第二百十九話*《三十三日目》オレを差し置いてイチャつくな
キースはきののとのここをインベントリに片付けずに、懐に入れていた。
『キースさん?』
『インベントリに入れておくとまた増えるかもで危険だろ』
『そうかもDeathけど』
すでに猫に犬、鳥にひしゃくまであるのに、これにキノコなんて、なんというか、賑やかすぎではないだろうか。
『……殺すな。とりあえず、こいつらは戦力になりそうだからな』
『戦力』
猫……以下略は戦ってくれませんけど?
私の考えを察したフェリスたちが抗議の声を上げた。
『フェリスは首巻きだにゃあ』
『わたしはリィナリティさんとともに!』
『ぼくは偵察を』
『戦闘力は皆無なのだ』
元から戦力としては見ていないから、今さらそんなことを言われてもって感じである。
それにしても、アイは素直すぎる。
『戦力といっても、直接戦うだけではないぞ』
『そうなのですか?』
『戦闘のサポートも重要だろう』
それは十二分に理解しているつもりだ。
フェリスとイロンはともかく、オルドとアイはゲーム側……というと変だけど、プレイヤー側ではないので戦闘等で使用するのはかなり憚られる。
だからって、イロンはともかく、フェリスを戦闘に使用するのって……。
はて? 使い道は?
『キースさん』
『なんだ』
『私たちがフェリスを連れている意味ってなんでしょうか』
『にゃにゃにゃ! リィナリティ、ひどいにゃ! フェリスも役に……』
『立ってないわよね?』
『にゃぁ……』
あ、すねた。
『リィナ、そんな効率厨みたいなことを言うな』
『いやまあ、そうなんですけどね……』
いかん、いかん。
いつの間にか私まで効率厨になっていた……。
効率的に遊ぶのも、それはそれでいいと思う。
でも私は、どうせなら隅から隅まで遊びたいのです!
『ということだ、フェリス』
『にゃあ……。キースはやさしいにゃぁ』
『…………』
『ほら、リィナ、フェリス。握手して仲直り』
『べ、別にケンカをしたわけでは……』
『ケンカではないかもだが、わだかまりを残したままってのはやだろう?』
キースの言うとおりだったので、首にいるフェリスに手を伸ばすと、フェリスも手を伸ばしてきたので握手をした。
『フェリス、ごめんね』
『フェリスも悪かったにゃあ』
『おまえら、なにが悪かったのか、理解しているか?』
『えと? フェリスが戦力になってないってところ?』
『にゃあ?』
フェリスはマスコット、ってことで私の中で片を付けようと思っていたのだけど、ダメなのかしら?
『それぞれに役目ってものがある。その役目以外を期待したらだめだ。わかるか?』
『……なんとなくなら』
『オレが上総の役目をできないのと同じように、上総にはオレの役目はできない』
『そう、ですね』
『上総に莉那は渡さないからな』
『え? そんな話が出てるのですか?』
『例えだ、たとえ』
いや、それにしてもとてもそうには聞こえなかったのですけど。
『……ともかく。またナメコが復活しているな。乾燥ナメコをもう一巡作って、なくなった隙に進むぞ』
『あいにゃ……』
乾燥ナメコづくり、またやらないとダメなのね。とほほ。
◇
乾燥ナメコ地獄からようやく脱出しました。
次はナニが来ても大丈夫!
……たぶん。
そう思いながらイロンをギュッと握った。
『リィナリティさん、痛いDeathっ!』
『あ、ごめんね。……でも、殺さないで』
『むしろわたしが握り殺されそうDeathよ!』
『そ、そうね』
『そこ。オレを差し置いていちゃつくな』
キースの突っ込みに、思わず顔が引きつった。
『……やはり抱えて移動するか』
『えと、いや、それだといきなり敵が出てきたとき、対応できないので……』
『問題ない』
キースはクルリと振り返ると、私の肩をつかんだ。
『あの、キースさん? 本気ですか?』
『本気だ』
普段ならおとなしくというか、気が付いたらなんだけど、今回はさすがに危ないと思うのですよ!
だから首を振って拒否をした。
『戻ったらその、麻人さんに甘えますから、……今はっ』
『本当だな?』
キースがかなり食い気味に顔を近づけてきて聞いてきた。
『本当に、莉那から来てくれるんだな?』
『え……、は、はい』
『それならば、致し方ない』
とあっさりあきらめてくれた?
あっさりというか、先送りにしたせいで大変なことになりそうな気がしないでもないけれど、そこは仕方がない。
自分から甘える、なんてことをしたことがないから、どうすればいいのかさっぱり! まったく! わからないのだけど!
そこはもう、どうにかなるというか、どうにかするというか。
とにかくどうにかキースの後ろをついていく、という形は保たれた。
ナメコ畑(?)を抜けた先は、細い通路だった。
たまに振り返ってみるけれど、他の道とは違って一本道だ。
『そういえば』
『はいにゃ?』
キースは前を向いたまま歩きながら口を開いた。
『今、思い出したんだが、これらのダンジョンなんだが、攻略されるとダンジョンが再構築されて形が変わるらしい』
『……んにゃ?』
『今の形は手つかずでだれも攻略していない状態だ。だから妙にモンスターが強かったり、間隔が狭かったりと変な形になっているようだ』
『え、ということは』
『マッピングしても意味がない、ということだ!』
『えええええ! なんだってええ!』
『……といっても、する意味がないくらい、単純な作りなんだがな』
な、なるほど。
それでマップを見ても端にしかなくて、変な作りだなと思っていたのですよ。
『という話をしている間にどうやら最後の砦であるボス部屋の前についたようだな』
『ぉ、ぉぅ』
『ボス部屋の前にセーブポイント……というと違うが、もしも負けた場合、戻ってこられるポイントがある』
『そんな便利なものが!』
『ここまで来るのが大変だったからな。また一から攻略となったら、さすがに心が折れる』
『そこまで運営は意地悪ではなかったのですね』
『まあ、そうだな』
負ける気はさらさらないのだけど、万が一にも負けた場合、またあれをたどってここに来なければならないのかと思ったら、さすがに辛いと思っていたので、そういうのがあって助かった。
『さて、そこにいって登録をしよう』
『あいにゃ』
まずはボス部屋の入口を確認、と。
白い壁に囲まれていて、青い両扉で色とりどりの貝殻が飾られたところだった。
なんか急にメルヘン?
『リィナ、こっちだ』
部屋を確認していたら、キースに腕を引かれた。
そちらに視線を向けると、床に白い貝殻がタイルのように敷かれたところがあった。
『そこがリターンポイントだ。一度、輪の中に入っておけ』
『あいにゃ』
キースに促されて、輪の中に入った。床がかすかに白く光り、目の前に『登録完了』の文字が浮かび上がったので、登録されたのがわかった。
『よっし! これでいけるっ!』
『死んだらペナルティで経験値を失うから、気をつけて』
『でも、ここに戻ってこられるのよね?』
『うん』
『それならば、戦うまでっ! 経験値はまた稼げばいいっ! 行くわよ、イロン!』
イロンとばかり話をしていたからなのか、キースがなぜか私の頭をわしづかみにしてきた。
『にゃにゃにゃっ?』
『ここで新作……、だと……っ!』
なにやら謎の感動をしているのだけど、あのぉ、私の頭をわしづかみにしたまま感動するの、止めてもらえませんかね?




