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ゲームのレア職業を当てましたが、「洗濯屋」ってなにをするんですか?  作者: 倉永さな
『洗濯屋』から次のステップへ

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第二百三十話*トニトはどこ?

 トニトから聞いたという住所に私たちはたどり着いたのだけど、ここから先は歩いてしかいけないとのことで、車を待たせて向かうことにした。


 そういえば藍野本家近くの公園に出掛けたことはあったけど、現実(リアル)でこうして出掛けるのって、もしかしなくても初めて……?


 そう思うと、私たちって普通とは違うんだなと悲しくなってきた。


 そんな私の心境を分かっているのか分かっていないのか、麻人さんは当たり前のように私の手をとり、手を繋いで歩いている。

 その(ぬく)もりに、普通でなくてもこうして大好きな相手の体温を感じて、幸せだと思えることのほうが大切なのではないか、なんて思ったら、どうでも良くなってきた。


 とそんなことを考えるだけの余裕が最初のうちはあったのだけど、だんだんと道なき道、いわゆる《けもの道》というヤツになってきて、半ば麻人さんにしがみつくカタチになってきた。


「予想よりひどいな」

「麻人さああん、本当にこっちで合ってるんですかぁ?」

「合っているはずだ」


 長袖長ズボンで来ていたからよかったけど、いつものワンピースだったら悲惨だった。


「ゲーム内よりひどいな」

「こういうのはゲームより現実がカコクです!」

「まあ、そうだな」


 ギャイギャイと言い合いながら枯れた草をかき分けて行くと、ようやく開けた場所にたどり着いた。

 のだけど、枯れ草の向こうに見えるのは、どう見ても放棄されてかなりの時間が経ったとしか思えないほど、荒れ果てた建物。

 窓ガラスは割れ、外壁はひびが入り、傾いている。どれだけ時間が経っているのか分からないほどだ。


「さて。どう見ても廃屋しかないな」

「そうですね。これって別荘……ナンですよね?」

「あぁ、別荘と書かれていた」

「別荘とは」


 先入観だとか固定概念ってものかもしれないけれど、どう見てもここは長い時間、放置されている建物にしか見えなかった。

 これを別荘として利用しているのだとすると、ずいぶんと退廃的な思考の持ち主ではないだろうか。


「要するに、だ。元別荘に監禁されている、と言うのが正しいのかもしれないな」

「ま、まあ、それなら大切なことをわざと抜かして伝えてきたということを横に置いておけば、間違ってはない……かもしれないかもしれません」

「その言いよどむ感じ、激しく同意する」


 麻人さんと顔を見合わせて、同じタイミングでため息を吐いた。

 うん、なんだかとっても夫婦っぽいぞ。


「にしても、この思っているより大きな廃墟からトニトを探すのは……」

「しかも日が暮れてきましたけど、どうしますか?」


 藍野の敷地から出たのはお昼を過ぎてからだったし、ここに来るまでかなり時間が掛かっている。

 まさかこんなに時間が掛かるとは思わなかったし、廃墟があるなんて考えてもなかった。


「車に戻ろう。家に戻って改めてここに来よう」


 ということで、薄暗くなっていく中、どうにか車が待っているところまで戻ることが出来て、無事に家にたどり着いた。


 夕飯を食べて、お風呂に入っていつもならフィニメモをするのだけど、私たちはまだログインが出来ない状態だ。

 心春さん曰《いわ》く、解消に向けて動いているのだけど、どうにも上手くいかないとのことだった。

 すぐにログイン出来るようになると思っていたのだけど、思った以上に長引いている。


「フィニメモも悩ましいところだが、トニトの件はどうしたものか」

「あそこに人がいる気配はなかったような気がしますけど、明日も行ってみますか?」

「うーむ。手がかりはあそこにしかない感じだよな。なんだが、また行って、結局は無駄足だった場合、(むな)しいよな」

「虚しいっていう問題ですか?」


 そもそも無防備に出掛けて行ったけれど、軽率だったのではないかと今さらながら気がついた。


「麻人さん、止めましょう。麻人さんに万が一があったら、困ります」

「なにかあれば、上総が止めに来ている」

「上総は前、麻人さんは視えないと言っていたような」

「……そういえば」

「だから止めましょう」


 つい、フィニメモ内のノリでいたけれど、ここは現実(リアル)だ。

 ゲームとは違って、命はひとつしかない。


「いのちだいじに ですよ」

「確かにそうだな」


 レトロゲームの「さくせん」を口にしたけれど、たぶん麻人さんには通じていない。

 それでもトニト探しはたぶん止めてくれたと思うから、いいとしよう。


「どのみち、フィニメモにログイン出来ないし、トニトも見つからないし、どうしましょうか」

「ヤルことは、ひとつ!」


 そう言って麻人さんは私をベッドに連れ込んだ。


     ◇


 ──ソウナリマスヨネ-……。


 麻人さんに好き放題された挙げ句、気絶するように寝ていた私は今、目が覚めた。

 ベッドから抜け出そうと思っても、抱きしめられていて身動きできない。


「おはよう、愛しの莉那」

「……オハヨウゴザイマス」


 朝から口からザラメがザラザラと(こぼ)れるほど甘いです。


「はぁ、かわいい」

「…………」


 なにか変なものでも食べたのでしょうか。

 通常運転と言えばそうなのだけど、甘さがいつも以上で、寝起きから胸焼けを起こしているのですが。

 しかも、締まりのない顔──(とろ)けた、と世間ではいうらしい──で私のことを見ているので、ハチミツまでトッピングされてしまった。

 寝起きからこの甘さは正直、辛い。


「あの」

「思ったより起きるのが早かったな。足りなかったか?」

「忘れているかもですけど、これでも私、病み上がりなんですよ」

「それならば余計にオレ以外のことは考えなくて済むように」

「もーっ! どこまで独占欲がっ!」


 危うくまたもや夜の二の舞になりそうになったので全力で止めた。


「他にやること、あるでしょう!」

「オレには莉那を可愛がり愛すること以外、なにもない」

「私はありますぅ!」


 麻人さんにだけ時間を費やすなんてことが出来ない私は、麻人さんの手をひたすら(かわ)してベッドからようやく抜け出せた。

 麻人さんは未練がましい視線を向けてきたけれど、こちらも諦めてベッドから出てきてくれた。


「今は……」


 時間を確認すると、朝にはかなり遅く、お昼にするには微妙に早い時間。

 とはいえ、たぶんお腹が空いて目が覚めたのもあり、ご飯が食べたい。

 なのだけど。


 自分でご飯を作っているのならともかく、作ってもらっている身としては、お腹が空いたから今すぐ食べたい! とは言いがたく。


 とりあえず。

 先に着替えをして……。その前にシャワーを……。


 案の定、麻人さんが無言で一緒にシャワーを浴びて、そこでもなんだか無言の攻防があって疲れたけれど、そんなことをしていたら本来のお昼の時間になって、美味しく食べることができた。




 なんというか、仕事をしていた頃は暇な時間が欲しい、なんてことを思っていたけれど、フィニメモをしていなかったらこんなに暇をもてあますなんて思ってもいなかった。

 今のところ衣食住の心配をしなくていいし、ご飯の準備も、掃除も洗濯も片付けもなにもしなくてよくて、いや、むしろなにもすることがないというか、してはならないというか。

 こういうのを飼い殺しって言うんだろうな……。


 とにもかくにも。

 早いところ、フィニメモにログインしたいです!

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