第二十三話*【キース視点】楓真の姉がとても気になって仕方がない
陸松楓真という男は、なかなか面白い。
楓真とは高校生からの付き合いだ。
知り合ったキッカケはというと、入学式でだった。あいつは新入生代表で挨拶をして、オレは在校生の代表だった。
オレも入学式でそういえば挨拶をしたなと思いつつ、懐かしく楓真を見ていた。
楓真は綺麗な顔をしていて、さらには入試での成績はトップだったうえに、運動も出来るという。
二つ下だというのが惜しいくらい、あいつはオレのライバルになりそうな素質を持っていた。
だから入学式が終わり、教室に入って諸連絡を受けたあとに帰ろうとしたところをつかまえた。
楓真は戸惑った表情をこちらに向けてきていたが、そんなのは構わない。
オレは無言で楓真の腕を捕まえると、そのまま引きずるようにして迎えの車に一緒に乗せ、家へと向かった。
オレの実家は無駄に金があるらしく、子ども一人に一軒ずつの家が与えられていた。兄の家は右隣で、妹の家は左隣だ。通常であれば一人一部屋なのだろうが、両親はそれと同じ感覚で家を一人一軒ということらしい。
そんな環境なので、望めばたいていの物は手に入った。
だからといって、オレはそれに甘えることなく、勉学に励んだし、スポーツも色々とやってきた。
元々の素質もあったのだろう、オレはたいていのことは上手くこなせた。そこは両親に感謝だ。
だからというわけではないが、ライバルといえるほどの存在と会ったことがなかった。
だが、この陸松楓真はオレと対等に──場合によってはそれ以上に──なる存在であると確信した。
だからオレは楓真を家へと呼んだのだ。
家に帰る途中の車の中で、平静さを取り戻した楓真は不思議そうな表情を浮かべてはいたものの、言いたいこと、聞きたいことははっきりと口にした。
「あなたは、生徒代表で挨拶をしてくれた……」
「さすがに分かるか」
「そんな人がなんで俺を?」
「新入生代表で挨拶をしたということは、入試でトップだったということだろう?」
オレが通っている高校は、私立ではなく公立である。
口さがないヤツらは実家が金をあることを理由に、なんで私立ではなく公立なのかと言っているが、学校の方針が気に入ったのと、オレの学力的に挑むに値すると思ったからだ。
もちろん、私立でもランクの高いところはいくらでもある。だが、ここに行きたいと思わせるものがなかったのだ。
中学は私立だったので、そのまま高校に上がることもできた。それをしなかったのは、なんだかぬるま湯に浸かっている気分になったからだ。
どうせなら新天地で。
そう思ったのは、こいつに会うためだったのではないか。
そんな馬鹿みたいな思いがあっただなんて、口が裂けても言えないのだが。
それはともかく。
楓真は最初は訝しんでいたが、話していくうちに共通点みたいなものが見えてきて、気がついたら意気投合していた、というわけだ。
打てば響くというヤツだろうか。
楓真はオレが思う以上の反応を返してくれて、面白かった。
それから、オレが高校を卒業するまではなにかにつれ、楓真を振り回していたかもしれない。
あいつも言うときは言う性格だったのでぶつかり合うことはあったが、仲違いするほどではなかった。
大学に進んでも交流は続き、楓真は別の大学へ進学したが、それでも途切れることはなかった。
就職も別々の会社ではあったが、共通の趣味があったのもあり、交流は途切れることはなかった。
そんな楓真には一つ上の姉がいるという話だった。ということは、オレの一つ下となる。
どうもその姉もなかなかの曲者らしいのだが、楓真の口からは聞くものの、会わせてはくれなかった。
聞いているとどうにもシスコン気味……どころではなくて重度で手に負えないシスコンで、オレに会わせると取られるとでも思っている節があった。
確かにオレは他人に興味が沸くことが少ない。
楓真は例外で、その姉もなぜだか話を聞く度にザワザワとした感情が湧き上がってきて仕方がない。
楓真もだが、オレもそれなりの歳なのもあり、女性とのお付き合いはしてきた。
だけど色んな女性と付き合ってきたが、心をざわめかすのは、会ったことがない楓真の姉だけだった。
それは、楓真というフィルターを通すからなのか、はたまた別の理由があるからなのか。
それを確かめようにも、楓真は会わせてくれない。
そう思っていたのだが。
前述のとおり、オレはあまり他人に関心を持つことは少ないので見逃していたのだが、どうも楓真の姉らしき人物が同じ会社に勤めているようなのだ。
そもそも陸松という苗字は珍しく、しかも楓真の一つ上ということはオレの一つ下となる。
さらにはその姉の名前が「リナ」であるという情報を合わせれば、どう考えても本人だろう。
まさかこんなことってあるのか? と思ったが、偶然にしては出来すぎのような気もする。
しかも楓真はオレの勤め先を知っているし、本気で会わせたくないのなら、あいつなら上手いこと言いくるめて他の会社に就職させるくらい出来そうだ。
それがなされてないということは、だ。
心配性な楓真がオレの目が届く会社を選んでいたとしたら?
それを聞くのはリスキーなので楓真には聞いてないが、あり得る話ではある。
となれば、所属している部署を調べてなにげなく見てくるのもあり、か。
というわけで、早速、行動に移してみた。
オレが勤めている会社はかなり規模が大きく、従業員も多い。しかし幸いなことに同じ建物で、階も上と下という関係であるし、楓真の姉は他部署とのやり取りが頻繁みたいなので、近くに行って見ていても不審がられることは少なそうだ。
座席表で席も確認しているが、部署によっては在宅率が高いところもある。絶望的なのはほぼ在宅で会社に来るのが稀な部署もあるから、そういうところではないと祈るしかない。
あまり不審がられない頻度で覗いてみようと思って行ってみると、運がいいことに本人がいた。
見た目は……。
こう言ったら本人は怒るかもだが、顔は整ってはいるが、楓真の姉とは思えない地味な見た目。
化粧のせいもあるのかもだが、社会人としての最低限しかしていないようだ。それはオレからしてみれば好感度が高い。
……まぁ、オレからの評価なんて本人は考えてもないだろうが。
服装も派手でもなく、清潔感があってオフィスに馴染んで本人に似合っているものを身につけている。自分というものが分かっている感じだ。
無難といえば、無難。
だけど、なんでだろうか。
内に秘めたなにかを感じさせるのは、楓真から色々と話を聞いていたからなのか。
それにしても、どうしてだろう。
もっと知りたいと思ってしまうし、オレのことを知って欲しいなんて思ってしまう。
この気持ちはなんだというのか。
その後、オレは第一印象のときに抱いた気持ちを再確認するために、それとはなしに楓真の姉のいる部署の横をさりげなく通って観察した。
あとからこの行動を思い出すと、明らかにストーカーだ。
逆のことをよくやられて不快な気持ちを抱くというのに、まさかオレがそんな忌み嫌っている行為をしてしまうとは。
しかし、言い訳じみているが言わせて欲しい。
なんというか、気になって仕方がない存在なのだ。
好きだとか、そういうのではなく──。
これは……恋、なのか?
そのことに気がつき、身体がカッと熱くなっただけではなく、耳までも熱い。
今まで異性に対してこんな気持ちになったことがなく、どうすればいいのか分からない。
これが同性であれば、楓真のときのように強引に誘えた。
しかし、楓真の姉は異性だし、ましてや楓真が実の姉なのに女神とかいうような人だ。
下手なことをして嫌われたら……。
そんなことを思うと、オレでもさすがに萎縮する。
……それよりも、だ。
こんなストーカーじみた行為を止めるのが先だ。
動向がものすごく気になるが、噂になるまえに止めてしまおう。
それからそしらぬ顔をして、楓真姉の情報を集めることにした。
するとどういうことか。
思っていた以上に彼女を狙っている男が多かった。
派手さはないが、それゆえに好意を抱く男が多いのだ。
うかうかしていたらオレ以外のヤツに盗られてしまう。
そんな焦燥感に駆られた。
しかし、だれ一人として告白までこぎ着けていないのは、予想以上にガードが固いからのようだ。
あとは、ちらちらと見え隠れする楓真の存在。
どうやら彼女は無意識のうちに弟の楓真と比較しているようなのだ。
あの楓真に勝とうと思ったら、生半可な男では太刀打ちできないだろう。
……不審がられないで近づくには、いったいどうすればよいのか。
悩んでいると、絶好の機会がやってきた。
楓真の海外勤務が決まったというのだ。
その間、不本意だけど姉を頼むと言われた。
楓真には悪いが、海外勤務が決まってくれたことに感謝した。
楓真はオレと彼女の会社が同じというのは分かっているようだが、オレの行動はバレていないようで、ホッとした。
会社では慎重にと思っていたのに、ゲーム内で見かけて、思わず声を掛けてしまった。
それが彼女に迷惑がかかる行為だったと知るのは、少し後のことになる。
これを見て、リアルでは思っている以上に慎重に事を運ばなくてはならないと気がついた。
恋は盲目とはよく言ったと、オレは大きなため息を吐き出した。
おまわr(ry




