第二百十七話*《三十三日目》フリーズドライ
モヤモヤした気持ちのまま、フィニメモにログイン!
午後の部です。
午前中の話し合いの後、お昼まで時間があったのでログインして、一時間のダンジョンには行って来ました。
なので、午後からは昨日の続きです。
昨日と同じフローライトダンジョンへ。
入って少し進むと、昨日倒したカタツムリが復活していた。
いやまあ、復活しなければそれはそれで困るんだけど、またこいつを相手にしなければならないのかと思うと、少しだけウンザリする。
スキップ出来ないかなぁ……。
『戦いたくないでござる』
『ワープ機能はないからなぁ』
『ないのですね』
倒すと蒸し暑くなるのがとってもやなのですよ、カタツムリ。
だけど仕方がないから粛々と『乾燥』&『癒しの雨』で進んでいく。
次は巨大ガエル、水たまりゾーンとこなし、ようやく昨日の終わりの場所まで移動できた。
とそこで気がついたことが。
『確認してませんけど、カタツムリ他はアクティブモンスターですか?』
『……言われてみれば、確認してないな。だが、水たまりの中のはリィナが覗き込んだときに水を掛けてきたから、アクティブではないか?』
『なるほど。……とはいえ、カタツムリと巨大ガエルがノンアクティブだったとしても、あのぬるぬるでぬめぬめの横を通ったり、カエルなんてどう見ても接触しなければ通れないので、どのみち倒さなければいけないのか』
『そうだな』
ダンジョンの悪いところは作りによるけど回避できないってところがよくないわよね。
『到達したところまでのショートカット機能が欲しい』
『ワープ、スキップ、ショートカット、残念ながらそんなオフラインゲームの便利機能みたいなのはないな』
『むぅ』
『あぁ、階を攻略すれば別の階に飛ぶことは出来るな』
『なんと!』
それ、早く教えてよ!
『しかし、このダンジョンはモンスター配置がおかしいな。明らかに多すぎる』
『言われてみれば、そうですね。それほど移動しなくてもモンスターにエンカウントしますね』
意識してなかったけれど、言われてみればあまり進んでないような気がする。
到達するとマップに自動的に表示されるようになるのだけど、そこまでたどったルートまでは記録してくれない。
あ、そういえばルート記録は出来たはずだけど……。
機能説明を読むと、ひとつしか記憶してくれないようだ。
なにかおかしいなぁとは思っていたのですよ。
ほら、私、方向音痴ではないですか。だからルート記録をマメにしていたのだけど、前に記録したものを探してもないのですよ。
保存を忘れていたかなぁとずっと疑問に思っていたのだけど、ひとつしか記録しないとなると、容赦なく上書き保存なのね。
そうとなれば、ルートに関してはキースが記録をしてくれている、はず。そちらを頼りにしておこう。
マップを開いてみると、端だけが表示されていて残りはなにもない。ということでまったく進んでいないことが分かった。
『これは……』
『公式掲示板の攻略情報を見ると、攻略組でさえ巨大ガエルで断念している』
『地域ボス連戦ですからね』
『廃人組は効率の悪さにカタツムリ数匹で止めているようだ』
『え? ということは、私たちはこれでもとても進んでいるということですか?』
『そうなるな』
なんということでしょうか……!
『他のダンジョンに行ってないので分からないのですけど、他もこんなに意地悪な作りなのですか?』
『意地悪というか、捻くれてるというか。どのダンジョンも癖が強いな』
『あぁ、癖が強い! 分かりました!』
そこは納得したのだけど、納得したからといって、進みが早くなるなんてことはなく。
ただひたすら、ぬるっとしてたり、ぬめっとしてたり、どろりとしてたり、ネトネトしてたり。
とにかくこのダンジョン、ひたすら粘着質なモンスターばかりが出てくるのですよ。
粘着質なので、水っぽいのばかり。
その割には『乾燥』が通りやすかったり、はたまたまったく通らずに『乾燥・解』を使うしかなかったり。
これ、メモをしておかないと覚えられないです。
『それにしてもこのダンジョン、攻略できるのですかね?』
『あぁ、思い出した』
『うにゃ?』
『だれかが攻略をしない限り、強いモンスターしか出てこないと聞いたな』
『ということは?』
『攻略すればもう少しまともになる』
『でもきっと、モンスターの種類は変わりませんよね?』
『変わらないだろうな』
他のダンジョンに行ったことがないので比較対象がないのだけど、これは攻略前ダンジョンだから大変なのだということが分かった。
『攻略はフロアごとになっている。上階への階段手前の部屋に階層ボスがいて、それを倒せばその階は解放される』
『今日はこのフロアの解放まで頑張りましょう!』
『無理しない範囲でやっていくか』
『はいにゃ!』
それにしても、ここは本当にダンジョンと呼べるのだろうか。
モンスターが固まっていて、倒して少し進むと次の団体がいる。
ダンジョンってくねくねしてたり、変にループしたり、左右どちらに行けば迷う造りになってるという認識でいたのだけど、ここは曲がることはあるけれど、左右どちらかにしか曲がり道がない。
要するに一本道なのだ。
『今、気がついたのですけど、一本道ですね』
『気がついたか。マッピングする意味がないほど一本道……のように見せかけて。リィナ、振り返ってみろ』
『にゃ?』
キースに促されて振り返ると……。
『え? 道が枝分かれしている……?』
『そうだ。一番嫌な造りだな』
なんともまあ、やな造りだ。
『オレたちは前のみ見て行けばいい』
『そう……ですね』
まずは攻略。
帰るときは『帰還』で帰ればいい。
だから前だけ見ることにした。
ダンジョンは奥に進むほど湿度が上がってきたような肌感覚だ。それとともに、気温が下がっている。
『少し肌寒くなってきましたね』
『そうだな』
慎重に通路を進み、角を曲がると少し広場的なところに突き当たったのだけど、モンスターらしき影はない。
広場を見回したけれど、壁にも、天井にも気配はない。
しかし床は茶色で……。
『ぬ、ぬめぬめな床……?』
『いや、違うぞ。よく見てみろ』
床を見つめると、なにかと視線が合ったような……?
『────っ! てか、キノコっ? いや、あの茶色くて丸っこくてぬめっとした見た目は……ナメコっ?』
『ナメコ、だな』
こんなダンジョンの床にナメコが密集して生えているのも意味が分からないし、しかも視線が合ったような気がしたのだけど、そもそもキノコに目ってあるの?
『キノコは菌糸の集合体だからな。植物とも、動物とも違う』
『菌類……? 生き物、ですよね?』
『生き物の定義はなにかと言われると困るが、生きているのだろう』
生き物の定義、か。
ずいぶんと難しいことを言うのね。
『どうする?』
『ナメコを『乾燥』しても、シイタケみたいに乾燥ナメコにはなりませんよね?』
『聞いたことないな』
そもそもナメコはシイタケに比べても遥かに水分量が多い。
『……いや、乾燥ナメコはあるな』
『え?』
『フリーズドライのナメコの味噌汁があるよな』
『言われてみれば。……だけど、まさかキースさんがそういったものを知ってるなんて意外です』
『大学の時に楓真に誘われてキャンプに行ったことがある。そこで食べたんだ。すごく美味しかったな』
『楓真とキャンプなんて行ったことがあったのですか?』
『あぁ。社会勉強だと言って連れて行かれた』
さすが楓真、変に面倒見が良い。
『勉強になりましたか?』
『なった。しかも楽しかったから、それから何度か連れて行ってもらったよ』
楓真はあまり家にいなかったから、そんなことをしていたということを初めて知った。
『ということでリィナ。あれをフリーズドライにして持って帰ろう』
『ええええっ!』
なんか急にクエスト? が発生したよ!




