第三十九話*《三日目》料理に特殊効果がついちゃった?
フィニメモ内で夕飯を食べた。
クイさんに教わって自分が作ったジャガイモとトマトのチーズ焼きはとても美味しかった。
キースが作ったのと食べ比べたけど、同じように作ったので、味に違いはない。
のだけど。
「おい、リィナ」
「はい、なんでしょうか」
「オレが作ったものとリィナが作ったものを鑑定してみたんだが」
「鑑定?」
そうだ、せっかく「鑑定」スキルを覚えたのだから、使ってみよう!
早速、「鑑定」を使ってみた。
まずは私のから。
「ジャガイモとトマトのチーズ焼き *」と出た。
説明は、「オーブンでじっくり焼いた美味しい料理。食べると少しの間、体力の回復量が増えます、やったNe☆」とある。
このテキスト、だれが書いたの? それともこれは自動生成? にしても、ベースのテキストはだれかが書いているはず。それにしても、「やったNe☆」ってなにっ? なんで「ね!」ではなくて「Ne☆」なのか。軽すぎない?
駄目だ、突っ込んだら負けだわ、これ。
……さて、気を取り直して。
次はキースが作ったのを「鑑定」と。
「ジャガイモとトマトのチーズ焼き」。
あれ? *が付いてない?
説明を見てみよう。
「オーブンでじっくり焼いた美味しい料理。」
以上!
「え?」
なにかがおかしい。
「リィナ、なにやった?」
「え、またもやこれ、やらかし案件?」
「どう見てもそうだろうが! なんで体力の回復量が増えるんだよ!」
「いやぁ……、そう言われましても」
私にも分からん。
「そういえば、ジャガイモを洗うとき、なんかスキルを使っていたよな?」
「……言われてみれば? ジャガイモが一瞬、光ったような気がしたんだけど」
「おまっ! 絶対にそれだっ!」
はい、今回はばっちり私が犯人ですNe☆
なるほど、こういうときに「Ne☆」を使うのね。
「だから言っただろうが! やたらとスキルを使うなって!」
「ま、まぁまぁ、落ち着いて? 今回はここだけの話だったから、問題ないっ!」
ドヤァ、という表情をキースに返したけれど、あれ、なんで全員があきれ顔なの?
「ナチュラルやらかし犯」
「野放し危険」
「これはあたしの監督不行き届きかねぇ」
上からトレース、ドゥオ、クイさん。
あっれぇ? これってマズい……の?
「キースさんや。この無自覚を護衛って……。苦労掛けるな」
「いや、そこは問題ない。もう少し本人が自覚を持ってくれれば、だけどな」
トレースとキース、ひどいっ!
「仕方がないね、リィナが一人前になるまで、あたしらで面倒をみるしかないね」
【この先、システムに登録された者としかパーティが組めなくなりました】
というあやしげなメッセージが表示されたのですが。
システムに登録って、そもそもなんですか?
「あ、あのぉ」
今、表示されたメッセージのことを伝えると、みんなしてお腹を抱えて笑い出した。
ちょっと、ひどくないっ?
「システムにまで心配されるって、どんだけやらかしてるんだって話だ」
「システムというか、運営? 手が付けられないから監視ついちゃったか」
「え、そんなに私、問題児なの?」
私の問いに、私以外の全員がため息をついた。
オルとシェリまで一緒にため息を吐いてるって、なんで、なんで?
「本人が一番分かってない」
「キース、悪いんだけど、リィナに説明してくれないかい?」
「……分かった」
キースが哀れみの表情で私の肩を叩いた。
「別室でじっくりと説明しようか?」
「な、なんで別室っ?」
というかだ、所有者の私よりキースのほうがこの建物、把握してるんじゃないの? おかしい。
クイさんにふたり分のお茶が入った器を乗せたトレイを渡されて、みんなに見送られた。
もしかしなくても、説教部屋ですか?
……いや、それなら、お茶なんて渡されないはずだから、違うと思いたい!
別室でなんて言われたら、お説教をされるとしか思えないのだけど、でも、お茶を渡されたし……。
なんて、ぐるぐる考えているうちに目的の部屋についたようだ。
キースは扉を開けると、なぜか用心深く中を確認していた。
「あの」
「なんだ」
「なんで確認?」
「…………。もう忘れてるのか?」
「…………。あ!」
そういえば、閉じられた場所はどこかに繋がってる可能性があるから気をつけろって言われたばかりだった。すっかり忘れていましたです、はい。
「その顔は、忘れていたな?」
「えぇ、ご明察でございます」
あ、またあきれ顔をされた。
「……中は問題ないようなので、入るぞ」
キースが先に入って、私が後から入った。
中に入ると、ソファセットがあった。
「ここって」
「応接室だ」
「私よりキースさんの方が詳しいですね」
「建物の中を見てないのか?」
「見ましたよ? でも、案内をされたところだけですけど」
今思えば、どこか別の場所に繋がる可能性があったのだから、下手にうろうろしないで正解だったと思う。
「その様子だと、マップも見てない?」
「……マップ? え、建物の中のマップなんて」
「全部ではないが、ここのはあるぞ」
「ほほう? ……お、ほんとだ! マップがある!」
「建物に入らないと見られないようにはなっているようだ」
「そうですよね、建物は一般プレイヤーには見えないようにしてるのに、マップが見えたらおかしいですものね」
「そういうことだ」
ソファセットに向かい合わせに座り、それぞれの前に茶器を置いた。
キースは一口飲んだ後、口を開いた。
「まぁ、改めて場を変えてまで言うことではないが」
なら、なんで別室に呼んだのよ? と思ったけど、黙って続きを待った。
「別にオレはリィナの今のプレイスタイルを変えろとは言わないし、思ってない」
「……はぁ」
「フィニメモはゲームだ」
「そうですね」
「だから、リアルでは出来ないことができたり、体験することもある。それがVRゲームの醍醐味だと思っている」
続きを促すため、私は小さくうなずいた。
「ただ、VRはVRゆえにリアルすぎる」
そしてキースはここで大きなため息を吐いた。
「見るもの、感じるもの、それらはリアルと変わらない。変わらないがゆえ、いや、リアルと変わらないけれど『ゲーム』という非日常だからなのか……。時には現実よりも欲望が全面に出てきやすい」
キースはβテストからやってきているから、余計に思うことがあるのだろう。
「自分で言うのもなんだが、オレのこと、残念なヤツと思っているだろう?」
「ぅ?」
「正直に言っていいぞ」
「えーっと?」
色々と残念だと思うところがないわけではないけど、それってキースに期待と言えばいいのか分からないけど、私の中でのキース像と実物と差異があるから生じるわけで。
まぁ、残念だと思ってるけど、父を思えば……。
「ないですっ!」
キリッと返したのだけど、胡乱な表情を返された。
「返答にかなり時間がかかってるところを鑑みて、リィナもオレのことを残念だと思っていると判断した」
ぅぅ、これでも気を使ったのに!
「オレに気を使う必要はまったくないからな」
見透かされている!
「……話を戻そう。基本、オレは怠けたい。だから嫌なことはさっさと終わらせて、ゆっくりと怠ける」
時間は有限だものね、その気持ちは分かる。分かるけど、とっとと終わらせるにも能力が必要なのですよ!
「楓真とつるんでいるのも、あいつはオレに通じるものがあるし、なによりも気が合う」
楓真はこういうのもなんだけど、大変に外面がよい。
これだけ聞くと身内に対しては態度が悪いかのように聞こえるけど、身内にも大変に優しい。
ただ、その優しさは身内と他人とでは違う。
なんと表現すれば適切なのだろうか。
楓真の優しさは、身内と他人とでは温度が違うといえば分かりやすいのかもしれない。
たとえばここに凍る寸前の水があるとする。
他人からこの水を温めてほしいと言われたら、楓真は水を温める手伝いをするだろう。凍りそうな水ということは、ほぼゼロ度。それが楓真が手伝ったことで五度になったとする。
凍りそうなほど冷たかった水だったが、少し温度が上がっただけで凍ることから免れる。他人はその結果を見て、満足はしていないかもだけど、感謝するだろう。
さて、同じように凍りそうな水を温めてほしいと身内に言われたら?
楓真は全力で温めて、相手が満足するまで、自分の身を削ってでも温める。
だれだってそうかもしれないけど、楓真の場合は身内に対しての献身が桁違いなのだ。
ということは?
「キースさんって外面がいいの?」
「いや? 他人なんてどうでもいいし」
「……その割には、私に対しては」
「それは楓真の姉というのを差し引いても、オレが気に入ったからだ」
「はぁ……」
私、キースが気に入るようなこと……。
「まさか様々なやらかし……?」
「まぁ、そうだな。見ていて面白い」
面白い……。
「私は見世物ではありませんっ!」
「オレも見せびらかすつもりはない。オレなら、檻に閉じ込めて、一人で愛でる」
「愛でるって……」




