まず「陸松」と発音できないみたいなんだよな。リックーマッツーって、なんだよ、それ!』


 ほー。


『楓真も「フーマ」だし。なんかこう、ゲームしてる気分になるんだよな』


 ふ「う」まの「う」の発音が難しいのかしら?


『ということでだ。半年に短縮してやるからな!』

「無理しない程度に頑張れ」


 としか私には言えない。


『あと、キースの待ってる発言は見た。どこが愛の告白なんだ』

「いやいや、だって律儀に待つって言ってるんだよ、キースが」

『基本、キースは単体ではあんまり動かないからな』

「単体ではって」

『まー。なんというか? あいつはあいつでリアルではいろんなしがらみにがんじがらめだからさ。あとはかなり特殊な家の生まれだから、周りが……うーん、そうだな。放っておかないというか』


 なんかよくわかんないけど。


「でも、洗浄屋には単体できたよ?」

『フィニメモではほぼ俺と一緒だったから、俺がいないとソロになりがちなんだよな』


 あれ? キースって実は。


「コミュ障?」

『あ、それそれ! 心許した人にしか口きかないから』


 コミュ障とはちょっと違うのかもだけど、人を選んでる時点でアウト! なんだあいつ。社会人としてダメダメじゃね?


「そんなので会社勤めができるの?」

『そこはそれ。仮面被って頑張ってる』


 社会人ではあるのか。


『人見知り……とは違うんだよな。人間に対しての興味の幅が狭いというか。うーん、説明するの、難しいな……』


 どちらにしても、残念なのね。

 あ、なるほど。


「だから楓真は付き合ってるんだ」

『なんか俺がものすごい腹黒っぽく聞こえるんだが』

「え、楓真って腹黒だよね?」


 楓真の見た目って、姉が言うのもなんだけど、人がよさそうに見えるのよね。でも実際は、周りを観察して、使えそうな人間は舌先三寸で言いくるめて自分の思いどおりにする傾向が強い。

 私なんて何度この手に引っ掛かったことやら。

 あ、フィニメモもそうだ!


『莉那のナチュラル巻き込みと良い勝負だ』

「ひどい! そんなことしてないし!」


 してないったら、してません!


『ま、いいや。あと、キースの妹だけど、あの子、年齢の近い友だちがいないみたいなんだよね』

「そ、そうなの?」

『だからなのか、なんか妙に懐かれてて』


 いやそれ、そういう(たぐい)のものではないと思うけど?


『あ、キースの一族、えり好みが激しくて有名だからな』


 一族郎党、ダメダメなのか!


「……よくそんなので大丈夫よね」

『ま、仕方ないよ。かなり特殊だから。好かれてる時点で誇っていいからね』


 うーん? よく分からない。


「キースは私と妹ちゃんとまとめて監視したいらしいから、自然に一緒に行動することが多くなると思うよ」

『あー、やっぱりそういう方向になるのか』


 予測していたのか! さすがは腹黒くんだ。


『あ、動画だけど、一本だけアップしておいたから』

「そうなのね。見ておく!」


 楓真との通話を終えて、すぐに動画をチェックしたのだけど。


 え……っと?

 数時間前にアップされたばかりなのに、すでに一万回再生されている……だと?

 な、なにをアップしたのよ、楓真っ!


 なになに、シリーズ名が『フィニメモやらかし犯』。

 って、楓真! なにこれ、ひどくないっ?


 タイトルは【フィニメモ】やらかし犯のやらかしの日常・その一【ユニクエ】とある。

 ユニクエとはなんぞ?


 概要欄は、と。


 てっきり最初からかと思ったら、どうやらキースにユニーク・クエストが発生したところからのようだ。ユニクエとは、ユニーク・クエストの略なのか。勝手に略語を作るな、楓真!


 ……動画を見てみよう。


 タイトルは新規で作ったようで、世界樹をバックにしていて、妙にかわいくてしかもキラキラしている。

 楓真って実はこういうかわいいものが好きなのよね。


 楓真……フーマはリアル事情で正式サービスのプレイが遅れること、その代わりに実の姉──要するに私──がプレイ動画を提供してくれて、それをチョイスして配信することなどの説明が入った。


 それから先は楓真がいいように加工をしてくれていて、とても分かりやすくまとまっていた。


 これを先にあげたのは、キースと私を直接、間接にかかわらず、妨害、嫌がらせをした場合、クエストの進行妨害と判定して、ペナルティ、重い妨害の場合はBANされるってことを広めたかったからのようだ。

 さすが腹黒の楓真。


 で、なんでこれが一万回再生されてるの?


 コメント欄にヒントがあるかもと思って新着順に見ているのだけど、コメント欄がカオス。

 なんかよくわかんないけど言い争ってる勢、キース好き勢、私とキースのやらかしに対しての冷静な考察、かと思ったら、妙に熱い考察、なんでもいいから叩きたい勢が入り乱れていて、よく分からない。

 いったいこの動画になにが。


 コメントを読んでいたら眠れなくなりそうだったので、読むのを止めて寝ることにした。

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