第二百二十八話*とんでもない出来事
ここから先、ゲーム内とリアルと入り乱れるため、今までのように曜日ごとに章はまとめません。
また、サブタイトルでの区別もしません。
あらかじめご了承ください。
イロンの修理とついでにパワーアップさせるために素材と鍛冶師探しをすることになったのだけど、材料を探しながら修理が出来る人を見つけなければならないのか。
『先に材料を探すのがいいのかしら?』
『いや、先に鍛冶師を探すべきだろう』
『どうしてですか?』
『材料を先に探して見つけても、鍛冶師に依頼をしたときに足りないとなったとき、二度手間になるだろう?』
『あー……』
確かに、言われるとおりだ。
『それはごもっともなんですけど、鍛冶師に心当たりはありますか?』
ここでは顔が広いようなキースに聞いてみたけど、反応が思った以上に芳しくない。
『フーマなら……いや、たぶんあいつも知らないだろうな』
これは聞いて回るのが早いのかしら?
でもなぁ、うーん……。
それでは、クイさんたちなら知ってるかしら?
NPCネットワークなんてものがあるのかどうかは知らないけど、そういった人がいれば教えてくれるわよね?
それとも、ここはプレイヤーになるのかしら。
まずは洗浄屋に戻って、聞いてみよう。
◇
洗浄屋に戻ると、なんだか違和感。
空気がおかしいというか、重たい? いや、違う。
室内を充満している空気が……。
『なに、この熱さっ!』
しかも視界が──赤い。
これは、まさか……?
キースを見ると、眉間にシワが寄っている。そしてギュッと腕に力が入ってさらに密着したのが分かった。
『ここは──』
キースがなにか言おうとしたとき、好きなところに移転してくれる扉から警告音がした。
《推奨:ここから脱出することをオススメします》
『脱出っ?』
《強制:契約者たちの身の安全を考慮して、強制移動させます》
その音声とともに、私の視界はブラックアウトした。
◇
「っ!」
予告もなく画面は真っ暗、音も聞こえなくなった。
これはもしかしなくても、昔、たまにあったという回線の切断?
私は慌ててヘルメットを外して起き上がると、視界の端に麻人さんも同じように起き上がってきていたのが見えた。ゲーム内で見たときと同じように眉間にしわを寄せている。
「今のは」
口を開くと思っていたよりも口の中が乾ききっていて、若干しゃがれた声になってしまっていた。
「洗浄屋がなんらかの理由で燃えていた……な」
キースが言うとおり、洗浄屋は燃えていた。
それはとても信じられるものではない──というより、信じたくない!
「麻人さんっ! ログインし直して確認……」
私の言葉の途中で麻人さんは首を横に振った。
「莉那に言われる前にしようとしたけど、ログインできない」
「え?」
「どうも予期せぬトラブルが起こっているようだな」
ログインできない原因はいくつか考えられる。
その中で最悪なのはアカウントのBANだ。
でも、状況的にそれは考えられない。……たぶん。
それ以外だと何らかの原因でサーバーダウンしたとしか考えられない。
あとは切断される前に扉が私たちを飛ばした影響。
いつもであればフィニメモのワールド内のどこかに移動させられるのが、燃えたことで扉に不具合が生じて回線が切断、それで私たちだけログインできなくなったとか?
「心春さんに聞いてみる?」
「……そうだな。公式サイトにはいまのところなにも情報は出ていない……。ちょっと待て。公式の掲示板に書き込みがある」
「公式の?」
公式の掲示板、とは?
「莉那? まさか公式の掲示板を知らない……とか言わな……。いや、分かった。そうか、そうだったな。たしか、莉那が寝ていた間にゲームにログインしていなくても、公式サイトにログインすれば、ゲーム内の掲示板を読むだけではなくて、書き込めるようになったんだ」
あの、フィニメモの裏世界の浄化の旅をしている間にそんなものがリリースされていたのか。
この手のゲームは、情報の共有のためとか、質問をしたい人のために公式が掲示板を設けることがある。
ただし、すべてのゲームに対して公式が必ずしも用意しているわけではない。
ゲーム内容やプレイヤーの年齢層が低めの場合は荒れることが多く、パトロールが大変だからあえて最初から作らないということもある。
フィニメモのリリース当初は公式が用意したものはゲームにログインしなければ見られなくて面倒だなと思っていた。
これは当初から予定されていたモノだったのか、追加されたのか分からないけれど、ゲームにログインしなくても見られるようになったのは便利だ。
「……どうやら一部のプレイヤーが強制的に切断されているようだな」
「一部のプレイヤー?」
ということは、ゲーム自体はサービス継続中?
「では、心春さんは今、それに対応中で忙しいってことよね?」
「だろうな。……待つか」
じたばたしたところで仕方がないということで、ご飯を食べたり、もろもろの日常のことをすることにした。
そうこうしていると公式からこの件についての中間報告があった。
原因は調査中ではあるのだけど、始まりの村である「世界樹の村」でなんらかの不具合が起こり、一部のプレイヤーが強制切断されて、その影響でその人たちが再ログインができない状況になっているとのことだった。
「なんらかの不具合って」
「洗浄屋が燃えていたことと関連がありそうだな。まだ原因が掴めていないことを考えたら、心春にメッセージを送っておいた方がよさそうだな」
私たちはすることがなくてだらだらとティータイムとしゃれこんで(?)いたのだけど、麻人さんはすぐに私と心春さんの三人のグループにメッセージを送った。
するとすぐに心春さんからグループ通話が。
『洗浄屋が燃えていたっていうけど、ふたりは無事?』
「はい。強制ログアウトさせられたおかげでどうにか」
「無事でなければ、今、こうして連絡できていないだろう」
『そ、そうね』
麻人さん、とってもトゲのある言い方ですね。
もう少しこう、オブラードに包むとか、むしろ言わなくてもいいのでは……。
「こちらが知っている情報は洗浄屋が燃えていた、ということだけだ。あの建物や近隣にはNPCとプレイヤーもいるはずだが、状況を把握しているか?」
少しの沈黙の後、心春さんはため息を吐いた。
『今、運営で分かっているのは、村長の屋敷に火が付けられた、ということだけなの』
「村長の……屋敷?」
え? 洗浄屋ではなくて?
「村長の屋敷にか?」
『えぇ。例の赤の魔術師の目撃情報があるようなのよ』
証拠としては弱いような気がするけど、あいつだったらやりかねない。
……先入観を持ちすぎ?
でも、やってないとも言えないのよね。
『まず、私たち運営は強制切断された人たちが一刻も早くログインできるように動いているわ』
「システムがなんらかの異常を知ってそういう措置を取った可能性は?」
『……あり得るわね』
「そうであれば、強制切断された人たちがログイン出来るようにするのは、その原因を取り除いてからにしないとまずくないか?」
『そう……ね』
通常であれば、プログラムされた以外の行動が成されるのはバグであるのだけど、フィニメモはなんといっても勝手にプログラムを書き換えて洗濯屋なんて意味不明な職業を作ってしまうほどだ。
私たち人間に害があると判断して強制切断をしたのだろうから、原因を取り除かないとログインできないと思うのよね。
……彼ら?が人間に友好的だという前提で考えて、だけど。
「心春、頼みがある」
『なんでしょうか』
「ベルム血盟の盟主であるトニトのリアルの連絡先を知っていると思うんだが、運営からオレの連絡先を伝えてほしい」
「麻人さんっ?」
「ゲーム内メールに何度か会って話したいと送っているのだが、どうやらログインしてないようなんだ。普段なら仕方がないと諦める。だが、心春も知っていると思うが、ゲーム内だけではなく、ゲーム外でも争いが起こっているようだから、少しその、仲裁ではないんだが……」
麻人さんはそこで口籠もってしまった。珍しい。
『本来であれば、ゲーム内でのプレイヤー同士の揉め事には運営は介入しません』
Deathよねぇ……。
『ですが、今回の件は一部のプレイヤーだけの話ではなくなってきているため、どこかで介入しなければならないのでは、と運営内でも話が出ているほど、大規模……というより、フィニメモ内全域に波及しています』
「そんなに……なんですか?」
『はい。毎日、専門班がフィニメモのワールド内を見回りしているのですが、ものの見事にどこの地域にもいて、ご丁寧に妨害してくれやがるのですよ!』
あ、心春さん、怒ってる。
『……あいつら全員、BANしてやろうか……』
「こ、心春、さん?」
『あら、なにか聞こえました?』
「あー……、い、いえ、なにも?」
心春さん、怖いっ!
『麻人さん、分かりました。ベルム血盟の盟主、トニトさんに一度、運営からメールでコンタクトを取ります』
「ありがとうございます」
『お礼は要らないわ。私たちも彼がしばらくログインをしていないことは把握していて、連絡を取ろうとしていたところだから』
運営ってそんなこともしてるの?
『ただ、今回は特例中の特例、特別措置よ』
「分かってる。対応を頼む」
『分かりました。進展があったら、また改めて連絡するわ』
そうして心春さんとの通話を終えた。




