第四十四話*《三日目》濃すぎるメンツ
結論としては、エルフは青、黄、緑系統と選べるようだ。
青と黄色を混ぜたら緑になるからという理由らしい。
「初っ端からやらかしって……」
そんなの知るわけないですか、色が決まっているなんて。
「それで?」
「マリーよ、マリー!」
「おまえ、名前もまんまかよっ!」
「うっかりリアルの名前を呼ばれても、違和感がないものを選んだら自然とこうなったのですわっ!」
私もリアルの名前に近いから、あんまり人のことは言えないけど、キースの妹ちゃんはマリーに近い名前なのか。
「お兄さまは」
「キース」
「ぷはっ! ぜんっぜん! 掠ってもないっ!」
「初めてやったMMOで自動で付けられた名前をずっと継承して使ってるだけだ。特に意味も由来もないっ!」
ドヤァとした顔で主張されましても。
「それで、あの?」
マリーはキースの影になっている私に前から気がついていたようなんだけど、色々とツッコんだりツッコまれたりして話題を振る機会を失っていたような、なんとも遠慮がちに私に視線を向けてきた。
「やらかし魔」
「まぁ! なんて奇抜なお名前」
「だぁっ! 違います、違いますっ! リィナリティ、長いのでリィナと呼んでください!」
なんで初対面の人に全力で否定して自己紹介をしなくてはならない状況に。
すべてはキースが悪い!
「報復しないでくれますか?」
「事実を述べたまで」
こいつ、絶対になにかに対して報復している!
まさか……?
「フーマから連絡ありました?」
「いや?」
違った!
「なんだ?」
「……いえ、ナンデモゴザイマセン、おほほほ」
そのうち知られるだろうけど、今、知らないのならよし!
未来は未来が来たときに考える!
「それで、だ。ひ……違った、マリーはなにに転職したんだ?」
ひ? マリーちゃんのリアルネームは「ひ」から始まるの?
……ま、まあ、聞かなかったことにしよう。
それより、さっきからマリーの装備が気になっていたのだ。
マリーの見た目はそれはそれは麗しいとしか表現ができないくらいの美少女っぷりなうえに、オオカミと言っていたとおり、頭の上に三角耳がピンと立ち、ふさふさの尻尾がゆらゆらと揺れている。
うう、触ってみたい……!
ベースはそんな感じなのだけど、防具は革と金属らしきものでできていて、全身は覆っていないけど、主要な場所をカバーされたがっちりとしたもの。さらには背中には亀の甲羅のような……あれは盾?
「んー、簡単に言えば、タンク?」
「おまっ! なんでよりによって」
「リアルでは常に護られる立場だから、ゲームでは護る側になってみようかなって」
マリーがしゃべると耳がピコピコして、尻尾がゆらゆら揺れる。
私はまるで猫じゃらしを前にした猫のように尻尾から目が離せない。
うー、いきなり触ったら、いくら相手が女の子でもセクハラだよねぇ?
でも、あのゆらゆらするもふもふに触りたい……!
そうだ!
「うにゃー!」
「っ!」
キースが驚いていたけど、そんなことよりもふもふ尻尾!
素早くマリーの後ろにいき、尻尾に触れてみた。
「う……わぁ! もっふもふ!」
「っ! なっ、なんですのっ?」
「リィナ、アウト!」
アウトと言われても、今、私は……。
「猫なのにゃ!」
「猫になった振りをして、誤魔化すなっ!」
「にゃ-」
「まぁ、かわいらしい猫ちゃんですわ」
マリーも乗ってくれている。
「尻尾もいいですけど、耳も触り心地がよろしいのですよ?」
お! 触る許可を得たっ!
私は立ち上がり……そして、気がついた。
「マリーちゃん、背が高い。……ですにゃ」
「ふふっ。無駄に高いのですわっ!」
私より少しだけど高い。
撫で撫でできないわけではないけど、腕を伸ばさないと届かない。
目一杯、腕を伸ばして耳を撫でさせてもらった。
「う……わぁ! ふわっふわ! 髪の毛もふわふわにゃぁ」
なにこれ、素敵。
ぜひともうちの子に……。
よし、フレンド登録、と。
マリーはいきなり私がフレンド申請をしたからか、小さく「まぁ!」と言っていたけど、すぐに承諾してくれたようだ。
『マリーとフレンドになりました』
とシステムから通知が来た。
「あの、リィナリティさんのこと、お姉さまと呼んでもよろしいですか?」
「お、おねーさまっ?」
マリーは私にそう聞いた後、なぜだかキースに視線を向けていた。
キースは今にも射殺さんとばかりの鋭い視線で私たちを見ていたけど、マリーの視線に表情はそのままで大きくうなずいていた。
うん、家族の意思疎通は分からん!
「ふふっ、わたくし、こんな素敵なお姉さまができて、うれしいですわ」
……………………。
な、なんか今、外堀を埋められたような気がしたけど、気のせいよね?
気のせいにしよう、うん。
「そ、それで、護衛のお二人のお名前は」
「自分は……伊勢でござる」
ござるさんの名前は伊勢で、一人称が自分。
そしてようやく姿を現したのだけど、渋柿色の上下に同じ色の頭巾を被っている。
頭巾をよく見ると、左右二カ所から丸い耳がでていて、短い尻尾がついてる。なんの動物だろう。
そして、ずっとマリーの後ろでひっそりと見守っている……どう見ても、侍!
侍なんだけど、こちらも丸い耳に短い尻尾。
「拙者、甲斐と申す。よろしくお願いします」
甲斐と名乗った拙者侍は、私に向かって丁寧に頭を下げてきた。
「自分ら二人、夫婦でござる」
「ふぁっ?」
なんか、爆弾落とされた!
そ、それにしても、濃いよ、濃すぎるよ!
「伊勢さんと、甲斐さん……と」
伊勢にフレンド申請を送り、ゼロコンマ一秒くらいの高速さで承諾が返ってきて、甲斐に送っても、速攻で返ってきた。
それから忘れないうちに三人に洗浄屋の入場許可を出しておく。
そ、それにしても。
「キースさん、リアルではなかなか濃い生活を送っているようですね」
「なにか誤解しているようだが」
「?」
「オレとマリーは家が別々だからな」
「……へっ? ど、どういう?」
え、実はご両親が離婚してとかなの?
それにしても、裕福そうなんですけど。
「一人一部屋の感覚で、一人一軒だ」
「お、思ってたのと違うし、スケールも違った!」
そんなの、初めて聞いたよ!
「というか、ならなんでフーマと同じ学校?」
「それ、よく聞かれるんだが、高校の教育方針が気に入ったからだ」
「は、はぁ……」
なんというか、お金持ちの発想って分かんない。
「……あれ? じゃあ、キースさん、相当頭がよい?」
「かもな」
ま、まあ、リアルの話はこれくらいにして、と。
「えと。村に帰りますか」
「そうだな。思ったより時間が経ってる。明日もあるし、洗浄屋に帰ってこいつらに説明したら、ログアウトするか」
行きよりも帰りはとてもにぎやかになった。
キースは先ほどまではフードを外していたのに、気がついたらまた被っていた。相当、女性プレイヤーにトラウマがあるようだ。
「それにしてもお姉さま」
「ん?」
「お兄さまを見ても、きゃーとか言わないのですね」
「あー? まぁ、確かに見た目はいい男かもだけど、野菜相手に本気で切れるし、うちのNPC相手に本気のケンカをふっかけるし、なんというか、残念?」
「まぁ! お兄さまったらもう本性をお見せになったのね! よほどお姉さまのこと、信頼しているのですわ」
なるほど、キースは猫をかぶる、と。
「あのな、マリー。それは不可抗力で」
「不可抗力なんだ。野菜相手に切れたり、ウーヌスにケンカを売ってたのは?」
「オレが切れるようなことをした、あいつらが悪い!」
「責任転嫁すぎませんかぁ?」
ほんとにもう、大人げない。
「ふふっ、ほんと、おふたり、お似合いですわ」
「え、マリーさまっ?」
マリーとは並んで歩いていたのだけど、気がついたら後ろを歩いていたキースがすたすたと近寄ってきたかと思うと、腕を掴まれて、引き寄せられた。
「リィナ、マリーを撫でるくらいなら、オレを撫でろ」
「……はいっ?」
「獣人がいいというのなら、このキャラをリセットして一から」
「わーっ! なに言ってるのっ!」
「男の嫉妬は醜いですわよ、お兄さまっ」
「マリーちゃん、煽らないでぇぇぇ」
フードを被っているから顔は見えないのだけど、明らかにキースは殺気を放っている。
怖いです、怖いから!
ほんと、このゲーム、PKできなくてよかった……!
「リィナ、マリーを殺されたくないのなら、手を繋げ」
「へっ?」
「わたくしを理由にするなんて、ヘタレすぎませんこと?」
煽るな、煽るな。
「ほら、早く」
キースは半ば強要するように私の手を取ると、指を絡めて外れないように手を繋がれた。




