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ゲームのレア職業を当てましたが、「洗濯屋」ってなにをするんですか?  作者: 倉永さな
《三日目》土曜日

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第三十二話*《三日目》ようやく畑に来たのだけど

 本日は土曜日の朝九時だ。

 正式サービス開始後の初めての土曜日。仕事の人、学校の人もいるだろうけど、お休みの人が多い。


 朝ごはんをしっかり食べたし、準備も万端だ。

 さぁ、ログイン!


 ……と思ってしたのですよ。

 音楽が流れて、フィニメモの歴史の文字が流れて──次は視界が暗転して、と思ったのですよ。

 そうしたらですね?


『ログイン待ち:五百人』


 という文字が目の前に現れたではないですか。


 えっ? ログイン待ちってなにっ?


 昔は鯖が今より貧弱だったり、回線も今ほど大量のデータが送れなかったり遅かったりしたときはログイン待ちがあったとは聞いたことがあるけど、今のご時世でこれが見られるとは思わなかった。

 だけどその数字は確実に減り……かと思ったら、いきなり増えたりとしたけれど、それほど待つことなく無事にログインできた。


 フィニメモ、な、なんて恐ろしい子!


 天井を確認して、それから階下へ。


 台所におもむけば、私以外、全員がいた。

 もちろん、この中にはキースもいた。


「おはようございまーっす」


 私の声に全員の視線が一斉にこちらに向いた。それから口々におはようと返してくれた。


「みんな、早いね」

「オレは今、ログインしたばかりだ」

「ログイン待ちが出て、びっくりしたんだけど!」

「βテストの初期もたまに出てたな」


 想定以上の人がログインしてきてるってこと?


「詳細は分からないが、フィニメモは最新技術を使って開発されているらしく、最新で最良とされている鯖やら回線の構成だとたまにさばききれなくなって待ちが発生するのだとか」

「へー」


 そんな話をしていたら、クイさんがお茶を持ってきてくれて、空いた席に置いてくれた。どうやら私の席はそこらしい。

 ……のだけど。


「あの、ここなの?」


 前はテーブルの長い部分だったはずだけど? それなのに今、お茶が置かれたのはいわゆるお誕生日席という場所だ。

 しかも椅子が他の人のと違って、ちょっとだけ豪華なのですが!


「そうだよ。そこはリィナの席」


 大変に恐縮なのですが、私の席だというのなら、座らせていただきましょう。

 私用にと用意された椅子は座面は黒い布張りで、背の部分は木でできている。座ってみると、とても座り心地がいい。


「うん、とてもいい座り心地」

「それはよかった」


 クイさんが淹れたお茶を飲んで、一息つく。


「それで、今日の予定なんだけど」

「はい」

「午前中はウーヌスとトレース、それからキースと一緒に畑に行って、野菜を狩って来て欲しい」

「あれ、他の人は?」

「店があるからね」

「ねんじゅーむきゅーなのだよ!」


 どれだけの需要があるのかは分からないけど、洗浄屋は忙しいようだ。


 私がお茶を飲んでいる間に、ウーヌスとトレースは戦闘着に着替えてきたようだ。


「準備はいいかい?」

「……た、たぶん?」


 なにぶん、村からはまだ数歩しか出られていない身だ。なにが必要なのかも分からない。


「リィナは危ないと思ったら、下手に手を出さないようにね」

「はぁい」


 不服だけど、下手に手を出すと迷惑になりかねないからね。


「あれ、オルはお店があるのは分かるけど、ラウもなの?」

『あたちは村から出られないでち』

「あら、そうなの?」

『うむ。なのであたちは店の手伝いをしてるでち』


 それなら、二人のために美味しい野菜を採って……いや、狩って? こなくちゃね。


 ということで、男たち三人とともに野菜を狩りに。

 北口からが畑に近いらしいので、そちらへと向かった。

 近づくにつれて、一日目のあの痛みが甦ってくるような錯覚に陥る。

 ちなみに、先頭は道を知ってるウーヌスが、その後ろに私とキースが並んで歩いていて、後ろからトレースがついてきている。


「あ、そうだ! キースさん」

「なんだ?」

「フィニメモの痛覚設定がおかしくて、むちゃくちゃ痛いのですよ」

「設定、いじったのか?」

「いえ、そんなことしてませんよ」

「……おかしいな」


 設定を直そうにも、痛覚設定がないのだ。


「設定にあったはずなんだが。…………。ないな」


 あれ、これは運営がやらかし案件?


「分かった、運営に不具合報告をしておく」


 そう言って、キースはすぐに運営に報告をあげているようだ。やることが早いな。


 それはそれほど時間が掛からなかったようで、北口にたどり着く前に終わっていた。


「報告しておいた。たぶん同じような事例は多そうだな」

「そうなんだ、ありがとうございます」

「あぁ、それと、事後報告になるが、あのシールも運営に送っておいた」

「あ……。ありがとうございます」


 すっかり忘れていたけど、そうだった、あのシールのせいで私は村から出られなかったのだ。


「運営ならば、あのシールの所有者や入手ルートまで調べられるはずだ」

「そんなことが出来るんですか?」

「それぞれのアイテムに裏側で所持者データを持っていて、なにか問題があるとそれを調べるというのはよくやってるようだぞ」

「そうなんだ」


 このゲームでは生体認証をしているからあり得ないと思うけど、そうではないゲームではアカウントハックなどで意図せずアイテムが流出したときなど、裏側のデータで確認が取れるようだ。

 フィニメモでもそのあたりは踏襲してるってことか。


「となると、私にシールを貼った犯人はすぐに分かるということですか!」

「……犯人もそこは分かっていると思うから、細工していなければだが」

「細工ってどうするの?」

「とっさには思いつかないが、手に取っただけでデータが記録されているとも思えないから、そのあたりを突いてくるかもしれないな」


 犯人がそこまで想定していたら、真の犯人探しは大変かもしれない。

 でも、そこまで手の込んだことをやったとは思えないのよね。


「ま、運営の調査待ち、だな」


 キースには悪いけど、期待しないでおく。


「それで、畑は?」

「北口から出て、少し歩いたところにありますよ」


 村から出るときは激しく緊張したけれど、あのシールがなくなったおかげなのか、とくに襲われることなく出ることが出来た。


 そして、ウーヌスの言葉のとおり、畑は村からそんなに離れていないところにあった。

 木の棒でぐるりと柵が作られていて、網がかかっていた。

 どこから入るのかと思っていたら、出入口は別に戸がつけられていた。

 ウーヌスが開けてくれて、中に入る。


「おお!」


 畑なんて、小学校の時に社会見学といって郊外に見に行って以来かも。

 うちは両親共に東京生まれの東京育ちだし、祖父母もそうだ。だからいわゆる田舎というやつがない。むしろ、祖父母の家のほうが同じ東京でも都会かもしれない。


「あぁ、うちの裏にあるのと似たようなものだな」

「えっ? キースさんのうちに畑があるのっ?」

「ある。たまにそこで取れた野菜が食卓に出てくる。なかなか美味いぞ」


 いいとこの坊ちゃんだと思ってたけど、違ってた?

 あ、でも! 食育の関係で自宅で野菜を育てている家庭があるなんて話を聞いたことがあるから、それなのかしら?


 なんだか微妙に規模が違うような気がしないでもないけど、家庭菜園的なものと思っておこう。


「手前が大人しめのキュウリですが、棘があるので気をつけてください」


 大人しめのキュウリ……。

 なんと言えばいいの?

 野菜って植物よね? 植物って動いたり、ましてや「大人しめ」なんて形容詞がつくような存在でしたか?


「その奥がトマトです。下手に近寄ると噛みつくので気をつけてください。トマトは毒を持っていないので、噛みつかれたら痛いだけですけどね」


 ちょ、ちょっと待って?

 毒を持った野菜ってなにっ? キノコあたり?

 いや、キノコは厳密に言えば野菜ではないけど!


「そして一番奥がジャガイモです。普段は土に隠れていますが、掘って芋が出てきたら即座にサングラスを取ってください。そうすると眩しくてなにも出来なくなりますから」


 ちょっ! サングラスをかけたジャガイモって!

 お、お願いだから腹筋が崩壊するようなことを言わないでっ!

 というかだ、なんで芋がサングラスっ?

 う、運営め、好き勝手しすぎだっ!

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