第四十話*《三日目》キースに説教(?)される
あれ? なんの話をしていたんだっけ?
「話がそれてますけど」
「あぁ。まぁ、オレはリィナを見ていて楽しいから、これから先のやらかしに期待をしているんだ」
「やらかしに期待……。大変に奇特な人ですね」
「なんだが。さっきの話に戻るが、フィニメモはゲームだ。そしてVRだからイコール現実と錯覚するヤツも中にはいる。そして、このゲーム内で第二の人生を始めてしまうヤツもいる」
「第二の人生……」
「そういうヤツはリアルに不満があるが、ゲーム内ではちやほやされたり、あるいは廃人プレイをして高レベルでトッププレイヤーともてはやされていい気になっている」
そういう人はどんなゲームにでもいる。
あるいはリアルの鬱憤を晴らすために弱い人に当たり散らしたり、妨害したり。
「クイさんたちは、そんなヤツらにリィナが目を付けられないようにと警戒してくれてるんだ」
「……なるほど?」
「本当なら、みんなで楽しくできるのが一番なんだが、どんな世界にも嫉妬に狂うヤツってのはいる」
「あの、私、だれかから嫉妬されるような存在なのですか?」
「そりゃそうだろう。なんたってβテストでは存在は明らかだったけど実証できなかったレア職のさらに超レアを引き当てただろう? それだけで嫉妬の対象になる」
「そ、そうですか」
「さらには、洗浄屋のオーナーでスタート時点で拠点を持っているんだぞ? 嫉妬されないわけがない」
ぅぅぅ、そんな大事だったのね。
「自分で言うのもアレだが、オレという後見人まで手に入れたんだ、女性プレイヤーから妬まれる」
「……シールの件で痛いほど分かりましたです、はい」
「まぁ、それに関してはオレが迂闊だったと反省している」
そう言って、キースは頭を下げてきた。
私はかなり慌てた。
「キースさん! 頭を上げてくださいっ!」
「あなたはこんなオレを許してくれるのか?」
「許すもなにも、きっかけはキースさんだったかもだけど、今回の件がなくても、私が洗濯屋を引き当てた以上、遅かれ早かれこんなことは起こってた、でしょう?」
「まぁ、そうだが」
「だから、いち早く教えてもらえたってことで!」
「……前向きだな」
「そうでもないよ? でも、フィニメモは楽しんだもんが勝ちっ! そう思いません?」
「まぁ、そうだな」
キースは苦笑をしていたけど、いや、だからですね!
……なんというか、ほんと、この人、困った人だわ。
これを無意識でやっているのなら、そりゃあ女性がきゃあきゃあ言うわ。
楓真で耐性があるとはいえ、やはり家族と他人とでは違うのですよ。
「それで、だ」
「はい」
「おまえ、ほっといたらなにしでかすか分からないから、外に出るときは必ずオレと出ること」
「えぇ? ……そうしたらキースさん、やりたいこともできないですよね?」
「やりたいことは、今はとにかく生産をやってみたいんだ」
「フィニメモは生産も楽しいとは言いますけど」
「楓真……フーマを置いてレベル上げをしても構わないんだが」
「だが?」
「非常に遺憾ながら、これくらいのレベルからソロだと厳しくてな」
「…………な、なるほど?」
「というのは言い訳だ」
いや、そんなキリッとした顔で言わなくても。
「今も動画は撮ってるんだろう?」
「ログイン直後からずっと」
「……楓真もチェックが大変だな」
「そうねぇ。でも、私にはどこが必要でどこが不要か分からないし、やらかしも分からないから、まぁ、丸投げ?」
「くっ、言えてる」
キースはお腹を抱えて笑っている。
そんなに笑わなくても。
だけど、キースのその様子は自然体で、知り合ってそんなに経ってないのに私の前ではリラックスしてくれているというのが分かって、うれしい。
飾らずにありのままの姿を見せてくれる。
だから私も自然と笑顔になる。
「リィナの笑顔、かわいいな」
「ぅぇっ?」
そっ、そんな笑顔で言われると、むちゃくちゃ恥ずかしいのですがっ!
「くくっ、真っ赤になって、おもしれー」
どうやら、からかって遊んでいただけのようだ。
「もーっ!」
「いや、ほんと、かわいいって」
「キースさんに言われても、うれしくないですっ!」
「あれ、オレ、嫌われた?」
「からかって遊ぶような人、好きではないですっ!」
「からかってないんだけどなぁ」
ったく、これだからもてる男はっ!
「話はこれだけですかっ?」
つい、ケンカ腰になってしまう。
「楓真が見るかどうかは分からないけど」
「え、送りますよ?」
「いや、あいつのことだから、重要そうなところしか見ないだろ」
「そう、なの?」
「言っただろう? あいつとオレは似てるって。だからだいたい、どんな姿勢で動画を見てるのか分かる」
「ふーん?」
そんなものなの?
「ま、見ても見なくてもいいけど。フーマ、おまえがフィニメモをやるの、オレは待ってるからな。それまで、レベル上げはしないでおく」
それは、なんてことない言葉なのだけど。
どうしてだろう、愛の告白っぽく聞こえるのは。
「なるほど……。これがいわゆる『尊い回』ってヤツか」
「おまっ!」
「うんうん、フーマは姉がこういうのもなんだけど、いい男ですからね。男のキースさんが好きになるのも分かりますよ」
「あのな」
「キースさん、キースさん」
「なんだ?」
「図星だからですか? 急に機嫌を悪くして」
「……好きにすればいい」
「あ、別に私、腐な人ではないですからね!」
「だれに言ってるんだよ」
「え? だれでしょうね?」
キースの機嫌があからさまに悪くなってちょっと怖かったけど、茶化してみた。
「とりあえず、さっきのキースさんの『待ってるからな』だけ編集で切り取って!」
「どうしてそんな、火に油を注ぐような」
「そこだけだったら、だれに向けて言ったのか分からないですよね? あれ、やだキースさんったら。なにか誤解をされてまして?」
「……はめやがって」
「ふふっ」
キースはからかうと面白い、と。
ただし、加減に注意。
この辺にしておこう。
「……とりあえず、ですね」
「なんだ」
「私ではやらかしたかしてないかの判断が付かないので、独り立ちできるまではその、面倒を見てもらってもいいですか?」
「オレはそんなつもりはないからな」
「……えっ?」
「なんだ? ある程度まで面倒をみたら、はい、さよなら、なのか? なんでオレと一緒に狩りに行くという発想がない?」
キースに言われた言葉に、しばし固まった。
え……っと?
「あの?」
「きちんと言わないと分からないか?」
ど、ドウイウコトデスカ?
「……分かってないようだから言うが、フーマが戻ってくるまでにレベルを上げて、フーマも入れて狩りに行こうぜってことだよ」
「……な、なるほど?」
その発想はなぜかなかった!
「なんでおまえ、考えてなかった、びっくり! な表情をしてるんだよ」
「やー、なんと申せばよいのでしょうか」
だって、フーマとキースだよ?
なんというの? いいの?
「あの、私、見知らぬ女性プレイヤーに刺されたりしません?」
「は?」
「あ、PKはできなかったですよね、フィニメモ」
「いや、そうではなくてだな」
「たくさんの人がいるところでいきなり罵声を浴びせられたり、粘着質なゲーム内メールが来たり」
「どんだけ負の発想が豊かなんだ」
「いやまぁ、他のゲームで聞いた話でして」
「ったく、ガキよりタチが悪いな」
後は……受け取ったが最後、重量オーバーで動けなくなる嫌がらせメールとか。
まぁ、これは送る側にもデメリットがあるのよね。
それだけの重量のあるものを送るとなると、かなりの数が必要になる。
手に入りやすく、それでいて相手にダメージを与えられるもの。
ハッキリ言って、あまりない。
むしろ、そんなものを送ってきた相手のことを憐れと思う。
「そのあたりは、フーマが動画でなんらかのアクションを起こすと思うぞ」
「……そ、そうね。フーマ、そういうのは用意周到だし」
とはいえ、陰口をたたかれることは想像に難くない。
「ちなみに、逃げようと思っても無理なのは分かってるよな?」
「あーっと? え、あ、そ、そうでした!」
「おまえな……」
「いやいや、そんな、私におかまいなく」
「それは無理」
そう言って、キースは立ち上がった。
「覚悟しておけよ?」
ニヤッと笑うと、キースはトレイにふたり分の茶器を乗せて、部屋を出ていった。
え……っと?
あの、私はなにを覚悟しなければならないのでしょうか?
キース、リィナをロックオンっ☆
くれぐれもBANされないように、キースくん!




