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ゲームのレア職業を当てましたが、「洗濯屋」ってなにをするんですか?  作者: 倉永さな
《三十四日目》火曜日

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第二百二十三話*《三十四日目》「捕まえて食べるなのね!」

 ドゥォーンと音がして、マツカサウオが倒れた。

 よ、ようやく倒した?


 ……にしては、消えないのだけど。


『終わった?』

『……分からん。まだかもしれない』


 ピクリとも動かないマツカサウオをキースとふたりでジッと見つめていると……。


 内側からうっすらと光が見えてきた?


『ぅにゅ?』

『新作かっ!』

『あのー、キースさん……。その新作というのは?』

『それは後だ。マツカサウオから目を離すな』


 あからさまに誤魔化されたのだけど、キースがいうとおり、今はマツカサウオが優先だ。


 マツカサウオの内部から放たれている光が段々と強くなってきて、見ていられないほどになった。

 手のひらで目を覆って隙間から見ようとしたけれど、白く発光しすぎて見えない。しかも明るすぎて、目がおかしくなりそうだ。目を閉じて視線を逸らす。

 まばゆい光はほどなくしておさまった。


『な、なに……?』


 何度か瞬きをして、視界を調整した。

 まだ視界が白っぽいけれど、見えるようになってきた。


『マツカサウオの上になにかいるな』

『あれは……』


 マツカサウオは尻尾がピクピクしているものの、HPはすでにゼロであることは確認している。

 その上に誇らしげに乗っている人……いや、よく見ると上半身は人間で、下半身は魚。つまりは──。


『人魚?』

『人魚、だな』

『人魚なのね』


 戦闘中は見かけなかったような気がするのだけど、どこからかまたもやコルが現れた。


『人魚を捕まえて、食べるのね!』

『コル?』

『人魚!』


 コルが人魚に飛びつこうとしたので捕まえようとしたのだけど、私の反射神経では捕まえられなかった。

 けれど、さすがはキース。コルを捕まえてくれた。


『コル、人魚が怯えているだろうが』

『食べるのね!』

『リィナリティさん、あの人魚に『乾燥』をかけてください』


 オルドまでおかしなことを言い始めたぞ?


『リィナリティ、魚! 魚!』


 フェリスまで!


『ちょっと、どういうこと?』

『マツカサウオが人魚を隠していたのか、食べていたのか』

「──食べられていたの。助けてくれて、ありがとう」


 人魚はそれだけいうと、宙を舞って……。


『えっ?』


 地面に向かって落ち……た?


 いや、人魚が地面に近づくとそこが水面のようにさざなみ、ぽちゃんと音を立てて吸い込まれた。


『あぁ、逃げられたのね!』

『追いかけ──』

『無理!』


 ど、どうしちゃったのっ?


『あの、キースさん?』

『……よく分からないが、動物型のNPCが軒並みおかしくなっているな』

『でも、アイは……?』

『後ろでずっとよだれを垂らしてたぞ』


 なんと……!


『まぁ、それはともかく。このフロアはクリアしたみたいだな』


 ガゴンという音が遠くからしてきたと思ったら、フロア全体が揺れ始めた。


『疲れたな。洗浄屋に戻ろう』

『そう、ですね』


 ボスを倒した後はフロア全体が組変わるようで、ダンジョンから弾きだされるようだ。

 私たちはその前に『帰還』をした。


 『帰還』をして、洗浄屋に戻ったことが分かった後からは記憶がない。

 安心して、速攻で寝落ちしたのだろう。


 だから、本来であれば夢も見ないほど深い眠りに就いているはず、だった。


 のだけど。




 なぜか私は見覚えのある場所──洗浄屋の台所に立っていた。

 周りを見回しても、だれもいない。

 常に引っ付いているイロンもフェリスもいない。

 しかもキースもいない。


 なんだか初めて洗浄屋に来たときのようだった。


「…………?」


 周りにだれもいないのも不思議だけど、私まだフィニメモにログインしてたの?


 キョロキョロと見回すと、だれかが台所に入ってきた。


「あれ、クイさん?」


 いつものワンピースにエプロン姿のクイさんが無言で台所に入ってきて、私の前に立った。


「リィナリティ」

「クイ……さん……?」

「わたしは今、あなたがクイーンクェと名づけたNPCの見た目を借りています」

「見た目」

「あの難易度の高いダンジョンをクリアしてくださり、ありがとうございます」

「あー……、はい」


 ほんと、大変だった……。

 実はマツカサウオ戦では数度、死んでいる。

 HPを犠牲にする『乾燥・解』は少人数での長期戦には不向きだということは痛いほど分かった。

 分かったけれど、今後もそういう場面はいくらでもあるんだろうな……。


「人魚の解放も、ありがとうございます」

「あのぉ」

「なんでしょうか」

「人魚を見たNPCの反応がおかしかったのですけど」

「その件なのですが」

「はい」

「以前、この見た目のNPCがこの世界を浄化して回るのが役目だと伝えたと思いますが」

「──そんなことを言われましたけど」

「けど?」

「具体的には、なにをどうすれば?」


 そもそも浄化しろって言われても、漫然と適当な場所を浄化すればいいってわけではないだろうし、だからといって全部の場所をなんていわれても無理だ。


「あなたはまだ『心眼』を取得していませんね」

「……はい」

「『心眼』の取得を目指しながら、『浄化』も行ってください」

「えぇ?」

「なぜ、NPCたちが人魚を襲おうとしていたのか。あなたには見えていなかったのですね」


 むー?


「『心眼』があれば、見えていたと?」

「はい」


 むむ?

 『心眼』を持っているキースはなにも言っていなかったのだけど。


「とにかく、怪しいと感じた場所を『鑑定』して、『浄化』をしてくださいね!」


 急に口調が変わり、それだけ伝えられると──クイさんの見た目をしたなにかからぼふんと煙が出た。


「なにっ!」


 すぐに煙はおさまったのだけど……。

 煙から現れたのは、透明な緑色の羽が生えた、小さな……。


「虫?」

「どこをどう見ても妖精でしょうっ!」

「うーん……。二頭身の、かろうじて人間みたいな見た目だけど緑色の髪、緑色の服、緑色の羽。虫以外のなに?」

「だ・か・ら! 妖精!」


 私の中での妖精って、もっとこう、細くてきらきらしていて、こんな緑色ではなくて虹色に輝いていて……。


「とにかく! わたしの見た目はなんでもいいから! いーい? あなた、今からわたしと特訓するわよっ!」

「特訓?」

「そうよ。『心眼』獲得と、『浄化』の範囲を拡大させるためにつかいまくるの! 要するにあれよ、熟練度のアップよ!」


 スキルに熟練度があるとまことしやかに囁かれているらしいけど、やはりあるようだ。


「ちなみに、だけど。熟練度が設定されているスキルはエクストラ・スキルだけよ」

「へぇー」

「へぇって、ずいぶんと他人事(ひとごと)だけど、『浄化』がそうなのよ!」

「はぁ」


 他人事だと言うけれど、『浄化』がエクストラ・スキルってのを忘れていたってのが大きい。


「ま、いいわ。あなたが取得するまで付き合うわ!」

「えー」

「えー、ではありません! ほら、行くわよっ!」

「行くって、どこに?」

「外に決まっているでしょう!」


 そう言って自称・妖精はどこかからだしたやはり緑色の杖を振った。

 すると杖の先からキラキラした光が出てきて、目の前の風景が変わった。


「ここは……」

「村長の屋敷よ。まずはここを『鑑定』しまくって、ついでに汚れているから『浄化』しておいて」


 いつもは鎧を着ているエルフの門番のお兄さんたちがいない。

 門番たちだけではなく、どうも屋敷の中にも、村の中にも人の気配がない。


「ここはどこなの?」

「ディシュ・ガウデーレの影よ」

「影」

「あなたにも分かりやすく説明すると、表の世界が光ならば、ここは太陽に照らされて出来た村の影の部分。ここを『浄化』すれば、本来の光の部分で問題が起きているところが解決するわ」


 ということは?


「この影の世界全体を『浄化』しろと?」

「そういうこと。ま、後で元の世界に戻ったときに、光の世界も『浄化』しないと意味がないからね」


 良く分からないまま、私は妖精に言われるがままに『鑑定』と『浄化』をしていった。

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